火薬
一方リドは、はじめに手配してあったホテルに入り、夕食を食べて、部屋に戻って、武器の点検をして、シャワー浴びて、ベッドに潜り込んで寝た。
リドは、昼のあの出来事もあったため、ホテルから外に出なかった。
恥ずかしいやら、もあるし、人と関わると疲れるからとか、そういう理由の閉じこもりだった。
けれど、夕食は美味しかったし、部屋を案内してくれた人は優しかった。まあ、リドはコックにも案内人にもつっけんどんな態度を取ったのだが……
翌日、ミルアは薄ら薄らの意識の中で、窓から光が射しこんできたことに気付き、起きた。
窓から射し込む光が眩しい……
とうとう、この日がやってきたのである。ミルアの積年の恨みを晴らす日が。
――機械と対決である。
いきなりこの街に来て、いきなりこの街で戦闘を繰り広げて終わる。などということはできそうにない。当たり前だ。そんなことをすれば、建物を壊してしまう。もしかしたら、人の命だって危うい。
昨日のおばさんの顔を見れば分かるとおり、バノの街に傷一つつけることはできない。できれば、街を壊さない様に、街外れで行なう必要がある。
(よーし、それなら。いったん街から出よう)
機械をおびき寄せるのは、案外簡単な事だった。火薬をまけば、その臭いをセンサーが感知して、ほいほいと出てくるだろう。それが戦争に使われた機械のなごりだ。火薬ある場所に戦いあり。である。
ミルアは必要最低限の武器を持ち、鉄の入れ物に火薬を入れ、宿を出る。
目指す場所はない。とにかくこの街から離れることが先決である。
その後は火薬を撒き散らしつつ、そこらを歩きまわり、機械の出方をうかがう。
機械と遭遇した時の戦闘シミュレーションもくんでいる。
(大丈夫)
そうやって自分を励ます。そうしないと、緊張で胸がつぶれてしまいそうだ。
もう、後戻りできない。
ミルアは「ウェルカムバノの街へ」の看板の下を、しっかりとした足取りでくぐりぬけた。
朝、リドは火薬の匂いをかいだ気がして起きた。
窓を開けてくんくんやってみるが、間違いない。嗅ぎ慣れた者だけが分かるほどの微量な匂いではあるが、風に乗った砂と混ざって火薬の匂いがする。
リドはせわしなく着替えて、ホテルの階段を駆け降りた。
この火薬の匂いはどうやら街の外へと続いている。
せっかくなので、リドは火薬探索兼、機械抹消。という一石二鳥的な仕事をすることにした。
たぶん機械は街の外にいるだろう。この火薬の匂いである。すぐに気付いて追いかけるはずだ。
しかし、一体誰だろうか。こんな時に火薬などを持ち歩く奴は。まるで、自分を追いかけてくれと、機械に言っているようなものではないか。
リドは朝っぱらからムスッとした顔で、武器の装備を始める。
その装備が終わり、てきぱき荷物をホテルの従業員に運ばせ、車に詰め込む。
拳銃はいつでも撃てるように、肩から下げているホルスターの中だ。
車にキーを挿しこむ。エンジンが唸りを上げた。
ブーブー音を立てながら、リドの車は「ウェルカムバノの街へ」の看板の下を通る。
入る時は入り口だったのに、今は出口になってしまった看板に、リドは振り向きざまツバを吐いた。リドにとってお別れの挨拶のようなものだ。
しばらく走る。
そして、程度のいいところで止まる。車から身を乗り出してみると荒地の砂の上に黒いものがまぶされていた。
リドは車を降り、その黒い物に近づいてみる。それは粉状の物で、指で触ってくんくん匂いをかいでみる。
「――火薬だ……」
それは朝嗅いだ火薬と同じ匂いだった。
それはその火薬を撒いた人間が、機械をおびき寄せているということの証拠である。
つまりこの火薬をたどっていけば、撒いた奴の顔が見られるということだ。
物凄く興味が湧いてきた。
見たい。どんな奴がこんな無謀なことをするのか見てみたい。
リドは車に乗りこみ、鼻歌まじりにアクセルを踏んだ。
目指すは、火薬の根本。または、それにつれられてきた機械の元へ。
リドは黒い粉を道標に、ゆっくりゆっくり進んでいく。