信頼できる友
午後の授業を終えた教室は、普段より賑わいを見せていない。
伊奈沢が教室でクラスメイトに見せたあの態度に、幾らか教室内が底冷えしていた。
帰り支度を手早く進める過半数のクラスメイトの姿が目立っていた。
「おぉーい!いっきゅー、一緒に帰ん……ね?」
藤宮が廊下から教室に脚を踏み入れ、張り上げた大声で俺を呼んで下校を誘う。
藤宮にクラスメイトの視線が集まり、教室内が何秒か時が止まったようになる。
「えぇーっと……」
「おーう、すぐ行く〜!」
帰り支度を済ませていた俺は、椅子を引いて立ち上がり、固まる藤宮に駆け寄って声を掛ける。
「厄介なことがあって……さっさと帰ろ、藤宮っ」
俺はクラスメイトに聞かれないように小声で告げ、急かすように彼の左腕の手首を掴んで廊下に出て、昇降口へと急いだ。
彼は何が何だかといった困惑した顔のまま無言で連行された。
俺と藤宮は階段を駆け下り、昇降口へと小走りで向かった。
教師に咎められることなく、昇降口に着いて、肩で呼吸していた藤宮が教室の異変について、問いただしてきた。
「ハァハァ、でさっきのアレはなんだよ?ヤケに静まってたけど、何があったんだよ?」
「あいつが……ね」
「あいつ?伊奈沢が……?化けの皮が剥がれたとか言うんじゃねーだろな〜?……マジで?」
「……そう」
「あぁー……で、おまえどうするよ、今後?」
藤宮が深いため息を吐き出し、右手で顔を覆う。
「どうって……クラスメイトがどう出るかによるって」
「そうだな、そうなんだよなぁ……行くか、伊奈沢ん家?」
「イケんの、藤宮は?」
「あいつの不注意だけど、おまえにもしものことがあればいけねぇしな。行くっきゃねぇだろ、あいつんとこに」
「もしものことって……いっ、行こぅ」
藤宮がスニーカーをコンクリートの地面に落とし、脚を突っ込み昇降口の扉を抜けて、校舎を出ていく。
俺は彼の頼もしい背中について歩き出した。