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藤の花咲く 〜新撰組〜  作者: 木夕 鈴翔
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待ちあはせ


ーーーーーーーーーー


出したばかりの茶席に腰をおろし、熱めの茶を二人で飲んでいると、ようやく待ち人の声がした。



「おはようございますー」



見れば寝ぼけ(まなこ)をこすりこすり、少女と同い年ぐらいの青年がやって来るところだった。



「おはよう十郎くん、朝餉(あさげ)食べる?」

「あ…紫音(しおん)さん……はい、頂きます…遅くなってすみません」



まだ眠いのだろうか、十郎はぼんやりとした話し方をしている。



「まだ眠い?ごめんね早くに起こしちゃって…」

「え?…あ…そんなこと無いですよ、大丈夫です」



そう微笑む十郎だが、やはり言葉に覇気がない。

心配そうな顔のままでいると突然第三者が入ってきた。隣で茶をすすっていた男だ。



「こいつのぼんやりはいつものことだろ?紫音。心配なら置いてくか?いても居なくてもこいつの分くらい俺がどうにか---------痛っ!?」

「…黙ってくれますかね、(つね)にぃ」

「おっ…お前殴ったな!?見えなかったけど殴っただろ!?」

「見えなかったのに人のせいにするなんて、あーあ、これだから経にぃは…」



やれやれとため息をつくのは先程までぼんやりしていたはずの十郎。

そして殴られたとわめく半分以上自業自得なのは第三者、"経にぃ"こと『嵯峨(さが)経本(つねもと)』であった。



「凄い、十郎くん!やっぱり目は覚めてたねー、今の経さんへの攻撃すんごい速かったよ!いやー…朝とは思えない速さだったなー…!」

「いやぁ、紫音さんには勝てませんよー…えへへ…」

「なーにが"えへへ…"だ、阿呆!!今地味にお前が殴ったって認めただろ!……こいつ…!」



今にも殴りかかってきそうな経本。

しかしこれも慣れているのだろう。

十郎は華麗に経本の文句をかわすと、



「さ、うるさい猿はほっといて、朝餉にしましょう」



そそくさと十郎は紫音を連れて朝餉のある居間へと向かう。

ついでにけなし文句を忘れずに。



「お、ま、え……」



経本がぶるぶると怒りで体を震わせる。

十郎相手に口喧嘩で勝てるわけがなかった。

そう改めて思い知ったからだ。



「覚えてろよーーー!!!!!」



経本の虚しくも聞こえる雄叫びが、居間の二人にも聞こえていた。






ーーーーーーーーーーーーーー


 朝餉を終え、3人はある屋敷の前に来ていた。

店は雇っている5人の知り合いに任せてあるため、紫音は安心してここに来れていた。

紫音は幼い頃に両親を無くし、それからというもの3つ上の姉と共に親の代わりに店を切り盛りしていた。

主に茶屋として。ときには居酒屋のようなこともする。

姉が病気で2年前に他界してからは、幼馴染の2人とどうにかやっているようだ。

 



「時間大丈夫なんですか?」

「約束ではこのくらいの時間帯だから大丈夫のはずだよ。っていうか、あっち側がこの時間を指定してきたからなんの問題も無いと思う」



紫音はその名の通り紫をベースにした着物を着て、藍色のはんてんを肩にかけている。

十郎も似たようなはんてんだが、着物の色は経本と似た深緑だ。


江戸の町も少しずつ目を覚まし、人々の活気が感じられ始める。

町の中では割と静かな区画にあるこの場所でもそれが分かった。



「にしても、なんで誰も出てこないんだよ。

おい、紫音お前誰と約束したんだ?」



いつまで立っても約束の相手がやってこないので、経本がだんだんイライラし始めた。


ーーーーーーー確かに少し遅いかもしれない。


あの人が約束を忘れるわけが無いとは思いつつ、その可能性も考え始めた頃。

ようやく、3人の目の前でゆっくりと門が開いた。

紫音はほっとする。

どうにか経本が屋敷に押し入らずに済んだことに安心したのだ。

イライラしていた経本もとたんハッとして背筋を伸ばした。

流石に人前では態度も気をつけるようだ。

先程からずっとじっとしたままだった十郎も経本に(なら)う。

静かだったことと、あくびを噛み殺しているところを見ると…おそらく居眠りしていたのだろう……。



「いやぁー、すみません…遅くなってしまって」



そうあまり悪びれている風ではない声と共に現れたのは



「え、あれ?」



紫音の予想だにしなかった人物だった。



「すみません。うちの総長今ちょっと忙しくて…変わりに俺が迎えに来た次第です。驚かせちゃいましたね」



頭をかきながら、その青年は苦笑した。


師走らしいねずみ色の着物と紺の帯姿の彼は、

頭の上部で1つにまとめた長めの髪の毛を揺らす。

腰に差した刀がその若い青年が武士なのだという唯一の証に思えた。



「「お、沖田総司さん…?!」」



紫音だけでなく、3人の声が重なった。








 <続>





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