詐欺師
私は面倒な主人と出会ってしまった。
途轍もない野心家で悪事に手を染めているような男、私はそんな男を主人として迎えるハメになってしまった。
レナの一族から離れ、私は再びフリーの杖となった。
借金苦で泣く泣く私を手放すことになったレナの子孫たちに別れを告げ、時間にして100年ほど過ごした庭園を去ることになった時は、私も少しばかり名残惜しさを感じたものだ。
その後、骨董市で一本10ゴールドの安値で売られた私。
かつては26億の価値が付いていた私が今や10ゴールドである。
情けないことこの上ない。
するとそこに、一人の男が現れた。
年は30歳くらいだろうか。伝わってくる魔力はそこそこだ。
時代が違えば伝説級の魔術師と言われただけの素質はあったかもしれない。
ただ、見て直ぐに顔を顰めたくなるほど強烈な酒の匂いを放っていた。
『俺にこれを売ってくれ』そう言って、彼は私を買った。
ディスティニーレインを10ゴールドで手に入れられた幸運を噛みしめるのかと思いきや、そもそも男は私が伝説の杖であることを分かっていなかった。
『魔法使いっぽく見せるには、こういう杖を持っていた方が箔が付く』
この男は、そんなことを言っていた。
そこで初めて私は知ったのだ。この男は自分を偉大な魔法使いに見せつけたいがために、いかにも魔法使いが持っていそうな杖である私を購入したのだと。
その男は詐欺師だった。
そしていつかはギャングのボスになることを目指していた。
お布施だとか、ご利益のある石だとかと言って何も知らぬ人々から金を巻き上げる悪徳商法。
聖水だと言って病気の人々に渡す水も、適当な川で汲んできただけのただの水である。
世の中にはこうも見下げ果てたくなるような人間がいるのかと思ってしまった。
余りにも騙される人が可哀そうなので、私は彼が渡す石や水に魔法を掛けた。
幸運の呪文や癒しの呪文で、ただの石ころと水はたちまちパワーストーンと聖水に化けた。
そして効果はてきめん。不治の病に侵されていた老婆は聖水によって小指で腕立て伏せが出来るまでに回復し、恋人が欲しいと言っていた冴えない村人は、パワーストーンの効力で酒池肉林のパリ―ピーポーと化した。
そして男はそれを見て、自分に秘められた奇跡の力が覚醒したと勘違いしていた。
その噂話を聞きつけた某国の国王が、詐欺師を城に呼んでパワーストーンを貰おうとするのだが、
それはまた次の話。
ではまたお会いしよう。アディオス。