第121話
「今はね、正しくない世界だから。きっと神様はね、それに怒っているのよ」
可愛らしい笑みを浮かべたままアエスさんは私たちを見る。
その目は表情とは裏腹に、笑っていない。
何かじっとりとしたものを感じて、私は思わずアドルフさんの傍に寄る。
「そうでしょ? 戦争の英雄、オーベルージュきっての武人アドルフ・ミュラー。そしてそんな夫を支える聖女イリステラ……」
まあ気づいているだろうなとは思ったよ。
思っておりましたとも。さすがにね!!
だって私はともかく、アドルフさんだもの。
私の最推し、アドルフ・ミュラーの輝きは隠せないよねえそうだよねえ!!
誰が見たってかっこいいし面倒見もよくて物静かで頼りがいがあるアドルフさんだもの。
たとえ文字でしか情報を知らなかったんだとしても『もしかして……?』って思うに違いないほどうちの旦那様は素敵な男性だからね!!
そしてたとえば……そう、親しい国同士でなくとも、将軍格ともなればある程度情報収集はされているだろうし、その妻もまた調査対象として調べられている可能性だって勿論、ある。
まあ単純にアドルフさんが判明すれば、芋づる式にその隣にいる平凡な女が妻の聖女イリステラだってバレるって寸法よ!!
ははっ……私だけだったらきっとバレてなかった。
うん、そこは自信ある。悲しいけど自信ある。
「アタシぃ、神殿じゃあ『予言の神子』って呼ばれててえ」
アエスさんはくるくると指先に髪を絡めるようにして言葉を続けた。
その表情はとてもじゃないけど神官って感じじゃなくて、すっごく悪意に満ちたものだ。
「アドルフ・ミュラー。本来アナタ、死ぬ運命だったんですよう。それなのにそちらのイリステラさんが奇跡だかなんだか知らないけど、運命に介入しちゃって……そのせいで世界の流れが歪んじゃってるんですう」
内心ギクリとしたのはしょうがない。
だって私がストーリーの流れを変えて大団円にしちゃったのは事実だ。
でもあれはあくまでゲームのストーリーであって、こういう未来だってあり得たよね? って私の中では完結している話なのである。
(だって本当に運命が決められていたなら、私がいくら頑張ったってアドルフさんはエミリアさんと結ばれていたし、どうにもならなかったはずだ)
でも現実の、私の隣にいるアドルフさんは私に心を許す前からエミリアさんに対して特別な感情……罪悪感は別として、とにかく恋情とかそういったものは抱いていなかったしなんだったらちょっぴり嫌悪を覚えていたようにすら感じた。
(あくまでエミリアさんに対して寛容だったのは、エミリアさんを大事にしていたダンさんのためだったわけだし……)
そう考えたら運命なんてやっぱり決まっていない。そう思うのだ。
もし決まっていたとしてもねじ曲げてやんよ! って気合いと根性入れていたわけだから、私は現在の状況に大満足である。
それについてケチをつけられても困るって言うか、外野が何を言ってんだって少しくらいムッとしても許されるでしょ?
鏡を見なくたってわかる。
今、私の眉間はめっちゃ皺寄ってる。
「……俺が死ぬはずだったと?」
「そうですー、その通りですう」
「……なら、イリステラは俺にとっての幸運の女神ということか」
「ふぁっ!?」
ぐいっと腰を抱かれるようにして、いやあの密着嬉しいけどスープ持ったトレイはめっちゃくちゃ安定してますねさすがの体幹! さすがアドルフさん!!
抱き寄せられて半ばパニックになりつつ、なるべく平静を装う。
対面するアエスさんはとっても不満そうだ。
(……もしかして、同担拒否勢とか……!?)
おおっと、こいつあ参ったぜ!!




