3-Finder
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拓哉は依頼された仕事を終らせ、シャローンと共に
マークの大手音楽プロディユーサーのミーテングルームにいた。
拓哉はドキモを抜かれた。
ただただ、スケールの大きさに圧倒されている。
自分が日本で使っていたスタジオとの違いに・・・・・
まあ比較の度合いが違うが・・・
傍にいる、シャローンはただ目を見張るばかりだ。
所詮、シャローンの人生で今までにめぐり合う事の無い世界だろう。
「やあ、TAKUYA!よく来てくれたな!」
マークはラフな格好で拓哉達を向かえた。
かなり年代物の、そしてレアーなアロハシャツに、ジーンズを完璧に着こなしている。
「やぁ・・マーク!」
「マーク、君は・・・・」
拓哉、もう言葉に出ない、まさかこれ程までに凄いとは・・・・
「どうした!? 何か変か、TAKUYA?」
「いや・・・、この会社を君が・・・!」
「今、俺が仕切っているのは、PVだ。」
「そうか・・、それで・・・俺でいいのか?」
「そうだ、君がいい、君が欲しい、君のその感性が欲しいのだ!!」
「そこまで言われて嬉しいが、果たして・・」
「俺に・・・俺で勤まるのか?」
「そうだ、君の感性が、今の音楽とコラボすれば斬新な作品が出来る。」
「最近、CDを購入する人種が減り、CDの売り上げは最近まれに見る低迷だ!」
「まあ・・そのようだな?」
「今の若者はそのCD音だけでは満足していない。」
「当初はそれに群がり、携帯からのダウンロードに満足していた。」
「だがそれも直ぐに飽きられる。これは明白だ!!」
「それで、俺に何を・・・・」
「そう、拓哉にこれからの音楽の新しい旋風を巻き起こしてほしい!!」
「だが、俺に音楽センスは・・・無理だろう!?」
「その点は大丈夫だ、君に最高の音楽プロデューサーを一人預ける。」
「それは、嬉しいが・・・それで、そのプロデューサーと何を?」
「TAKUYA、君の手足として使って構わない。」
「で、その相棒とは?」
「今ここに向かっている。もう到着するだろう!」
そんな話をしている矢先に、ドアがノックされた。
秘書が、ドアを開ける。するとそこに入って来たのは驚くべき人物だった。
「やあ、来てくれたか! 無理を言ってすまなかった!」
「やあ、マーク暫く、だな!」
「で、今回の相棒は・・・彼・・かい?」
「そうだ、紹介しよう TAKUYAだ!」
「ストーン、エンリコ・ストーンだ!」
「よろしく、TAKUYA KIMURA だ!」
だが、ストーン握手をするも、拓哉の目を見ようとしない。
明らかに、こいつと組むのか、こんな奴に仕事が・・俺と出来るかと言った眼だ。
拓哉も、その事を素早く感じ取り不快感が、ふつふつと沸いて来た。
だが、このエンリコ・ストーン、この世界ではやはり飛ぶ鳥を落とす勢いの、
超スーパープロデューサーなのだ。まさに天狗状態だ。
二人の空間を感じ取ったマークはまず、ストーンに声をかけた。
「おい、ストーン、どうも君はTAKUYAの仕事を見ていないからな!!」
「!!!・・・!!・・・」
ストーン無言、何故俺がこんな新参者と、それにジャップじゃねーか。
と、言った感情が見え見栄だ・・・・
当然、拓哉も気に入らない、あの成り上がり物・・め、
少しぐらい売れたからと言ってでかい面、すんな・・・
あんな奴と仕事なんか、願い下げだ。
マークは、この冷たい空気にかなり戸惑い気味だ。
そこへ、じっと黙って座っていたシャローンが急に喋り出した。
「ねえ、拓哉の写真とか、今までの仕事見てもらったら?」
「おう、そうだ、話では仕事の内容は分らないだろう!」
名案とばかりに、マークが収拾策に乗り出した。
結局この場は何とか事無き、を得た。
それにしても、これからの事が思いやられるマークだった。
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4-Finder
マークは、拓哉が製作した、前回の撮影作品をストーンに見せた。
ストーンは半ば強引に見せられたPVを、始めは座った椅子に右脚を左脚に組む形で、しょうがなく見せられていた。
だが少しずつ様子が変わって来た。
まず組んでいた右脚を外した。
そして、少しずつ前傾姿勢になって来た。
どうやら拓哉の作品に吸い込まれて行く様が、マークやシャローンにはっきりと判る。
一方の拓哉は無表情だ。
あえてその映像を見ようとしない。
ストーンの仕草も見てはいない。
じっと椅子に座り眼をつぶっていた。
「どうだ、ストーン!!?」
「確かに斬新だ・・・素晴らしい!」
「なあ・・拓哉・・!」
呼べども、もう拓哉はそのブースにはいなかった。
既に拓哉は自分の車に移動して、イグニッションキーを愛車に挿しこみ、
12気筒のエンジン音が唸りを立てていた。
そのまま走り去って行った。
「おい、拓哉どうしたんだ?」
追いかけてきたマーク、ストーンそれにシャローン、どうして拓哉が突然飛び出し、
車に飛び乗り走り去ったのか、皆目見当がつかない。
残されたのは全てアメリカ人、拓哉の気持ちが全然わからない。
「シャローン? どうして拓哉は・・・・!?」
シャローンは、少しだけ拓哉の気持ちがわかるような・・・・
でもマークの返事には答えなかった。
「どうしたって、言うんだい?」
せっかく拓哉と一緒に、作品を作る事に同意したストーン、
両手を広げて意味不明のジェスチャーだ。
「まあ、今日のところはこれまでで、後の事は後日という事で・・・」
なんとかストーンの気持ちをなだめて、ストーンには本日のところは退散してもらった。
シャローンは黙ったままの拓哉に歩み寄り、
「ねえ・・・拓哉・・・?」
「!!!・・・!!・・!!!」
「あの仕事の依頼・・・?」
「少し考えさせてくれ・・!」
やっと拓哉の声が聞けたシャローン、勿論シャローンは未だに拓哉の心の中に、
確実に触れる事は出来ない。
必死で拓哉の気持ちを、心の中を知ろうとするが、どうする事も出来ない。
拓哉一人の、一人きりの世界に入り込んで、はるか彼方を見つめる。
定まらぬ焦点で・・・・・・何を見つめるのやら・・・
言葉を・・・・どんな対応をすれば良いのやら、シャローンも困惑して、
大いに心配顔の彼女の困惑顔が目に入って・・・・・
そのシャローンの、塞ぎこんだ仕草を見て、
さすがの拓哉も、行動に出ざるをえなかった。
シャローンの健気さ、自分を思う気持ちが拓哉には切ない。
「シャローン・・・・・、少しドライブしよう!」
シャローンは救われた気持ちで拓哉に近づき、黙って頷く。
「すまんな?」
「えっ・・・!」
シャローンその優しい言葉に返す言葉がない。
きっと拓哉、相当自分の中で悩んでいるのに、私に気を使って・・・・
夕日が落ちて既に4時間以上過ぎ、前方の空はもう既に暗い、
だが拓哉の走り去る後方には、上弦の月明かりが、
二人のオープンカーを僅かに照らす。
二人で夜の海岸沿いを、はるか彼方に続く真っ直ぐな道路を、
二つのライトが道案内する。
スピードは、制限速度をかなりオーバーしている。
シャローンのゴールドに輝く長い髪が、時折拓哉の襟足に触れる。
拓哉はそんなシャローンとの触れ合いが好きだ。
車のオーデオからは、イパネバの娘が流れている。
ボサノバのサンバでも、ジャズでもある物悲しい・・・・そして、
リズミカルな曲調が、なぜか今の拓哉には心地良い。
拓哉の失踪する、2シーターのオープンカーのスピ-ドメーターは既に、
90マイルを超え100マイルに達しようとしていた。
シャローンはチラッと拓哉の横顔を見る。
全て彼に任して・・・・・・これから先の事全てを・・・・。
その横顔は何かを吹っ切ろうと必死にもがいている様だ。
シャローンは、ゴールドに光り輝く自慢の髪を、拓哉のきりっとした頬に、
そっと近づけ・・・・そして優しく腰に手を回す。
一瞬拓哉がシャローンのその仕草を、温かい二つの眼で見つめた。
その瞳にシャローンは至上の幸福感を見た。
拓哉の運転するオープンカーは、微塵の隙も与えずこの長く続くアスファルトに、
ぴったりと吸い付く様に失踪した。
拓哉はほぼプロドライバーと言って良い。
日本のコースをプロと走り、決して引けをとらない腕前なのだから・・・
拓哉の気持ちが静まるように、少しずつ月が沈み、
海岸のはるか彼方から、新しい日が昇って来ようとしている。
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