第151話
ウーヌの使節団が帰って三ヶ月ちょっと。
その間も国内各地からはこの間の大雨による自然災害の被害が続々と届いて、ゲオルグ陛下率いる文官勢は連日連夜大忙しである。
といっても騎士や一般の兵士たちが暇してるのかって言ったら勿論そんなこたぁない。
文官たちが被害状況報告に合わせて必要な物資を運んだりするのにも輸送隊は基本兵士側なのだ。
勿論、護衛も。
こういう非常事態の時にはどうしたって人の心がやさぐれることは、もう戦時中みんな体験してきたことだ。
あの頃に比べてマシだろって笑い飛ばしてくれる人もいれば、あの時みたいにひもじい思いをするかもしれないって恐怖体験や、諸々……うん、まあ、ね?
人間が百人いれば百人の考え方ってのがあるからさ、しょうがないと言えばしょうがない。
だから王国の紋章つけた兵士がババーンと護衛についていれば、みんな安心するってわけよ。
国からの支援物資が来る、国がちゃんと国民を守ってくれてる……ってね。
で、アドルフさんと私が外出先で苦労したことを踏まえて、ゲオルグ陛下は王都周辺の担当にしてくれたんだけど……これはこれでね、王都でも不安が広がっているからひったくりとか小さな犯罪が増えていてみんなてんてこ舞いなんだよね……。
そういう捕り物とか取り締まり的な方向では私はまるで役に立たないので第五部隊の宿舎で料理番に交じってお料理するか、王都に点在する協会に行ってカウンセリング的なことをしている神官たちのお手伝いをするかってな感じなんだけど。
「……割と私も忙しくしているんですけど、ここに呼ばれたってことはやっぱり碌でもない話だったりします?」
「到着早々、礼儀のなっていないのは相変わらずだな最弱聖女」
「これは失礼致しました。私的な場への案内でしたので、気楽に接して良いとのお言葉を鵜呑みにしておりましたので……王国の父たる陛下に聖女イリステラがご挨拶申し上げます」
「今更だろう。まったく……貴様でなかったら首を刎ねてやるとまではいかないが、鞭の一つもくれてやるところだぞ」
「あらあら、陛下ったら。イリステラが来るのを楽しみにしていらしたのに素直じゃないんだから……ごめんなさいね、イリステラ」
「いえいえ、気にしておりませんから~」
「ええい勝手に決めつけるな! 断じて! 違うからな!?」
おっとりと微笑むアニータ様は正式に王妃になってからはなんというかこう、人妻の色香っての?
相変わらず筆頭聖女としての神々しさはあるんだけど、そこにこう……流し目だったり微笑み一つで老若男女問わず魅了しちゃうんじゃないかっていうナニカが漏れ出ているっていうかね?
世間一般では前を行く国王陛下と奥ゆかしい王妃様で通ってるんだけど、私のように一部の人間は国王夫婦の可愛いやりとりが見られるこのギャップ萌えよ……。
アニータ様のこの包容力たっぷりの微笑みに陛下が厳しいお顔も崩れちゃうこの姿! 非常に萌えるね!!
陛下も陛下で『お前じゃなかったら鞭打ち』とかなんとか言ってるけど、この私的な場所は本当に陛下が素で話せる人しか招き入れないから結局そんなこと起きないんだよねー!
ただ友人っていうには恥ずかしくてツンが出ちゃっただけなんだよねー!!
男のツンはでもそんなに私には刺さらないので、もうちょっとなんとかならんかなとは思うけど。
あ、でもアドルフさんだったら別腹……いやでも今のデレデレのアドルフさんにどっぷり甘やかされることが幸せなのでアドルフさんにツンになられたら私泣いちゃうかも。
「それで、今日はどうなさったんですか?」
「……例の、ウーヌの元神官のより詳しい調書が上がってきた。内容は相変わらず意味不明な点が多いが、聖女の能力や先の未来の話など一部正しい情報が混じっている」
バサリと私の前に投げ渡された調書。
持ち出し禁止のマークがついていて、ゲオルグ陛下たちは相当この件を重く見ているようだ。
「拝見しても?」
「かまわん」
パラパラとめくり、彼女の供述を日付順に見ていく。
反抗的だった様子、恨み辛みのページはすっ飛ばして私は目的のところだけをかいつまんで読んだ。
(ああ……)
彼女の語った事実は、確かにその通りだなと思う。
ゲームの内容だったから。
そして続編の内容も、割と事細かに話している。
残念ながら私にはこの続編とそれからスピンオフの内容について正しいかまではわかんないんだけど……やっばこれお宝じゃん!
少なくともゲームファンからしてみたらファンブック手に入れたような感じなんだけど!!
いや実際には廃盤のファンブックを読んだ人から情報をもらってキャッキャしている気分……?
(でもそりゃあゲオルグ陛下も心配になるよねえ)
だって続編とスピンオフ、国外のことだしね!