7-えっ、ルミって歌手!?
7-えっ、ルミって歌手!?
「おい誰か、地元テレビ局の人間に、話を通しておけ。」
「わかりました、私は今日の、信越放送のディレクターとは、学生時代の友達です。」
二宮が即座に答えた。
「そうか・・・」
「なんとかなるでしょう!」
「いや、必ずします!!」
「ところで、彼女の名は・・・」
「・・・・」
「おい君、彼女をそのディレクターに、顔合わせしておけ!」
「拓哉さん・・・!!」
しばらくして、二宮があわてて戻って来た。驚いた顔をして、
拓哉の前に進み出て。
「なんと、驚いたことに彼女は、かなり有名なアーチストだって!」
「レコードこそ出してないが、知る人ぞ知る、シンガーソングライターらしいです?」
われわれが、知らないだけだったみたいです。
「渋谷なんかのライブハウスで、コンサート、かなりやっているみたいです。」
「彼女が出演するステージは、いつもチケット完売だって!?」
「信越放送の彼、大歓迎だって!!」
「スペシャルゲストとして紹介するみたいですよ!」
「ほんとかよ、それで、どんな歌、歌うんだ。」
「・・・・・なんでも・・・歌うそうです。」
信越放送のディレクターが、わざわざ足を運んで、
ルミにお願いしているところだ。
ルミは今日、気分がいいせいか、素直にその要望にこたえた。
そうなると、われわれにとって利用しない手はない。
彼女と打ち合わせして、歌う曲に合わせて、衣装をセレクトすることにした。
そして、その衣装協力は今回のスポンサーを、がっちり宣伝することになる。
ルミは、先ほどの疲れが嘘のように、目が輝きだした。
そう、これから予想外の楽しみが増えたから・・・・。
「うれしいわ、最高よ・・・!!」
「拓哉、拓哉に聞いてもらえる・・・!」
「ワクワク、だわ・・・!!」
かなり、ハイテンションのルミ、水を得た魚みたいに・・・
このすばらしい、大自然の環境で歌えることが、楽しくてしょうがない様子。
拓哉に感謝したい気持ちだ。
それに、拓哉に私の歌聞いてもらえる事が何よりうれしそう。
と、いうことで、信越放送のディレクターと今日やってきたメンバーで、
少し込み入った打ち合わせを、1時間ほど行った。
拓哉は少し微妙、うれしさ50% 自分の世間知らずさ50%。
しばらく考え、思い切って、そのコンサートを撮影することに決めた。
メーカー担当者は、拓哉にすべてをまかせているので問題ない。
実をいうと、放送局の現場の人間は、かなり困惑気味だ。
飛び入りも辞さなかったのだが、果たしてどうなるかが心配だ。
ルミの出演は、“彼女の気まぐれな飛び込み”、という事に決まった。
たまたま、仕事でやってきて、この催しを見て出演したくなったということにして!
彼女には最後に出演してもらい、今日ここにいることを、
かいつまんで話してもらう。
そう、撮影のために来たのだ、ということを主に話す。
音あわせや楽器類は、事前に彼女に知らせて、ほぼ準備万端だ。
拓哉は、果たして演奏中に撮影することで、どのようになるかが、少し不安だ。
信越放送のアナウンサーが、これから始まることを要点だけ話した。
ルミが出場するまでに、8人ほどが演奏や、得意の曲をカラオケで歌った。
その後、ルミは淡々と地元の司会者から、紹介された。
ルミが、ステージの中央に立った。観客席がざわつき出した。
“ウオー・・・”
“ウオー、オオー”
「えー、うそ、あれ、上戸ルミじゃねぇ・・・」
段々声援が大きくなる。
会場がいっせいに騒ぎ出した。
声援が少し静かになったころ、ルミがマイクに向かって・・・
「皆さんこんばんは!」
「上戸 ルミです。」
ウオーと、さらに大きな声援が鳴り響く
拓哉、そしてスタッフ達も、その声援の大きさにさらに驚き。
われわれは、専門馬鹿なのか・・・?
別の世界の事になると、まるで無知。
拓哉は意識的に避けているむきがあるのだが?
後で分かった事だが、スタジオでカメリハの時、気付いていた者も、
数人いたようだったらしい。
「実は私・・・、別の仕事で、こちらに来たのです。」
「そして、この素敵な野外ステージで、歌ってみたくなったのです。」
「皆様、無理なお願いをして、たいへん申し訳ございません。」
またしても大きな声援が鳴り止まない、しばらく・・・・。
そして、再び周りから大きな拍手が湧いた。
なんと言う誤算だ、うれしい誤算なのか、それとも・・・
ルミの立つ野外ステージ上は、一段とまた、新たな魅力で溢れていた。
観客もうれしい誤算だろう。
舞台ステージでは、ギターを片手に2曲ほど、ビートルズの歌を歌った。
「ありがとうございます!」
曲が終わって、ルミが頭を下げながら楽しそうにおしゃべり。
当然、拍手の嵐か続く・・・・
ストロボの嵐、カメラマンも、かなりの人数いることが分かる。
ルミはゆっくりとピアノの前に立ち、いすに座る。
衣装は、はや変わりで、胸元、ウエストラインを強調した
ワインレッドのカクテルドレス、ルミにぴったりの!!
胸元には、ダイヤのクロスのネックレス。
まるで、今日のことが予定されていた様な、衣装。
さすが拓哉のスタッフ・・・・
ルミはピアノの鍵盤にすらりと伸びた指を乗せ、
スタンダードジャズを弾き始めた。
曲が終ると、さらに大きな拍手が続く。
そして大きな驚きも含んだ、多くの歓迎の拍手とともに・・・。
再び演奏が始まると、みんなはその曲に聞き入った。
最後に、彼女の作詞作曲のオリジナルを3曲ほど、弾き語りで歌った。
当然衣装も、白を基調とした、ルミが一番可愛らしくチャーミングになる、
シックなワンピースに着替え。当然靴も、だ。
まるでこのステージは、今日ルミのために用意された様だ。
拓哉も驚きを飛び越えて、完全にルミの世界に引き込まれてしまった。
しかし、さすがにシャッターボタンを押し続けることは忘れない、
別の意味で、すばらしいシャッターを押せた様だ。
さらになお一層の、拍手が沸き起こる。
アンコールの拍手、催促が鳴り止まない。
信越放送のスタッフは、思いがけないビッグプロデュースに大満足。
信越放送のプロデューサーは、拓哉たちの今回の仕事に、
出来るだけのサポートを約束してくれた。
その後、アンコールに2曲ほど応えた。
観衆たちも、思いがけないコンサートに大喝采。
すべての曲が終わった後、
多くの人がスタンディングオベーションで、彼女をたたえた。
上戸 ルミの曲は、レコード化はされてはいないが、
多くのファンがいることが、改めて知らされた結果となった。
ある、レコード会社から、レコード化を勧められているが、
いい返事はしていない。
その間、拓哉は舞台の両サイドや、舞台袖から撮影を続けた。
拓哉の周りで、かなりのカメラのレンズが舞台に向けられていた。
思わぬことで、ルミはこの場所でフューチャーされてしまった。
そして、後に分かった事だが、彼女の着ていた衣装も、
脚光を浴びることになる。
地元の人間のほかに、東京から来た雑誌のカメラマンがかなりいた。
数社の週刊誌にも、載ってしまうことになる。
それが、後にプラスと出るかはたまた・・・。
おまけに、この模様は、地元局視聴率のベスト10に入る位の、
高視聴率となってしまった。
すなわち、信州の多くの人が見たことになった。
生放送だったので、局の電話は鳴りっぱなしで、うれしい悲鳴を上げていたそうだ。
電話の内容の多くは、どうしてだ・・・、何故だ!!
上戸 ルミが出演することを、黙っていたという強烈なお叱り。
それと、霧ケ峰 Skypark にあわてて押し寄せて、交通渋滞も・・・・
放送局のほかに、報道カメラマンもやってきていた。
翌日の地元新聞にも、かなり大きなスペースで取り扱われた。
思いのほか、今回の撮影は大きな波紋を呼ぶことになりそうな気配だ。
メーカーにとっては、大きな予想外のプラスになったことだろう。
ルミはステージが終って一目散に拓哉の下に駆け寄った。
拓哉からの暖かな、抱擁に包まれた。
「ルミ、すばらしかった、最高!!」
「うれしー、とっても」
「拓哉に言われるのが最高にうれしーの!」
思わず、ルミは、両手を広げて拓哉に抱きつき、唇を奪ってしまった。
拓哉は、目の前のルミの瞳にロックオン、 しばし呆然・・・・の拓哉
周りの人たちに気を使い、5秒で離れる。
ルミを軽く両手で押し出す、・・・・不本意ながら・・・
「君の才能に、改めて感激だ!」
そう言いながら、ルミに抱きしめられてしまった時の、
あのふくよかな胸の感触が拓哉の体に残ったまま・・・
Cap-7 ファインダー越しに恋して Fin
See you later Nozomi Asami