第130話
私たちはまたこの宿屋に戻ってくることを前提に、最低限の装備を持ってそっと外に出た。窓からそっとね!
ざぁざぁと相変わらず雨は降っていて、町中に人が出歩いている様子もない。
天候が悪いから……というにはあまりにも不自然なその光景に、私もアドルフさんも目を細める。
(視界の悪さと、どこに行くのが一番いいのか……)
作戦を立てるのも、前を走るのもアドルフさんだ。
戦闘力の違いだし、そもそもゲームシステム的に言えばアドルフさんは前衛職、私は支援職だから一般的な布陣と言えばその通り。
対複数、殺傷はなるべくなしの方向となるとなかなか難しい話ではあるけど、この悪天候はある意味で言えば私たちの味方でもあると言えた。
こちらは獣化しても聖女がいる限りその回数は無尽蔵、能力は最大値まで引き出せている状況だ。
対して町の人々は暴走の可能性があることから、アエスさんだって獣化させはしないだろう。
精神干渉がどの程度なのかにもよるだろうけど暴走した人まで操れるとは思わないから、そうなったら諸刃の剣だからね……。
彼女も私と同じで戦闘力はなさそうだし、そんな愚は犯さないはずだ。
……だよね?
彼女のあの考えなしっぽいところに不安要素がたっぷり詰まってそうだけど!!
「イリステラ」
「はい」
アドルフさんが私を抱きかかえて、地面に降り立つ。
私たちの部屋は二階にあったからね、正規ルートじゃないんだからそうせざるを得ない。
雨だってのに音もなく私を抱えたまま降り立つ推し、なんてかっこいいんだ……!
ふわっだったよ。ふわっ!
まあ私も私で神官が使う気配を消す魔法をちょちょいと使っているから、でもあるんだけど……。
それでもかっこいいよね! めっちゃかっこいい!
はあ~、私の推し、どこまでも推せるわ……。
ちなみにこの気配を消す魔法だけど、姿や音が消せるわけではなく『なんとなく気づかれにくく』なるって魔法なのだ。
ほらよくあるでしょ、隣にいたはずの人が移動したけど音がしなかったから「あれ、いつの間に……」みたいな。
あんな感じのヤツ!!
戦場で非戦闘員が隠れて難を逃れるために編み出された術らしいよ。
先人よありがとう。
私の魔力が底辺じゃなかったら他人にもかけられるんだけど、残念ながら私は底辺聖女なので自分ともう一人くらいだってことはこの際置いておく。
「……本気で俺たちを狙っているようだ」
「えっ」
「見てみろ」
宿屋の窓から内部を伺っていたアドルフさんが私に示したその先には――武器として包丁を持った旦那さんと、それから棍棒を持った女将さん。
そして怪我をして寝たきりの人たちが、それぞれの武器を携えている姿だった。
その目は虚ろで、まるでホラーゲームのアンデッドのようだ。
幸いにも私の術だけでなく、彼らへの精神干渉がそうしているのか注意散漫な様子でこちらに気づく気配はない。
「……もう一組のご夫婦はご無事でしょうか」
「あの神官の狙いはあくまで俺たちだ。他の人間を害するよう働きかけるのは最終手段だろうな。俺が気にするのはイリステラだとあちらもわかっているだろう」
「……はい」
アドルフさんは、優しい。
優しいからこそシビアなところがあって、優先順位を立てた時に私と他の人たちだったら私のことを迷わず選んでくれるだろう。
罪悪感を背負いながら。
そういう人だって、アエスさんもわかっているはずだ。
何せ彼女は『ゲーム設定通りの不幸なアドルフさん』が好きだと明言していたくらいだしね!
「先に神官たちの様子を見に行く。出会う人間は全て敵と思い避けるか、あるいは速やかに排除する。イリステラは手を出さず、俺の支援に回れ。いいな?」
「はい!」
ここのところ王都で平和な暮らししていたから、隊長としての指示を飛ばすアドルフさんを見て緊張した。
いや同時にときめいてはいるけども!
相手が罪のない民間人だって思うと、私も神官の一人として頑張らなきゃって思う程度には神官だからね!!




