第129話
ジャンさんは入るなり扉を閉め、私を見てぺこりと頭を下げてからアドルフさんに背負っていた荷物を差し出した。
アドルフさんもそれを無言で受け取る。
それから獣神部隊の隊長として行動を許可するという書状を渡され、現状の説明を受ける。
「変わらず悪天候のせいで各地の橋や道路が危機的状況のため、各地への支援が遅れている状況です。ここに来るのも単騎でならばなんとかなりますがそれ以上は厳しく……」
「いや、装備を持ってきてくれただけで助かる。こちらの状況も伝えるが、戻れそうか?」
「はい。隊長格の通信機は使用可能とは思いますので他にもわかり次第連絡をしていただけると助かります」
「わかった」
アエスさんが何かしらの元凶であること、精神干渉の能力である可能性が高いこと、この町の人間は何かしらの影響を受けていること、挑発したので何か行動を起こすであろうこと……それらについて私たちはジャンさんに伝える。
ジャンさんも話を聞いて頷き、私たち夫婦を離婚させた方がいいなんて話は近隣の町で聞いたことがないので、この町に限定されたものだろうと語ってくれた。
「精神干渉の能力であるとするならば、なんとも恐ろしいことです……本人の意思と思わせたまま、妙な行動を起こさせるということでしょう?」
「そうですね、今の段階では私たちに離婚を勧めてくるだけですが……実力行使の可能性もありますから」
そうだ、悪意なく『それが当然』という意識を受け付けるのが今はまだ私たちの破局を願うだけならいいけれども……そこに実力行使が伴うようでは、実行した人だけが咎められることになる。
アエスさんは安全なところから高笑い、なんて許せるはずもない。
「陛下より、火急かつ速やかに、疑わしき者を捕縛せよとのことです。たとえそれが他国の者であっても責任は問うことはないので、ミュラー隊長の判断に委ねると」
「……拝命しよう」
「また、増援を送りたい気持ちはあるが、未曾有の大災害を前に後手に回っていることを詫びると……そのように仰せでした」
「お心遣いに感謝すると……それから、こちらは気にせず民へご注力くださるよう伝えてくれるか」
「承知いたしました。それでは急ぎこの町を出ます」
「ジャンさん、お気をつけて……」
「ありがとうございます。……お二人も、ご武運を」
必要事項だけお互いに話し合って、ジャンさんは来た時と同じようにフードを深く被ってするりと部屋から出て行った。
雨の中大変だなあと思うけど、お互い無事に再会できるといいなと願うばかりだ。
「それじゃあ着替えて私たちも備えないといけませんね!」
「ああ」
ジャンさんが持ってきてくれた装備には、私の聖女としての制服も入っていた。
特別効果があるわけじゃないけど、やっぱ気合いの入りようってモンが違うんですよ、ええ!
あちらが改造神官服(?)ならこっちは正統派(?)聖女服で勝負!!
……なんて馬鹿な冗談はさすがに言っている場合じゃないってわかってますとも。
ゆったりしている場合じゃないと今着ている服に手をかけたところで、ジッとこちらを見るアドルフさんの視線に気づく。
夫婦になってそれなりの時間を共に過ごしているし、同じ部隊で同じテントを使ったことは何度もあるし、今だって同じ部屋なのだから着替えの一つや二つどころではない回数、お互い見てきた。
ほら、まあ、それ以上もごにょごにょ。
「……なんですか?」
「いいや。せっかくの旅行だというのに、色気のない話だと改めて思っただけだ」
大きなため息を吐くアドルフさんは珍しくて、脳内カメラが今日もいい働きをしているよ! はあ、ため息を缶詰にできたらいいのにね!!
まあ、私も同じような気持ちですけど!
「とりあえず、着替え凝視しないでいただけますか……」
「なんだ、せっかく手伝おうと思ったのに」
「必要ないですから!」
そうだった、この人お世話したがりだったわー!!




