2-釣った魚に食事(えさ)を!
2-釣った魚に食事を!
タクシーは六本木の、香里奈本店の前に着いた。
タクシーを出て、玄関に行くと黒服が、拓哉達を丁重に迎えてくれた。
何も言わずに、個室に二人を案内してくれた。
拓哉は、ルミをエスコートする様にエレベーターで3階まで行き、
豪華な扉の前に案内され、ボーイがうやうやしく扉を開けて二人を案内した。
その部屋は芸能関係者や、政財界の大物が重要な話が出来る部屋で、
テーブルが二人用にしては、かなり大きめなスペースで、
シックな高級家具をふんだんに使った贅沢な部屋であった。
ボーイが、いつもの “お任せ” でよろしいでしょうか。
拓哉は黙ってうなずいた。
ステーキが焼けるまで、拓哉は彼女の家族事情を、さりげなく聴き始めた。
しかし、あまり家族のことは、話したがらない。
ルミの重い口を、拓哉の真面目な姿勢が徐々に開かす。
北沢ルミはやはり、拓哉の想像していた通りだった。
彼女の家庭は、かなり厳粛できちんとしていた。
しかし、彼女の両親の事は聞き出せなかった。
その事が、後に波乱が起こることになる。
ノックの音がして、シェフがキャスターを押して入って来た。
個室の中は、テーブルが広い鉄板で出来ており、
その鉄板の隣に、これから料理する材料をおいた。
シェフの頭には、天井からつるしてあるシャンデリアに届きそうなほど、
背の高い白い帽子が定番のように乗っていた。
シェフがガスに火をつけた。
ステンレスの大きな皿には、ヒレステーキの塊とアワビ、
ホタテ、エビなどの魚介類がふんだんに並び、見るからに高級感が漂う皿。
そして、野菜皿の上にはモヤシ、椎茸、ピーマン等が乗っていた。
シェフが、「それでは、始めさせて頂いて宜しいでしょうか・・・・」
OKと拓哉は手でサインを出した。
二人はすでにシャンパンを開け、飲み干した。
ボトルのサイズは360mlだが・・・、
次に、赤ワインを頼む。
1987年物のボルドーワインを拓哉は選んだ。
何気なくその "コルク" をシェフから受け取る。
「はい・・・!?!」
と、言って彼女に手渡す。
不思議そうにルミが、手渡されたその"コルク"を見て、
「何・・・」
と、拓哉の顔を不思議そうに見た。
拓哉は見てごらん、というような顔をして、そのコルクを指差す。
コルクには、1987年と印刷されていた。
「アッ・・・・・・」
と、声を詰まらせる。
「どうー・・・当りでしょ!」
「どうして?」
「すごい・・どうして・・・??」
それはまさしく、ルミの誕生年だったのだ。
拓哉は、少し自慢げに・・・・
「長年、若い女性を撮っている経験でわかるのさ・・・!!」
「へえー・・・!?」
「嘘・・・すごい!」
「さすがー・・・!」
「ねぇ・・・・まさか、これもナンパの手口・・・!」
「バカ言うなよ!」
拓哉は少し怒った顔で・・・
「写真に関しては真剣さ!」
「・・・そう、・・・なんだ?」
「被写体を見る目は、誰にも負けないよ!!」
「・・・そう・・・!!」
「そして、商品には手を出さないの・・・」
「・・・えぇ・・!?」
悪戯っぽい目で、拓哉を睨み付ける。
「あー・・・ごめん!」
「商品なんて、失礼なこと言って・・・・」
「・・・・・・・!」
「モデルを抱いたら・・・・、撮れなく・・・ なってしまうからさ!」
「へー・・・どうして・・・!?」
「抱いてしまうと、思いが一方的になってしまうからさ!!」
「・・・・・??」
無言のまま どう表現していいかわからずに、拓哉を見つめる。
魅惑的な瞳で・・・・、
そう “ スコティッシュフォールド ” の瞳で・・・!
「でないと・・・・・・」
「依頼者の期待に添えるような写真が、撮れなくなってしまうからね!!」
拓哉は、自分なりの信念をルミに話す。
シェフは淡々と仕事を進める。
まず、ニンニクのスライスを鉄板にのせる。
ジュージューと軽くはねる音がして来たところで、エビ、アワビ、ホタテ、
を鉄板の上にのせ、蓋をかぶせて蒸す。
絶妙のタイミングで蓋を開け、エビ、ホタテ、アワビを鉄板の上でひっくり返す。
そしてヘラで少し押し付ける。
その後、蓋をかぶせる。
二人の鉄板の前の方に、新緑の葉の形をした皿を置く。(おそらく、魯迅作の皿だろう)
すべてにおいて、1級品を使うのが、この店、香里奈の特徴だ。
魚介類も、北海道や伊勢から空輸されたものばかりで、
ほとんど、一般の家庭の食卓には、乗らないものだ。
シェフが蓋を開け、右手に研ぎ澄まされたナイフ、左手に持ったフォークを上手に使い、
エビのからをとり分ける。
他の魚介類も同じようにして、食べやすい大きさに切り分ける。
それを、二人の皿の上に乗せる。
シェフの口から
「温かいうちにどうぞ!」 と・・・。
拓哉は箸を取り出して、口の中にほおばり、
「うーまーいーぃ・・」と叫ぶ。
彼女も同じように口の中に含み、
「おいしい!」と小さく叫ぶ。
「本当においしいわ!」
「丁度おなか、ぺこぺこだったの・・・!!」
「うーん、幸せ感じるー・・・」
次に、シェフはステーキを焼き始めた。
ジュージューと言う音と、美味しい香りが充満してきた。
「ステーキもおいしい・・・、すごーく!!」
彼女は全然気兼ねしなく、落ち着いて食べた。
育ちの良さがにじみ出ている。
間違い無く食べ慣れている証拠だ。
仄かに彼女の頬がピンク色に染まる。
微妙に可愛らしさの中に色気さえも感じられる。
一瞬だが、拓哉・・・・・見とれてしまう。
彼女の顔に色っぽさと、小悪魔さが・・・
“可愛い! スゲー!”
“ヤベー・・・・!”
「何か・・・・他に、欲しいものある?」
「そう、ねぇー・・・?」
「おいしいデザートが食べたいわ!!」
「ではアンマンドから、注文しようか!」
ここでも、拓哉はカメラを片手にもって、シャッターを切り続けている。
フイルム、無駄になることも承知で・・・、
とにかくシャッターを切る。
何度も何度もシャッターを切り続ける事で、
カメラの抵抗感を取り去ってしまうのが目的だ。
それに、拓哉にとって、目の前にあるものは、すべて被写体なのだ。
どんな仕草でも、見逃さないのが、拓哉の良いところだ。
ついでに、出された料理や料理風景も、カメラに納める。
何か別の用途に、使う目的があるのだろう。
二人とも十分に、お腹を満たして満足な気分で、香里奈を後にする。
拓哉は、
「じゃー、そろそろ、スタジオに行こうか?」
「そうですね!」
「・・・はぁーぃ・・・」
何故かルミに、ルミの体全体から・・・・
楽しそうな感じが見受けられる様になっている。
おそらくルミも、新たな出会いや、これから起こるであろう事に、
期待に胸を弾ませているのであろう。
タクシーで、二人はスタジオに向った!
Cap-2 ファインダー越しに恋して Fin
See you later Nozomi Asami