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コンビニ店員

作者: なめらかドライヤー

これ、友達の体験談なんですけど、ちょっとね。あんまり身近な人には話せないんですよ。内容が内容だけに。私もいつ襲われるかわからないんでね、まあ、そういうよくある怖い話、ですよ。

当時、私と友達は同じコンビニでアルバイトしてたんですよ。私のほうが先に辞めちゃいましたけど。いいアルバイト先でしたよ、パートのおばちゃん達、学生アルバイト、みんな仲が良かったですから。シフトに入ってない人が遊びに来て、ちょっと仕事手伝ってくれたりして。ほんと、仲は良かったんです。その時はね。


私と友達は夜勤バイトでした。夜の10時から朝の6時まで。遊びに行く時も夜の方が多かったな。あの日も夜中に行きました。私はシフトに入ってなかったんですけど、友達が働いてる日だったので、遊びに行ったんですよ。いつも通り。少し仕事を手伝って、たくさん喋って、いつもと変わらない。2時くらいかな、女のお客さんが来たんです。20代、なったばかりかな、それくらいのちょっと、田舎のヤンキー風の。ハローキティのジャージなんか着てそうな、黒地に金のラインがはいってるやつ。わかります?この感じ。で、そのお客さんがレジに来たら、友達と仲よさそうに話し始めたんですよ。私、あれ?って少し不思議に思って。


彼ね、女の子苦手なんです。苦手っていうか、少し女性恐怖症みたいな所があったんです。今までに付き合った女の子達が原因だと思うんですけどね。ドタキャンだらけの女の子とか、浮気相手として付き合わされてたとか。間男って言うんですってね。流石に可哀想に思いましたよ、女運がないんですかね。そういうのもあって、女性とあんまり積極的に関わらなかったんです。だから、この時不思議に思ったんですけど、ああ、なんか良かったなって、そうも思いました。


20分くらい話してたでしょうか、そしたら彼が制服脱いで、店の外に出たんですよ。何やってんだ、とちょっと思いましたけど、その日もう一人いたバイトの男の子と「もしかしたら外で…」とか言って、邪推して、盛り上がってたんです。そしたら、彼、女の子の車に乗ったんですよね。いや、ビックリしましたよ。勤務中にマジでやるつもりかよ、とか思って。でも好奇心には勝てないですね。観察してやろうと思ったんですけど、店の中からだと車がうまく見えないし、なんなら向こうからこっちが見えるかもしれない。それはマズい。だから、監視カメラから見ることにしたんです。駐車場を撮ってるカメラの映像で。

で、ずっと見てたんですよ。ちょうどカメラからは助手席の部分だけが見えてて、運転席側の女の子が見えなかったんです。でも若い時分ですから、バイトの男の子と一緒に「今何話してるんやろ」とか「あ、今運転席側に寄った、キスしたな!」とか大盛り上がりでした。それからだいぶ経って、4時過ぎたくらいになっても、全然降りてこないんです。カメラから見える感じ、流石にヤってそうではなかったんですけど、降りてこないんです。私は遊びに来ただけだったんで、流石に帰ろうと思って、帰ったんですよ。その車から気付かれないように、わざわざ遠回りして。その日は、ここまでです。


で、翌日、彼と会ったんで聞いたんです。

「昨日結局何時くらいに帰ったん?」

「5時過ぎくらいやったかなあ」

ああ、まあそんなもんかと思って。そこは。後は適当な会話でした。

「キスした?」

「いやいや、してないしてない」

「連絡先交換とかしてんの?」

「したで〜!」

そんな他愛ない感じ。彼も久々に女の子と普通に喋れて嬉しかったのか、元気が良い感じでした。今考えると、あれは異常だったのかもしれないですね。この次に会った時からです。様子が徐々におかしくなっていったのは。

1週間後くらいに、また会ったんです。私はいつも通りの会話。彼は、少しテンションが高かったかもしれないです。

「ひさしぶり、前の女の子とどうなった?」

「それがな、聞いてくれや」

少し熱の入り過ぎた感じで語られました。どうやらその女の子と1週間後にデートをするらしいです。私は素直に喜びました。

「おお!良かったやん!これはチャンスやろ」

彼も満更でもなさそうに返答してきました。

「まあでも初回はね、普通に遊んで…」

「遊んだ後は〜?」

この日は茶化して、少しまた適当に話しておしまい。普通にデートしてくれれば良かったのですが…


それから1週間と少し過ぎたくらい、デートの約束日を過ぎた後ですね、彼と会いました。彼はバイト帰り、私はバイトに向かう途中。お互いにいつものバイト着、靴。でも、彼、ちょっとやつれてるんです。これは例の女の子と何かあったのだろうと思い声をかけました。

「おう、お疲れ、前のデートどうやった?」

なるべく慎重な声色で聞いてみました。デートで何かあったのは間違いなさそうだったからです。

「ああ、あれな、なんか予定入って延期になったわ。また来週やな」

「ああ、延期か!まあしゃあない、たまにある事や。来週か〜」

ドタキャンされたと思っていた私は、少しホッとしました。落ち込むと少しめんどくさいので。この後多少励ましの言葉をかけて、私はバイトに向かいました。


さらに1週間後、彼はさらにやつれてました。あと、凄くイライラしていました。元から癇癪持ちだったのですが、それに更に拍車がかかっていて、話しかけるのにもいちいち気を使うくらいです。

「お疲れ様、デートどうやったん?」

「連絡つかへんねん」

「まじで?」

「もしかしたら…」

聞いてみると、どうやら彼女はストーカー被害に遭っているらしく、しかも、あの日彼が車に乗ったのを、そのストーカーに見られていたかもしれない、と。もしかしたら、そのストーカーに監禁でもされてるんじゃないか…という話でした。彼はとても真剣に話しています。

「LINEも会話の途中で急に返信来なくなったし」

「それは、ほんまにそうやったら怖いな」

私もどうフォローしていいのかわからず、ただの感想しか言えませんでした。

「実際そうやったとしても、LINEの返信待つぐらいしかできへん」

その通りです。この話はここで終わり。私はそう思いました。ドタキャンする女の子も居るよな、と。


しかし、私も多少気になってはいたので「あれから返信ある?」くらいは、たまに聞いていました。そうして1週間と少し、私はバイト先に遊びに向かっていました。イヤホンで音楽を聴きながら歩いていたのですが、夜中の1時、正面から誰か歩いてきます。手を振っていました。彼です。何か言っています。私はイヤホンを外しました。

「今から車探しにいくぞ」

彼はそう言っていました。困惑。え、ドライブ?普通車免許持ってないやん2人とも、てか探しにいくって何。そのまま聞いてみました。

「え、探しにいくって何?」

「やから車やん、彼女の車、心配やからさ」

どうやら、一度乗った彼女の車を覚えているらしいのです。しかし、住所も何も知らないのにどうやって。と思いましたが、やはり、若い時分です。私も謎の調子に乗せられました。

「なるほどな、よっしゃ行こ」

「ノリええな」

「でもどこから探すんや」

「あの日の監視カメラで、どっち方面に帰ったかはわかってるから、店の北側の駐車場しらみつぶしや」

まずはコンビニから100mも離れてない、すぐそばの駐車場からです。30台くらい停まっている駐車場でした。私はどの車かわからないので、ついていくだけ。

「あった」

不意に彼がそう言いました。

「マジで?」

「マジ」

「この駐車場ってことは、このマンションに住んでんのか…なんとか部屋番号…」

その時の彼の表情は、生きている人ではありませんでした。彼ではない。ストーカーが乗り移ったかのような…そんな表情。

「いやいや、それはマズイやろ、どっちがストーカーかわからんなる」

「いや、これはストーカーちゃうやろ、心配で!」

あまりの勢いに私は少したじろぎました。鬼気迫る、まさしく鬼のような顔でそう言われたのです。しかしここで止めない訳にはいきません。

「落ち着けって、今日から何日か、車の位置変わってるかどうか様子見ようや、動いてたらわかるやろ、急いだってしゃあない」

「それもそうか…」

恋は盲目というやつでしょうか、夜目は効くのに。この日は、友達をなだめて、解散となりました。


それから私は2週間ほど、彼と距離を置いていました。わかりやすく、癇癪を起こしやすくなっていたからです。まるで別人のようでした。しかし、バイト先が同じ不運、仕方なしに会ってしまいました。彼はまた少しやつれた顔で言いました。

「住所わかったわ」

「何言ってるかわかってる?」

「車が開いててさ、乗って、グローブボックス開けたら車検証入ってて、それの住所見た」

「いやもうストーカーやで…」

「は?ちゃうやろ、心配やから探してるんやないか」

例の表情です。鬼の顔。私はそれ以上話せませんでした。どうやら彼はその後、彼女の家の前まで行ったそうです。そうして、部屋の明かりがついてるのを確認して、聞き耳を立てて…


後日、他のバイトに聞くと、彼女は彼がおかしくなっている間も、その後も、たまにコンビニに来ていたそうです。彼の居ない時間を狙って。


彼は、彼女の家へ行ったその日、男の姿も共に確認したそうです。普通に、脈がないのを脈ありと勘違いした男でした。

コンビニの客に恋をして、ストーカーになった店員。


店員に愛想良くするのも、考えものですね。

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