6-写真家木村拓哉、順調に撮影!
6-写真家木村拓哉、順調に撮影!
「それでは撮影再開!」
「ルミ!・・・笑って」
「ハーイ!」
「よーし、だいぶ良くなったね」
「はい目線こっち!」
「ゆっくり、・・・・・そう・・ゆぅーくりと・・・」
「目線を山の方から俺のほうへ向けてくれ!」
「はいもう1回」
「ずいぶん撮るのね!」
「もう、100回以上シャッター切っているんじゃない?」
「何だ、お前シャッターの数、数えてたのか?」
「だって、暇だもん・・」
「今度は、向こうに行ってみよう・・・」
「はーい」
一行はぞろぞろと反対側に歩いて行った。
「よーし、そこの岩の上!」
「衣装さん、ここで彼女スカートに代えられないかぁ・・・」
「わかりました」
そこで、スタッフは一斉に行動に出た。また、みんなで円陣を組んだ。
「真っ赤なスカートがいいなぁ~」
「OK!」
矛盾はあるが、大きなインパクトがあるだろう。
今どきの娘、スカートで山頂、あり得ないこと無いだろう。
この車山の山頂にはリフトで登れるから、
スカートでやって来れるし、実際やってくる娘も、ちらほらいる。
こんな世の中だからね。
「拓哉さん、準備OKです。」
それでは始めるか。
「ルミ、そこに座って!」
「まず、山の方に足を伸ばして・・・!」
「体をゆっくり横に倒して、誰かを想像して・・・・」
「誰を想像するの?」
「当然、彼氏だろう!」
「じゃあ拓哉のことを思えばいいのね!!」
拓哉は少しはにかんだ顔をする。
そして、彼女の撮影を再開する。
「はい今度、目線こっち!」
「おい、後ろに倒れるなよ!」
「倒れたら死んでしまうぞ。」
「大丈夫!!」
「倒れそうになったら、拓哉。きっと助けてくれるもん。」
「バカヤロー、・・・!」
「俺の両手はふさがっているぞ・・・。」
「拓哉はきっと、持っているカメラを捨てて、私を抱きしめてくれるわ!」
「ずいぶんな、自身だなー・・・!」
「私、拓哉の気持ち・・・」
「完全に、わかってる、もん!」
拓哉は唖然として、言葉がなかった。
しかし、今の拓哉は、“おそらく彼女の、”思うがまま“ の事を必ずするだろう。”
と、心の中で、思った。
拓哉は、撮影中に相手にさまざまな表情を、カメラにさらけ出してもらうために、
あらゆる話術を駆使する。
しかし今日は、彼女におされ気味・・・。
「そろそろ終わりにするか!」
「わかりました。」
スタッフ全員が返事をした。
車山からの下山は歩いて降りることにした。
何人かが不平をもらした。
当然、機材を運んできた人間は、無理があるので、リフトで降りることになった。
当然、車もリフトのところに止めてあるので、反対側に移動させなければならない。
もちろん、拓哉とルミ、そして何人かのスタッフは、歩いて降りることに賛成した。
ルミは最初嫌な顔をしたが、拓哉が勧めると、それに従った。
拓哉は反対側に歩いて降りることは、たいして難しくないことを十分承知していた。
当然、ルミにも、無理はない。
無理なところは、拓哉が助けてあげるつもりでいた。
それに、普通に歩く姿を、拓哉は撮影するつもりでいたのだ。
なだらかな下りの時、目線は左右に、
左右には、今が私たちの季節とばかりに、大地の自然が、
様々な色を着飾って、モーション掛けてくる花たち、
その花の中に混じったルミが、時折気になる。
そう、彼女のスカート。
彼女が降りるときに、下の人は上を向かないことを約束させた。
拓哉にとって、少しずつルミが愛らしく思えてきて、
少しうれしさと困惑が入り交じっている。
(本当の心の隅の印象)拓哉はなかなか被写体に、感情を持たないように、
努力をしている。
それが、今までの彼の信念だ。
彼女を、下から上を見ないという約束は拓哉にとって、
考えてみると、無理な話だ。
なぜなら、どう考えても、ルミを美しく撮るには、下からでないと撮れない。
たまにルミのスカートの下が見えることがあるが、ルミは気にする様子はない。
あくまでも、ルミの良いところを撮るためなのだから。
それにもうルミは、拓哉に心を完全に許している。
所詮、スカートの下は下着を履いているのだし。
拓哉が彼女に向ける、ファインダーの中にパンチラは無い。
「拓哉、手をつないで・・・!」
不安定な場所は、すぐに拓哉に助けを求める。
手を伸ばして、エスコートを求める。
拓哉は黙って、それに従う。
「はい、よ!」
「転ばないように、気をつけろよ!」
「ハーイ!」
「ルミは、今拓哉と、恋人気分でいる。」
「拓哉ももちろん、まんざらではない!」
そうこうするうちに、ほぼ山を降りることができた。
降りきったところに、”コロボックルヒュッテ”が歴史を感じさせる建物として、
凛として立っている。
40年以上ここで鎮座している。
おそらく、霧ヶ峰の神様に近い人が・・・・、
皇太子殿下夫婦もここに立ち寄ったことが有る。
小屋の中にその証拠写真が飾ってある。
このロッジで、一夜を過ごしたのかもしれない。
拓哉もこのコロボックヒュッテは、かなり昔に利用したことがある。
拓哉はルミに、そのいきさつを話した。
「わあ、素敵!」
「できれば、私も泊まりたいわ!」
「昔はねえ、ここはランプ生活だったんだよ・・・」
「本当・・・、憧れちゃうわ!」
益々うきうき気分のルミ、かなりハイテンション、よっぽど楽しいらしい。
リフトで降りた連中が、駐車場に戻ってきた。
「拓哉さん、先ほどのところで、コンサートやっていましたよ!!」
「どんなコンサートなんだ?」
「地元の放送局が主催で・・・」
「地元出身、ゆかりの歌手が、楽しそうに歌っていました。」
観客はまばらだったかな・・・・
「2部構成で、2部では飛び入り歓迎で・・・!」
「素人の参加を募集していたよ・・・。」
その話を聞いて、ルミは大きく反応した。
「ねえ、拓哉・・・」
「私、出てもいい?」
「どう言う事・・・?」
「君、歌えるのか…?」
「まーね!」
「あっ、嘘だろーって顔している!」
「わたしを、信じて・・・、」
拓哉は、ルミの真剣な眼差しを見て、頷いた。
“それに、あのオリジナルの曲”“車の中で聴いた・・・”
Cap-6 ファインダー越しに恋して Fin
See you later Nozomi Asami