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電報

 翌日、リドに見舞い客があった。

 それは誰かというと、バノの街の住民である。

 なんせバノの街には、病院が一つしかない。その病院に入院患者とあっては、その噂もたちどころに広まるというものだ。チャットのような陽気な奴がいるのだ。少しくらいおせっかいなやつもいるだろう。それに、チャットのようなお喋りがいるのだから、みんなお喋りなのだろう。

 見舞い客は、主婦らしきおばさんで、食堂のおばちゃんを思い出して頂ければいい。雰囲気的にそんな感じなのだ。

 リドはチャットとの談話を中断して、おばちゃんの相手をすることにした。

 試しに職業を聞いてみると、本当に食堂のおばちゃんらしい。リドの洞察眼、鋭し、である。

 その日はとても楽しかった。予想以上におばさんが、面白い人だったからである。リドが失礼な発言をしようがお構いなく、逆にリドを、機械を倒した英雄と言って誉めちぎった。

 こんなにいい気分で過ごしていていいのか。リドは今まで感じた事ない清々しさでその日を過ごした。

 それからというもの、リドは松葉杖を着いて街を歩きまわり、人々と交流した。

 バノの街の人はというと、そりゃあもう気さくな人ばかりで、喋っていると楽しいし、たまに口論になっても、最後には必ずいいように治まった。

 リドは気付いていないが、彼の頑なな心は、幼いころのミルアと同じように、解きほぐされていったのだった。


 そんなある日、リドに一通の電報が送られてきた。

「機械抹消第七位隊長、リドリック・ノルボイ宛。

 ほれ、この通り。機械抹消のスタンプまで押してあるぜ。さすがは大組織って感じがするなぁ。いや、もちろん悪の大組織ってのとは違うけれど。でっかいよなぁ、機械抹消というのは……」

 チャットがそうぼやきながら、リドに電報を見せる。電信により送られてきたのだから、スタンプもくそも無いが、なるほど。文章の最後のあたりに機械抹消のマークのようなものがある。

 そして、その電報の内容というものは、

『連絡が無いので案じている。どういう経緯でいまそこに滞在しているのか。報告されたし』

 と。

「まあ、そんなとこだろうな」

 リドは呟き、チャットに電子板を突き返す。

「ところでどうして、チャットの電子板に俺宛ての電報が届くんだ?」

「知らん。俺にも分からん。機械抹消にはまだ連絡しとらんし、家んちにはたぶん機械抹消の監視カメラも無い。まあ、あったらあったで怖いが、とにかくそれで情報が届くわけでもない。だからさっき、大組織だと思った。それについてはお前の方が詳しいんじゃないか?」

「ふむ」

 しばらくリドは考える。

 考えが至ったのか、自分の服をごそごそ探り、お目当てのものを見つけた。

「つまりは、こういうことだった」

 リドが差し出したものは、小さなチップのようなもの。チカチカと赤い光が、ついたり消えたりしている。

「発信機だ。来る時に自分でつけた」

「お前、自分で自分につけて忘れてたのか?」

 呆れながらチャットが聞くと、リドはぽりぽり頬をかきながら、照れたように弁解し始めた。

「面目ない。いつもはこんなヘマやらかすことねえから、発信機の出番もねえわけよ」

「まるで、自慢をしているようだな。まあ、万が一のためにそなえるお前は、几帳面というかなんというか。そんなに自信があるなら、発信機なんて自分の身元を示すような鬱陶しいものはつけないだろうに」

「この世に絶対って言葉はないからな。慎重になった方がいい。死ぬくらいなら、自分の現在地くらいさらけだしたって構わねえよ」

「なるほど。それがどんなに自分にマイナスになる場所でもか?」

 チャットは皮肉って言ったつもりだったが、リドは真剣な表情で頷いた。

「背に腹はかえられん。それがかなりヤバげな所だったり、そういう場所だったとしてもだ。むしろそういう場所ではなおさら必要になるだろ」

 そうしてリドは元の顔にもどして笑い。

「それに、俺がそんなヤバげな所にでも入ると思うか? チャットのおっさんはそんなことばっかり考えてるんだなぁ」

 チャットに皮肉で返した。


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