5-Finder
蘇る過去、霧が峰、車山、美ヶ原、ルミの歌声―1
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拓哉ははるか離れた日本の信州ビーナスラインを思い出していた。
隣にルミがいて・・・・・、こんな月明かり、星明りを頼りに、
ハンドルを握ってのんびりと車を駈った。
隣から聞こえる、忘れてしまった母親、母の歌ってくれた歌声、
どんな曲だか記憶も無いが、何故か母が思い出される。
今、隣には、シャローンがいる。
髪の色は違うが、かすかに拓哉に触れるコロンの香る髪は・・・・・
それが一瞬タイムスリプさせてしまったのだろう。
エンリコ・ストーンの生意気な態度に腹が立った。
“偉そうに、すんじゃねーよ!”
“ジャップ・・・だって!!”
俺は、日本人に誇りを持っている。あんな奴と仕事なんて・・・・
それに、アイツの冊子にルミの挿絵のような小さな写真が・・・・、
それと、そのプロモ・・・・誰かの差し金か?
あいつ、衣料業界にも顔が利くと・・・・
俺に、ルミのプロモをさせる・・?
それとも、誰かの圧力で俺とルミの・・・・
俺はその俺の一瞬の目線で、もうその場を抜け出した。
“お情けで、仕事なんかいるか!!”
“俺は、まだそんなに自分を安く売りたくねえ!!“
“ザケンジャ・・・ネェ・・!!”
そんな気持ちが、拓哉会議中にも関わらず、会議室を飛び出した。
ハンドルを握る拓哉、アクセル全快で飛ばしたい気持ちを必死で抑えた。
“俺は、もうガキじゃない!”
“今迄とは違うんだ!”
そう言い聞かせて、ハンドルを持つ手にシャローンの髪が触れる。
今、俺は一人じゃないんだ。シャローンに好かれてる。
愛されているんだ・・・・・俺は・・・・!
愛らしい瞳、口元、真っ直ぐに伸びた鼻筋・・・・・・
拓哉は太平洋の海岸沿いの景色の良い場所、と言っても昼間ではないので、
静かで、誰にも邪魔されないような場所に車を止めた。
かすかに、空が明るくなって、月は既に沈み、星も少しずつ明かりを弱くしていった。
拓哉は、エンジンキーを切りオープンカーのドアは開けずに車を飛び越えた。
そのまま、隣のドアを開け、シャローンをエスコートした。
地面は、砂浜でシャローン歩くのに少し苦労していた。
「シャローン、ヒール歩きづらいだろ?」
「うん、脱いじゃうわ!」
そう言って、エルメスの最新のハイヒールを、
無造作に車の助手席めがけて投げ捨てた。
「わぁ・・・足が・・・!」
おそらく、パンストの中に砂が入るのだろう。
「拓哉、後ろ向いて!」
「O.K」
返事を聞くか聞かないうちに、シャローンはすらりと伸びた脚から、
ピンクの膝上20センチのスカートを捲り上げ、パンストを器用に脱いだ。
そして、やはり助手席に放り投げた。
「わぁ・・・気持ち良い!」
「やはり、素足に限るな、砂浜は・・・!」
「そうね・・・、最強、水少し冷たいのが、いいね!?」
「そうだな、眠気が覚める!」
「それに・・・・いやな事も・・・?」
「シャローン、すまなかったな!」
「ううん、全然・・・!」
「わたし・・・、 拓哉の気持ち、わかる気がするわ!」
「そうか、それは・・・有難う!」
果たして、拓哉の本当の気持ちどの程度理解しているのやら・・・・
それは、敢えて聞かない方が良いのだろう。
おそらく、俺の気持ちの半分ぐらいは理解でいているのかな?
「ねぇ・・・拓哉? ルミさんの事・・・考えていた?」
うん・・・鋭い、やはりシャローン感覚が鋭いのだろう。
俺の想像していた以上に、気持ち理解しているのだろうか?
「まあ・・・当たるとも遠からず・・・かな?」
「うそ、当たりでしょう!?」
「確かに、ルミの事は考えていた。だが・・・それだけじゃないよ!」
「それに、沙霧さんの事、あと、日本の事!」
うん、鋭い。やはりシャローン、只者ではない・・・
俺が見込んだだけの才能以上だ。
拓哉、一人で海を見ながらにんまりとする。
シャローンに気づかれないように・・・
「ネエ、抱いて・・・拓哉!」
拓哉は黙って、シャローンを引き寄せ、背中に手を回し、
シャローンのおでこにキスして、首筋、そして可愛らしい、
サーモンピンクの唇にゆっくりと拓哉の唇を重ねた。
あたりは、もう日が昇り、朝日が眩しいくらいに上っていた。
海岸線に二人の影が映り、光の加減で、ユラユラ揺れている。
近くには誰もいない二人きりの海岸・・・そして世界だ。
拓哉の思いは決まっていた。あいつらと仕事をしよう。
何とか、上手くやっていけるだろう。
俺が、大人になれば・・・・・
翌朝、拓哉はマーク・ジェーンに軽く詫び、仕事のOKを出した。
「良かった、心配したよ!」
「すまんな、いきなり飛び出して!」
「気にするな、お前も色々あったんだろう!」
どうやら、俺が不愉快になった事は良く分っていたのだろう。
「あいつも、是非にと言っていた!」
「そうか・・・それでは、後ほど!」
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