汽車の様子
リドは任務を受けて、さっそく汽車に乗り、野良機械がいるという任地に赴いているのだった。
ゴトゴトと、汽車はゆれる。一両編成の、狭くて小さい、超旧型の汽車。
全て機械仕掛けのうえに、その処理スピードは遅く、たまに線路から外れそうになる。
あまりにも危ないのでリドが運転しようとしたら、操縦席などもなく、燃料を制御しようにもどこに燃料庫があるかわからず。
仕方がないので、リドは客席に座っていた。
最悪な気分だった。
その理由は、死地に赴く男を送り出す部下達の態度にも関係するし、望まない任務を仕方なく引き受けている自分にうんざりする気分も少しあった。
人もいない。リド一人だけ。こんなに小さな汽車なのに客が一人だと、それだけでガラあきになった席は寂しい。
リドはため息をついた。もう何回目だろう。数えるのももどかしい。
原因は先の理由も絡んでいるが、第一に燃料を燃やす煙の臭い。実のところリドは煙の類が苦手だった。
けれど、確かにリドはタバコを吸っていたことがある。その煙はどうなのかというと、やはり苦手で、やせ我慢だの意地だの張って、無理してやっていることであった。
ある日、本部の通路で、
「タバコ吸ってるやつこそ、悪いやつだな」「違いない違いない」
という会話を聞いたことが始まりだ。
もっともそれは偏見である。
けれどその偏見を真に受けたバカもいるわけで。
それ以来、彼は意識的にプカプカやっている。しかし、未だに慣れることはない。
そんなこんなで彼はまた、ため息をついた。
ふと窓の外の景色を眺める。リドの目の色が輝きだした。さっきの悶々とした気分はどうやらふっとんだようだ。
最高な気分に早変わりである。
赤錆びた大地。山々はあるものの、その一つとて、木は一本もない。すべて伐採してしまった。今や、地球上の酸素は機械でまかなわれている。
しかし、その景色がリドは好きだった。といっても、緑豊かだった時代のことを彼は知らない。だからこの景色を好きでいられるのかもしれないが、とにかくリドは、そのさっぱりした風景がなかなかに良いと感じられ、この景色に見とれてつくため息もあった。彼にとって、この眺めは宝石よりも美しいものだった。
それに、窓から吹き込んでくる風も清々しい。汽車はかなりのノロノロスピードで進んでいるが、それでも汽車の中を風はふきぬけていった。
しばらく、そうしていると。
ゴトンゴトンゴトンゴトン――
汽車のスピードが。
ゴトンゴトン、ゴトンゴトン――
だんだん。
ゴトンゴトン、ゴトン、ゴトン――
遅くなってきて。
ゴトン、ゴトン、ゴトン、ゴトン――
リドが窓から身を乗り出してみると、遥か彼方まで続く線路の端に、赤茶けた屋根が見えてきた。
「駅、か――」
リドがぼそっとつぶやき。
プシュウゥゥゥ――
汽車は止まった。
駅の様子をちらっと見てみるとそれは、小さくて、ボロくて、つまらなさそうで、リドは少しげんなりしつつも、まあ、たいがい駅などと言うものは、こんな感じだろう。と諦めた。
何もなさそうなので、リドはそのまま視線を外し、窓の外へ移した。そのとき、視線の端になにか黒いものが移ったような気がしたが、気のせいだと思い直し、目を他へやった。
せっかく汽車が止まったので、大きく背伸びをした。背がメキッとかなり派手な効果音をたてたが、リドという男はそんなこと、ものともせず、またあくびなどして広大な大地を眺め続けていた。