序章
木夕です。
歴史ものです。
好きなもの詰め込んだだけですが、どうか楽しんで頂けたら嬉しいです。
文久2年 師走
少女は今朝も変わらず店の外に看板を出していた。
「んー…寒いなー…お客さん来るかなー…」
外に出す席は減らしておこう、と思いつつ
外用の腰掛けを引っ張り出して来る。
赤い布をかけ、傘を設置すればいつも通りの茶席の完成だ。
「よし、今日はこことこっちでいっか」
「お、手抜きか?」
「うわあっ!?」
驚いて振り返れば、店の入り口に男がひとり立っていた。
深い緑の帯に紺色の着物、その上からは寒さを防ぐための落ち葉色のはんてんを着ている。
「びっくりしたー…経さんか……って、何ですか手抜きって!あのね、私はこれでもちゃんと考えてですねぇ…!」
「あー…分かった、分かったから。とにかく、茶、淹れてくんねぇ?寒くて凍えそう…」
はぁ…と少女はため息をつくと、
「仕方ないですね…淹れておきますから、その間に十郎くん起こしてきてあげてください。
今日は行くところある、って言ってあったと思うので」
「あいよ!仰せのとおりにー!」
さっさと足取り軽く姿を消す"経さん"を見届けると、自然と視線が上を向いた。
空はぼんやりと明るい。
この時期の朝の空はぼやけた水色で、少女はその色が好きだった。
「…浅葱色」
少女はつぶやく。
そして、その小さな声は透き通る冷たい空気の中に消えていった。
ーーーーーーー 浅葱色。
それはこの時代になくてはならなかった、強く、儚い人生を生きた男達の…"誠"の色であった。
そしてこれは、そんな彼らと少女達が織りなす、奇跡の歴史である。