表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/76

残暑見舞いぃ〜&長編小説:巻き込まれアラサー番外編


 残暑見舞いでござんすよ。


挿絵(By みてみん)



 きっと背景はこんな感じ?

 唐突に始まる、本編に載らなかった番外編!

(連載小説未読の方は、何のこっちゃかと思いますので、知らん顔しといてください(ˊᗜˋ*)



巻き込まれアラサーの魔女と聖女

番外編

たぶん650話〜655話の間くらいのやつ。



――とある夏の日。


「あっついなー」


 パチパチ音を立てる鍋の前に立ち、腕で汗を拭う月華とこども魔物たちは、台所で食事の支度をしているのだ。

 ヘビ太が熱がこもらないように、扇風機代わりの風魔法を月華に送っているが、それでも汗だくだ。

 送られる風は魔法でうまく調整しているので、かまどの火に影響はない。


 今日は快晴で暑い。

 日本で住んでいたところに比べ、湿度が低く気温も低めではあるが、暑いものは暑い。

 そこで、ヘビ太はご飯支度が終わったらの行動を提案する。


「ほんなら、お庭で水浴びするか? それとも地下のお部屋で遊ぶか??」

「水浴び、あとでするかー」


 水浴びに票が入った。

 カラ助は自分の出番だね、と目を光らせる。


 食事の支度が終われば、月華・ヘビ太・カラ助は庭に出て、水浴びを始める。


「んはー! カラちゃん虹さんも出せるなんて、すごいなぁ!」

「ホント、上手だな!」


 水魔法を撒き散らして出来る虹に月華とヘビ太は拍手を送り、その水を頭から浴びている。


「何してるのよ……ビチャビチャになって……」


 自室のテラスにあるテーブルセットにて、新しい仕事のネタはないか考えていた楓の視界に入ったのは、水遊びするやせいたち。


「水浴び!」

「そりゃ、そうでしょうけど……。ってか涼しそうに見えてくるわね……」


 元気よく答える月華に、楓は呆れながらも羨ましさを覚えるが、楓はラフな服ではないので、自分も水を浴びたい、と声にはできない。

 月華は麻の半袖半ズボンという夏らしい格好で、しかも裸足。そして水びたし。


「ツキカの部屋にある、ユルっとした服着てくればええやろ」

「一応軽くだけど化粧もしてるし、遠慮するわ……」


 魅力的な提案に乗っかりたかったが、グッと堪える楓の眉は下がり気味。

 ホバリングして水を降らせていたカラ助が降りてきて、楓に身振り羽振り、アホ毛ぴょこぴょこで何かを訴えている。


「カラ助が、足元だけでもお水掛けられるから、着替えてこい。ってさ」

「わ、わかったわ!」


 月華の通訳で、カラ助の訴えを受け止めた楓は、カラ助からのお願いという大義名分を得たので、月華の服に着替えてきた。


 この国では、足を出すのは露出のしすぎで恥ずかしいという風潮だ。

 夏でもロングスカート。短くて膝下くらいだが、その時は長い靴下やレースのストッキングなどで隠すのが一般的な服装だ。


 けれど、日本で暮らしてきた楓と月華に、その感覚はない。が、アレクライトとゼランローズに迷惑かける事になるので、外ではしないように気をつける。

 今日は家の敷地内だからいいのだ。

 新居の敷地は広くなり、塀も高いためご近所さんに見られる事などなく、足を出しておける。


「カエデちゃーん、お靴脱ぎ〜や」

「はーい」


 テラスは石畳。そこで靴を脱ぎ、庭の芝生に素足を下ろす。


「……土の上を裸足で歩くなんて、久しぶりだわ!」


 小学生の時に、友達同士のノリで靴を脱ぎ捨てて公園で遊んだり、友達の家の庭にあるビニールプールで遊んだ時の記憶がふんわり蘇る。


 カラ助は楓のそばにぴょこぴょこやってきて、庭のベンチに向かって羽を指す。

 そこは木陰になっているので、今日みたいな暑い日にはちょうどいい涼み場所だ。

 ベンチに腰掛けた楓へ優雅に向けて羽を振るうと、水魔法が出てきて、楓の足を包んだ。

 しかも、流れがゆっくりな小川のような、水流まで発生している。

 足湯ならぬ足水で涼ませてもらう。


「すごいわね、カラ助君!」


 照れながらのドヤ顔を決めるカラ助。カラ助の仕草に思わず笑みが漏れる。


「冷え冷えにならんよう、温度も調節済みやて」


 末端冷え症である楓を気遣ったようだ。

 ヘビ太は楓の足を包む水へ尻尾を入れて、温度を確認してカラ助に向かって頷いている。


「っはーーー!」


 月華は月華で、滝行のような水浴びをしている。

 全身ビチャビチャだが、全く気にしないようだ。



「家におらぬから、何をしてるのかと思えば……」

「ただいま。ホントに何してんの……特にツキカ、お前な!」


 ゼランローズとアレクライトが買い物から帰ってきて、家に誰もいないし、外から声が聞こえてくるので、庭に出てみたら、ベンチで足を出しながらくつろいでいる楓、そのそばにヘビ太。

 そして、何故か全身ビチャビチャの月華とカラ助。


「水遊びだ!」

「水遊びってのは、カエデがしている状態のやつ! お前のは滝行だろ!」


 元気に答える月華。アレクライトがたまらずツッコミだ。


「よし、夜は納涼まつりでもするか!」

「え?! お祭り?」


 また突然思い立つ月華に、ゼランローズとアレクライトは首を傾げるだけだ。

 楓は日本でのお祭りを思い出し、声が少し踊る。


「祭りといえば?」


 月華の雑なフリに、楓は記憶を辿り答えていく。


「えーと……花火に浴衣……あとは、わたあめ、焼きそば、たこ焼き、イカ焼き、りんご飴、チョコバナナ、ヨーヨー、金魚すくい……かしら?」


 ほとんどが食べ物だった、と楓は思うが、そこは口に出さないでおく。

 月華はうんうんと頷いて、指を折っていた。


「よし、近いものはできるな! 楓、製図アプリ出してくれ! アレクに画面共有よろしく」

「わかったわ」


 楓は具現魔法で製図ソフトをタブレット型で作り出すと、月華は指でサクサク絵を描いていく。

 アレクライトは目の前に作られた別モニターの具現魔法スクリーンを眺めながら、顎に手を当てる。


「えーと……鋳物の板に、半球状のくぼみのある型でいいのかな?」

「そそ、あとは焼きそば用に、鉄板焼き出来そうなモン作ってくれ! ヘビ太、カラ助。ザラメもらっていいか?」

「えぇで! おもろーなモンになるんやろ?」


 ヘビ太とカラ助はニンマリ笑う。自分たちのおやつを使ってもらう事で、どんなワクワクが待っているか未知数だ。

 ザラメは、おやつを食べた後、夕飯まで時間があって口がさみしい時一欠片(ひとかけ)たべたりする、ヘビ太とカラ助のプチおやつである。


「俺は何をすれば良い?」

「わたあめを作ってもらう」


 月華は手順を説明する。綿菓子製造機など無いので、全部魔法でやってもらうので、ゼランローズにしか出来ない事だ。

 楓は、屋台に並ぶ出店メニューの下拵えを頼まれた。


 途中、昼ごはんを食べつつも、準備をして日が沈むのを待つ。


「そろそろ、はじめるか」


 太陽の位置を見たツキカは、2階にあるクローゼットから浴衣を持ってきた。


「……いつの間に全員分作ってたのよ」

「ちょっと前に、いい感じの布貰ったから作ってみた」


 月華により浴衣が全員に手渡され、楓はビックリする。

 そして楓は月華に着付けをしてもらう。その後髪も纏めてくれた。


「よし、あとはこれをつけて……」


 ヘアピンのようにパチンと、髪に通して付けられたのは狐のお面のようなものだ。

 これもアレクライトに作ってもらった。お面風ヘアピンで、お祭り気分を上げる。


「わっ、かわいい!」


 目を細めている顔の、白い狐のお面は和物感たっぷりでテンションが上がる。

 そして、月華も自分でパパッと着付けをして、リビングに出ると、同じく浴衣姿のアレクライトとゼランローズがいた。


「なんで、このクマが着付け出来るんだよ……」

「言わずとも、わかるであろう」


 サラッと流したゼランローズは、あらかじめ用意しておいたスツールに月華を座らせて、ヘアセットを始める。

 自然な流れすぎて、誰も何も違和感を持たない状態にまで日常と化したようだ。


「さんきゅー」

「うむ」


 そして、ヘビ太とカラ助にもミニお面をつけてあげる。

 カラ助ならばギリ浴衣が着れそうだが、ヘビ太は着れないので、ふたり合わせるならお面でと、アレクライトが作ってくれた。


 夕焼け空になってきたので、庭に出る。

 足元はもちろん下駄だ。


「わ、なんか変な感じ……」


 下駄の感触に戸惑うアレクライト。

 木の部分はアレクライトが作り、鼻緒の部分は月華が組紐をつけて作り上げた。


「よし、楓とアレクはちょっとのんびりしててくれ!」


 いつの間にかたすき掛けをしている月華とゼランローズ。

 屋台エリアにバタバタと向かって行った。



 オーケーが出たので向かってみると、お祭り屋台のように、イカ焼きや焼きそばなどの食べ物を作っている月華、いちご飴やわたあめを作っているゼランローズ。

 屋台の店員さんである。


「え、レインボーわたあめ?!」

「うむ。初めて作ってみたが、中々面白いものだ」


 ゼランローズがザラメを火魔法で溶かし、風魔法で棒に巻きつけてつくっていた。

 ヘビ太とカラ助のプチおやつなザラメはカラフルな物で、色付きわたあめが出来上がる。

 ゼランローズは楓にそれを渡す。

 ヘビ太とカラ助も、屋台ブースの隣にあるベンチでニコニコしながら食べていた。

 しゅわっときえる甘いお菓子。しかもカラフルで楽しいのだ。

 アレクライトにはいちご飴を渡す。


「ほいっ!」

「あ、ありがとう!」


 月華からイカ焼き串を渡されて、もうお祭り感覚バッチリである。

 人混みもなく庭の中をぷらぷら歩きながらだが、楓はお祭り気分を味わう。

 そして、日本ではこんな感じでお祭りがあった事を伝えると、アレクライトはにっこり笑ってくれる。


「風情があっていいね。あと、いろいろ美味しい!」

「そこは月華のご飯だからじゃ無いかしら」

「それもあるけど、なんか庭で食べるのって、いつもと違う気分で新鮮」

「それはあるわよね!」


 お祭りの規模にしてはちいさいが、人混みやボッタクリ価格なご飯に財布を気にすることもなく、雰囲気を楽しめるのは、とてもなつかしく楽しくありがたかった。


「ツキカはわたあめいるか?」

「わたしはまずイカ焼き串を食う。ほらゼラも」


 そう言って大きな木皿に入った焼きそばに、イカ焼きをのっけたものを差し出す。


「ありがとう」


 一旦調理の手を止めて、食事に入る月華とゼランローズ。

 ベンチに腰掛けていつもどおりたくさん食べる。


「ニホンの祭りは風情があり、楽しいものなのだな」

「そうかなぁ。祭りなんて行かなかったから、雰囲気で再現したモンだけど……これが今まででいちばん楽しいな」

「俺もだ」


 月華とゼランローズは新たに出来た思い出に、はにかんで笑う。


 ある程度雰囲気を楽しんで、腹を満たした。

 楓がみんなをベンチに座らせて、自分も腰掛ける。


「お祭りと言ったら、花火だけど用意できないから雰囲気だけでも!」


 そう言って楓は魔力を練り、塀を越えない高さのあたりの高さに具現魔法で巨大なスクリーンを出す。

 背景は透過で夜空が見えている。そこに花火の映像を映し出す。


「おぉ!!」

「わっ!」

「な、なんやの?!」


 巨大なスクリーンに映る色とりどりの花火。

 ゼランローズ、アレクライト、ヘビ太、カラ助はビックリしてちょっとのけ反った。

 流石に音は自粛しているので、雰囲気だけね、と笑う楓。


「綺麗だね」

「そうなの。花火は遠くで見ても近くで見ても楽しめる、夏の風物詩だったの」


 カラフルなわたあめを2人でかぶりつきながら、音のない花火だが一緒に眺めて楽しんでいる。


「ツキカが再現しなかったのは意外であるな」

「無理無理、火薬なんて扱えねぇよ」


 ゼランローズがポツリと言うと、出来ないこともあると笑いながら月華は花火の映像を楽しむ。

 こちらでも、おおきなカラフルわたあめを、いっしょにかじりついて笑い合う。


「きれいでオモロいな」


 カラ助は目をキラキラさせながら、綺麗な花火に釘付けになり頷いている。


 今年の夏は、各々忘れられそうもない、素敵なものとなったようだ。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ナチュラルに肩に置かれた手っっっっっ♡ [一言] 私の勝手なリクエストに、快く応じて下さってありがとうございます! もぉ最高です! 実はこのカップルが一番好きなもので。 活動報告も読ませ…
[一言]  人混みがなくて、かえって快適かも。  あれも風情といえば、風情かもですが(汗)
[一言] めっちゃ楽しそうなヘビ太&カラ助の続きがここに! なるほど… ゼラさんや,その器用さを分けてくれ…(不器用の切実
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ