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第1話 独身、借家住まい、お仕事上がりはレストランで夕食を。

 シャランシャラン、と扉につけられていたベルが繊細な音を奏でたのが、雰囲気の良い店内に広がった。


「いらっしゃいませ。店内でのお食事をご希望ということでしょうか。………五名様ですね?」


 店長さんの声はいつも落ち着いている。まるで、自分が上等な立場になったような、そんな嬉しい気持ちにさせてくれる、丁寧な対応をしてくれる彼は今日も新しいお客さんたちを出迎える。


「すっごい雰囲気いいー!」

「ここ、高いんじゃないの?」

「いや、それがそんなでもないんだって」


 新しいお客さんたちは少し賑やかで、静かなこのお店にはあまり相応しくないんじゃないかなとは思うけれど。


 ただ、どちらかといえばあたしだって彼らと同じようなものに区分される人種だろう。マナーなんて知らない。

 ただ、あたしはこのお店の常連として最低限、シャワーとまではいかないまでも、体を拭き清め、着替えを済ませた上でここに訪れることにしていた。だって今の宿、シャワー無いんだもの。しょうがないじゃない。


 あたしの隣の席、四人がけテーブル二つに案内された客たちからは、歩くに合わせてガシャガシャと音がしていた。剣や武器、防具を身につけたままなのは間違いない。たぶん、冒険者が仕事帰りにそのままやってきたのだろう。きっと近寄れば汗臭いに違いない。


 まぁ、ここはランチや持ち帰りの料理がメインの店だ。夕飯を店内で飲食していく客なんて、今は彼らの他にはあたししかいない。お互い様だとここは目を瞑ろう。


 それでも誰が来たのかは当然、気になる。冒険者には乱暴者だっている。場合によっちゃ、あたしは無料でこの店の用心棒を買ってでたって構わない。

 あたしは横目でチラリと彼らをチェックして、すぐに視線を自分のテーブルに戻した。何事もなかった顔を取り繕いながら、ロールパンを片手に取る。平常心、平常心。スプーンをもう片手に、なるべく静かにシチューを口に運んだ。


 ここのクリームシチューはとても美味しい。というか、このレストランは全ての料理が美味しい。冒険者御用達の食堂なんかと違い、店内で食べていく客は予約するのが当たり前の、ちょっと贅沢をしに来たような市民や商人がメインの客層だ。


 つまり、いつ来ても騒がしく無いところがいい。

 冒険者が入り浸る食堂にありがちの、酒の入ったいかつい男たちに品なくギャハギャハ騒がれる光景が、あたしは普通に怖いのだ。


 飲み物を一口。


「ねぇ、そこの席の………」

「失礼だろ、指差すなよ」


 お隣席からこそこそと話す声がかすかに聞こえてしまった。そういう時だけ静かにされると余計に聞こえちゃうんですけどっ!?

 あたしも似たこと思ってるけどね!

 

 まさか、まさかこんなところでこの辺りのトップパーティー『黄昏に消えゆく魂』に会うとか思わなかったよ!

 サインください!!!!!!

 そんなこと絶対言えない!!


 ………ふう。


 気を取り直して、鶏肉のソテーを一口。またもやパンをもぐもぐ。ふと見た窓の外はそろそろ暗くなってきていて、それぞれのご家庭ではも団欒の始まる時間なのだろう。


 今日もあたしは元気に生きてます。


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