残暑見舞いぃ〜&長編小説:巻き込まれアラサー番外編
残暑見舞いでござんすよ。
きっと背景はこんな感じ?
唐突に始まる、本編に載らなかった番外編!
(連載小説未読の方は、何のこっちゃかと思いますので、知らん顔しといてください(ˊᗜˋ*)
巻き込まれアラサーの魔女と聖女
番外編
たぶん650話〜655話の間くらいのやつ。
――とある夏の日。
「あっついなー」
パチパチ音を立てる鍋の前に立ち、腕で汗を拭う月華とこども魔物たちは、台所で食事の支度をしているのだ。
ヘビ太が熱がこもらないように、扇風機代わりの風魔法を月華に送っているが、それでも汗だくだ。
送られる風は魔法でうまく調整しているので、かまどの火に影響はない。
今日は快晴で暑い。
日本で住んでいたところに比べ、湿度が低く気温も低めではあるが、暑いものは暑い。
そこで、ヘビ太はご飯支度が終わったらの行動を提案する。
「ほんなら、お庭で水浴びするか? それとも地下のお部屋で遊ぶか??」
「水浴び、あとでするかー」
水浴びに票が入った。
カラ助は自分の出番だね、と目を光らせる。
食事の支度が終われば、月華・ヘビ太・カラ助は庭に出て、水浴びを始める。
「んはー! カラちゃん虹さんも出せるなんて、すごいなぁ!」
「ホント、上手だな!」
水魔法を撒き散らして出来る虹に月華とヘビ太は拍手を送り、その水を頭から浴びている。
「何してるのよ……ビチャビチャになって……」
自室のテラスにあるテーブルセットにて、新しい仕事のネタはないか考えていた楓の視界に入ったのは、水遊びするやせいたち。
「水浴び!」
「そりゃ、そうでしょうけど……。ってか涼しそうに見えてくるわね……」
元気よく答える月華に、楓は呆れながらも羨ましさを覚えるが、楓はラフな服ではないので、自分も水を浴びたい、と声にはできない。
月華は麻の半袖半ズボンという夏らしい格好で、しかも裸足。そして水びたし。
「ツキカの部屋にある、ユルっとした服着てくればええやろ」
「一応軽くだけど化粧もしてるし、遠慮するわ……」
魅力的な提案に乗っかりたかったが、グッと堪える楓の眉は下がり気味。
ホバリングして水を降らせていたカラ助が降りてきて、楓に身振り羽振り、アホ毛ぴょこぴょこで何かを訴えている。
「カラ助が、足元だけでもお水掛けられるから、着替えてこい。ってさ」
「わ、わかったわ!」
月華の通訳で、カラ助の訴えを受け止めた楓は、カラ助からのお願いという大義名分を得たので、月華の服に着替えてきた。
この国では、足を出すのは露出のしすぎで恥ずかしいという風潮だ。
夏でもロングスカート。短くて膝下くらいだが、その時は長い靴下やレースのストッキングなどで隠すのが一般的な服装だ。
けれど、日本で暮らしてきた楓と月華に、その感覚はない。が、アレクライトとゼランローズに迷惑かける事になるので、外ではしないように気をつける。
今日は家の敷地内だからいいのだ。
新居の敷地は広くなり、塀も高いためご近所さんに見られる事などなく、足を出しておける。
「カエデちゃーん、お靴脱ぎ〜や」
「はーい」
テラスは石畳。そこで靴を脱ぎ、庭の芝生に素足を下ろす。
「……土の上を裸足で歩くなんて、久しぶりだわ!」
小学生の時に、友達同士のノリで靴を脱ぎ捨てて公園で遊んだり、友達の家の庭にあるビニールプールで遊んだ時の記憶がふんわり蘇る。
カラ助は楓のそばにぴょこぴょこやってきて、庭のベンチに向かって羽を指す。
そこは木陰になっているので、今日みたいな暑い日にはちょうどいい涼み場所だ。
ベンチに腰掛けた楓へ優雅に向けて羽を振るうと、水魔法が出てきて、楓の足を包んだ。
しかも、流れがゆっくりな小川のような、水流まで発生している。
足湯ならぬ足水で涼ませてもらう。
「すごいわね、カラ助君!」
照れながらのドヤ顔を決めるカラ助。カラ助の仕草に思わず笑みが漏れる。
「冷え冷えにならんよう、温度も調節済みやて」
末端冷え症である楓を気遣ったようだ。
ヘビ太は楓の足を包む水へ尻尾を入れて、温度を確認してカラ助に向かって頷いている。
「っはーーー!」
月華は月華で、滝行のような水浴びをしている。
全身ビチャビチャだが、全く気にしないようだ。
「家におらぬから、何をしてるのかと思えば……」
「ただいま。ホントに何してんの……特にツキカ、お前な!」
ゼランローズとアレクライトが買い物から帰ってきて、家に誰もいないし、外から声が聞こえてくるので、庭に出てみたら、ベンチで足を出しながらくつろいでいる楓、そのそばにヘビ太。
そして、何故か全身ビチャビチャの月華とカラ助。
「水遊びだ!」
「水遊びってのは、カエデがしている状態のやつ! お前のは滝行だろ!」
元気に答える月華。アレクライトがたまらずツッコミだ。
「よし、夜は納涼まつりでもするか!」
「え?! お祭り?」
また突然思い立つ月華に、ゼランローズとアレクライトは首を傾げるだけだ。
楓は日本でのお祭りを思い出し、声が少し踊る。
「祭りといえば?」
月華の雑なフリに、楓は記憶を辿り答えていく。
「えーと……花火に浴衣……あとは、わたあめ、焼きそば、たこ焼き、イカ焼き、りんご飴、チョコバナナ、ヨーヨー、金魚すくい……かしら?」
ほとんどが食べ物だった、と楓は思うが、そこは口に出さないでおく。
月華はうんうんと頷いて、指を折っていた。
「よし、近いものはできるな! 楓、製図アプリ出してくれ! アレクに画面共有よろしく」
「わかったわ」
楓は具現魔法で製図ソフトをタブレット型で作り出すと、月華は指でサクサク絵を描いていく。
アレクライトは目の前に作られた別モニターの具現魔法スクリーンを眺めながら、顎に手を当てる。
「えーと……鋳物の板に、半球状のくぼみのある型でいいのかな?」
「そそ、あとは焼きそば用に、鉄板焼き出来そうなモン作ってくれ! ヘビ太、カラ助。ザラメもらっていいか?」
「えぇで! おもろーなモンになるんやろ?」
ヘビ太とカラ助はニンマリ笑う。自分たちのおやつを使ってもらう事で、どんなワクワクが待っているか未知数だ。
ザラメは、おやつを食べた後、夕飯まで時間があって口がさみしい時一欠片たべたりする、ヘビ太とカラ助のプチおやつである。
「俺は何をすれば良い?」
「わたあめを作ってもらう」
月華は手順を説明する。綿菓子製造機など無いので、全部魔法でやってもらうので、ゼランローズにしか出来ない事だ。
楓は、屋台に並ぶ出店メニューの下拵えを頼まれた。
途中、昼ごはんを食べつつも、準備をして日が沈むのを待つ。
「そろそろ、はじめるか」
太陽の位置を見たツキカは、2階にあるクローゼットから浴衣を持ってきた。
「……いつの間に全員分作ってたのよ」
「ちょっと前に、いい感じの布貰ったから作ってみた」
月華により浴衣が全員に手渡され、楓はビックリする。
そして楓は月華に着付けをしてもらう。その後髪も纏めてくれた。
「よし、あとはこれをつけて……」
ヘアピンのようにパチンと、髪に通して付けられたのは狐のお面のようなものだ。
これもアレクライトに作ってもらった。お面風ヘアピンで、お祭り気分を上げる。
「わっ、かわいい!」
目を細めている顔の、白い狐のお面は和物感たっぷりでテンションが上がる。
そして、月華も自分でパパッと着付けをして、リビングに出ると、同じく浴衣姿のアレクライトとゼランローズがいた。
「なんで、このクマが着付け出来るんだよ……」
「言わずとも、わかるであろう」
サラッと流したゼランローズは、あらかじめ用意しておいたスツールに月華を座らせて、ヘアセットを始める。
自然な流れすぎて、誰も何も違和感を持たない状態にまで日常と化したようだ。
「さんきゅー」
「うむ」
そして、ヘビ太とカラ助にもミニお面をつけてあげる。
カラ助ならばギリ浴衣が着れそうだが、ヘビ太は着れないので、ふたり合わせるならお面でと、アレクライトが作ってくれた。
夕焼け空になってきたので、庭に出る。
足元はもちろん下駄だ。
「わ、なんか変な感じ……」
下駄の感触に戸惑うアレクライト。
木の部分はアレクライトが作り、鼻緒の部分は月華が組紐をつけて作り上げた。
「よし、楓とアレクはちょっとのんびりしててくれ!」
いつの間にかたすき掛けをしている月華とゼランローズ。
屋台エリアにバタバタと向かって行った。
オーケーが出たので向かってみると、お祭り屋台のように、イカ焼きや焼きそばなどの食べ物を作っている月華、いちご飴やわたあめを作っているゼランローズ。
屋台の店員さんである。
「え、レインボーわたあめ?!」
「うむ。初めて作ってみたが、中々面白いものだ」
ゼランローズがザラメを火魔法で溶かし、風魔法で棒に巻きつけてつくっていた。
ヘビ太とカラ助のプチおやつなザラメはカラフルな物で、色付きわたあめが出来上がる。
ゼランローズは楓にそれを渡す。
ヘビ太とカラ助も、屋台ブースの隣にあるベンチでニコニコしながら食べていた。
しゅわっときえる甘いお菓子。しかもカラフルで楽しいのだ。
アレクライトにはいちご飴を渡す。
「ほいっ!」
「あ、ありがとう!」
月華からイカ焼き串を渡されて、もうお祭り感覚バッチリである。
人混みもなく庭の中をぷらぷら歩きながらだが、楓はお祭り気分を味わう。
そして、日本ではこんな感じでお祭りがあった事を伝えると、アレクライトはにっこり笑ってくれる。
「風情があっていいね。あと、いろいろ美味しい!」
「そこは月華のご飯だからじゃ無いかしら」
「それもあるけど、なんか庭で食べるのって、いつもと違う気分で新鮮」
「それはあるわよね!」
お祭りの規模にしてはちいさいが、人混みやボッタクリ価格なご飯に財布を気にすることもなく、雰囲気を楽しめるのは、とてもなつかしく楽しくありがたかった。
「ツキカはわたあめいるか?」
「わたしはまずイカ焼き串を食う。ほらゼラも」
そう言って大きな木皿に入った焼きそばに、イカ焼きをのっけたものを差し出す。
「ありがとう」
一旦調理の手を止めて、食事に入る月華とゼランローズ。
ベンチに腰掛けていつもどおりたくさん食べる。
「ニホンの祭りは風情があり、楽しいものなのだな」
「そうかなぁ。祭りなんて行かなかったから、雰囲気で再現したモンだけど……これが今まででいちばん楽しいな」
「俺もだ」
月華とゼランローズは新たに出来た思い出に、はにかんで笑う。
ある程度雰囲気を楽しんで、腹を満たした。
楓がみんなをベンチに座らせて、自分も腰掛ける。
「お祭りと言ったら、花火だけど用意できないから雰囲気だけでも!」
そう言って楓は魔力を練り、塀を越えない高さのあたりの高さに具現魔法で巨大なスクリーンを出す。
背景は透過で夜空が見えている。そこに花火の映像を映し出す。
「おぉ!!」
「わっ!」
「な、なんやの?!」
巨大なスクリーンに映る色とりどりの花火。
ゼランローズ、アレクライト、ヘビ太、カラ助はビックリしてちょっとのけ反った。
流石に音は自粛しているので、雰囲気だけね、と笑う楓。
「綺麗だね」
「そうなの。花火は遠くで見ても近くで見ても楽しめる、夏の風物詩だったの」
カラフルなわたあめを2人でかぶりつきながら、音のない花火だが一緒に眺めて楽しんでいる。
「ツキカが再現しなかったのは意外であるな」
「無理無理、火薬なんて扱えねぇよ」
ゼランローズがポツリと言うと、出来ないこともあると笑いながら月華は花火の映像を楽しむ。
こちらでも、おおきなカラフルわたあめを、いっしょにかじりついて笑い合う。
「きれいでオモロいな」
カラ助は目をキラキラさせながら、綺麗な花火に釘付けになり頷いている。
今年の夏は、各々忘れられそうもない、素敵なものとなったようだ。




