惨帰路
――行かないで
少年は 決して振り返らない彼女の背中に言葉を投げた。
真っ白な世界にただ二人だけ
色なんて存在しない 地面も風景も…
少年の心も徐々に無色透明へ戻り欠けている
大好きな彼女の色に染まるのが何よりの幸福だったからだ
新しい世界を魅せてくれた記憶
一緒に居てくれた暖かさ
そして透き通るような声
そのすべてが少年の色彩と成していた
――ごめんね。さようなら
ただ一言が 今少年の存在している無色世界を形成しているきっかけとなってしまった
彼女の手に引かれ、引き込まれた世界にたった一人取り残されてしまっているのだから…
これから少年は透明世界で一人、ずっと傍にいてくれた支えをなしに不安と恐怖が残る
頭の中が真っ白だ とてつもなく寂しい
――お願いだからもう一度だけ君の色が欲しい
その声はもう届かない
声の代わりに涙が頬を伝う
両目から流れた二滴の雫が 彼女との叶わぬ出会いを想い描くかのように合流し
地面をめがけて垂直へ落ちていく
たった一滴の涙は地面と風景を一瞬にして薄水色へと変えた
【色は満ちた】
この世界は知らない色で埋め尽くされている
だから最初の一歩は恐怖そのもの
――わかったよ………ん。
もう彼女名前すらノイズが掛かっているかのように思い出せなくなってきている
少年は立ち上がり 一歩 また一歩と彼女の消えていった反対の方向へ歩だした