ムカついて、つい
伊奈沢の隠していた貌がクラスメイトにバレた翌日。
授業が終わる度に一目散に伊奈沢は教室を出ていった。
クラスメイトらも彼女とどのように接したらいいかを戸惑っていた。
一日の授業を終えた放課後になり、伊奈沢は教室から逃げるように出ていった。
廊下から女子生徒の短い悲鳴があがってすぐに、「ちょっ……陽葵っ!」と引き留める声が聞こえた。
彼女が女子生徒とぶつかったようだ。
俺は伊奈沢を追いかけることなく、通学鞄を肩に提げ椅子から立ち上がる。
俺に江東が駆け寄り、伊奈沢のことを訊いてきた。
「陽葵を追いかけないの、ヨリくん?」
「追いかけても無駄だから。そんな心配なら、江東さんが追いかけたら良いんじゃない」
「その眼で見んのって、ズルい……それでも陽葵の夫なの」
江東は下唇を噛んでからボソっと呟き、批難めいた低い声で吐き捨てる。
「夫じゃないってー、恋人だって言ってんのって周りだよ。勘違いされて迷惑だなぁ」
俺は彼女に冗談っぽく返し、恋人だということを否定した。
「ヨリくんのバカっ!フンっ!」
江東は俺に今にでもビンタしそうな気迫を顔に張り付かせ、声を荒げながら罵倒し、自身の席の机に置かれた通学鞄を引っ掴んで教室を出ていった。
俺は離れていく江東の背中を眼で追いかけ、ため息を漏らした。
俺はクラスメイトらの批難の視線にさらされながら教室を後にする。
「さて……図書室に行くか。んだよっ、アイツ……」
廊下を進んでいき、図書室に向かう。
図書室の前に着いた瞬間にスマホにメールが受信された音楽が聴こえ、スマホをポケットから取り出し確認する。
伊奈沢からだった。
中庭に呼び出し、であった。