17-ルミが・・・失踪!
17-ルミが・・・失踪!
このままだと、ルミは完全にからを閉ざしてしまい、
これからの撮影は、きっとうまくいかない。
そう思い、拓哉はルミに対して、今まで培った拓哉の全能力を、
そそぎ込まなければならない事を悟った。
そう、ルミに擬似恋愛でも良いから、愛していかなければいけない。
と、心の中で思った。
「ルミ申し訳ない!」
「俺が悪かったよ!」
「ルミに初めて声をかけたことを覚えているかい?」
「思い出してほしい!」
「ルミを愛しているよ、本当に」
「嘘・・・嘘でしょ・・・」
「嘘じゃないよホントだよ?」
「わかったわ、今拓哉が言った言葉。気持ちが入っていたわ!」
「今日は許してあげる」
「今日は、よ・・・」
「今日は、って?」
「だから、今日だけよ・・・」
「これからもっと、ちゃんと・・・。私を好きになってほしいわ!」
「わかった、努力する!」
「え、・・・・努力?」
「やっぱりねっ? 拓哉は人をだませないわよ!」
「そこが好きなんだけどね・・・・!」
「強がっているけど、私にはわかるわ、本当は優しい人なんだって・・・」
「まいったなあ・・・」
「ルミには、かなわないなぁ!」
「ごめんよ」
「今日のこと、許してくれるか?」
「それは、これからあなたの努力次第ね・・・」
そして、今度はルミの方から拓哉に抱きついた。
「本当に愛しているんだから私・・・・もう・・!」
「わかったよ。わかってるよ!」
「繰り返して言うと、信憑性が薄れちゃうわ!」
「わかった、わかった!」
「ほらまた・・・」
どうもお互いの気持ちはかすかだが、細い糸で、つながってはいるようだ、
かろうじて・・・
拓哉とルミは二人寄り添って、ホテルに戻っていった。
拓哉のポケットの中には、ほんの少しだけルミの温もりと、
爽やかな香りの匂いがこもった、ブラが入ったままだ。
おそらく、そのことは拓哉の頭の中から消えてしまっているだろう。
それより拓哉にとって、今朝の出来事が、かなり心を悩ませた。
が・・・痛い心境で、ホテルの玄関をくぐり、みんなが待っている食堂へと向かった。
ルミは先ほどの不機嫌は、まるでなかったように、みんなのニコニコ笑顔の中で
「拓哉さんが連れて行ってくれたお花畑、とっても素敵だったわ!」
「それに空気はとても澄んでいて、大きな星がいっぱい見えたわ!」
「朝が早かったので、西の空はまだうっすらと星が輝いていたの!」
ルミ、目一杯のがんばり、痛いほど気持ちがわかる。
拓哉に体を張って、自分に心を向けてほしくて、あんな行動に出た。
ルミの人生で、今までに決して味わったことの無い虚しさ。
味わったことの無い敗北感。
お嬢さんとして、社長令嬢として、何不自由することなく育った。
ルミは自分に振り向いてほしくて、全裸になるなんて!
今になって、とてつもなく恥ずかしさが込み上げてくる。
それを隠すために意識的に “ハイ” になっている自分が惨めったらしい。
かなり自分が見えなくなってしまっている。
本当に拓哉に恋してしまった自分、
かつてこんなに積極的に、男にアタックした事など無い。
昨夜ひたすら、拓哉を待ち続けて、どれほどの涙を流した事だろう?
普通にしているだけで男が寄ってきた。
そんな男を軽くあしらってきた、
中には本気で好きになったこともあった。
いつでも、ルミは受けに回っていた、しかもルミの、
ほとんど思い道理に回っていた。
だから自分のこんな積極性があったことの自分に驚きもある。
ルミはあの夜、確実に嫉妬していた。
そう、嫉妬などという言葉、ルミには存在しなかっただろう。
好きで曲を作り、詞も書き、好きに歌っている時も、周りから別格扱い、
ほとんど何の苦労もしなかった。
今考えて見ると、それは父の配慮がそうさせてくれたのかも? しれない。
少し、冷静さを取り戻した自分を確認して見て。
ルミから見ても、沙霧さんは非の打ちどころが無い。
本当にスーパーレディだ、頭脳明晰、スタイル抜群、
美人で物事の対応がすばやい。
そんな沙霧さんに、私など勝てるわけが無い。
女の自分から見てもメチャクチャ素敵な大人の淑女。
拓哉が惹かれない訳が無い!
自分がもし拓哉ならきっと好きになってしまうだろう。
でも昨夜沙霧さんとどんな話しをしていたのだろう?
拓哉に突っ込んで聞いても軽く交わされてしまった。
とにかく、二人の仲はかなり親密だった。
それに,その事を聞いたとき、少し動揺していた。
奥の手を使って、沙霧さんの事調べてみるか?
周りから一斉に
「へぇーそんなすごかったの?」
「じゃあ私達も見たかったわ!」
「それじゃあ今晩日、星でも見ようか。」
「残念でした。今日撮影終わったら、軽井沢に移動よ。」
とマネージャーが、日程確認するように、みんなにたしなめた。
「それは残念だなぁ!」
「また、いくらでも来れるじゃない!」
「そうだな、その時の楽しみに、取っておくか。」
ルミは朝食も摂らず、一人で近くに散歩に出て行ってしまった。
朝食は、バイキングスタイルで、それぞれ自由に美味しく食べていた。
朝食をとりながら、みんなワイワイとやっていた。
マネージャーが、食事が終わった頃、
「30分休憩、各自用を済ます!」
「機材を整えて、昨日の夜の打ち合わせどおり、30カットほど撮影しよう!」
「衣装さん、メイクさん、よろしく、ね!」
「日中は、高原を歩く、ファッションショー形式で行こう。」
「わかりました。」
「了解」
沙霧は、みんなの話を黙って聞いていた。
少し頭を叩いている。
2日酔いだろうか、今日は、拓哉とは一言も話していない。
昨日のこと少し反省しているような、感じも見受けられる。
そこへ拓哉が近寄って、
「2日酔?・・・、」
「そうかもね。それに、・・・・」
そこへ長谷川マネージャーもやってきた。
拓哉たちは、話をそらすことにして、
「長谷川さん、今日はお宅様の作品を主体にとりたいと思いますけど、よろしいですか。」
「はいお任せします。」
「今回私は、トラブルが起こったときだけ口を挟みます。」
「そうですか !・・・・」
「それ以外は、沙霧くんに責任を持って、やってもらうことにしております。」
「細かい打ち合わせは、彼女と行ってください。」
「私は、あくまでも傍観者として、参加させていただきます。」
「わかりました」
拓哉少し上の空、・・・ルミのこれから少し気になるな・・・・
「うちの部下を信じております。」
「それに、木村拓哉さんも!」
「光栄です!」
少し感覚がずれて答える。
「ところで、拓哉さんは、今朝、ルミさんと、一仕事して来たんですね?」
「あっ、はい・・・・。」
「今回の撮影旅行で、結果的に欲張って、仕事を三つ抱えてしまいました。」
「そのため、あらゆる状況に応じた撮影を行なっておかないと、困るので、・・・」
「さすがですね、・・・・抜かりありませんね。」
「恐縮です。」
長谷川マネージャーは、今の言葉を聞いて、美ヶ原高原のすがすがしい空気を、
吸いに行くといって、外に出ていった。
ルミと話しデモするつもりなのか、ルミが出かけた方に向かって。
しかし、靴は革靴、歩くのにかなり苦労しているようだ。
拓哉は、ホテルの従業員たちに聞いて、女将の部屋に行き、
最適な場所を細かくアドバイスしてもらった。
かなり地元の人間しか知らないような、穴場を紹介してもらった。
また特別に、普段、お客さましかのせないバスを、
1台チャーターしてもらい、撮影機材を積み込むことに、
同意してもらった。
山頂では、自然を守るため、一般客の自動車通行を禁止している。
この美ヶ原高原にやって来るには、2つのアクセス方法がある。
一つは和田村、霧が峰方面から昇ってくるアクセス方法。
山頂までお客様が車で登れる。
そして、高原ホテル山本小屋の方から、
もう一方は松本方面から、王ヶ頭へのアクセスだ。
そして美ヶ原高原は山頂が穏やかで広大な草原が延々と続く。
その両端をホテルの従業員が送迎してくれる。
すなわち、山本小屋から王ヶ頭の方にやってくる人のため、
また王ヶ頭から山本小屋の方へ、下山していく人達のための交通手段なのだ。
そこの所を、長野県のお偉いさんに、話が通っていた。
当然、この美ヶ原を大々的に宣伝してくれると言う事が、大儀名文だが。
玄関の前に、撮影クルー、沙霧、拓哉がそろっても肝心のルミの姿がない。
ルミの部屋に二宮を走らせる。沙霧も後を追う。
しかし部屋にはいなかった。
部屋の中には、スーツケースはそのままだが、ハンドバクみたいな小物入れは、
見つからなったようだ。
沙霧が青ざめた顔をして呆然と立ちすくんでいた。
暫らく様子を見る事にし、手の空いている人間は手分けして辺りを捜すことにした。
みんなに携帯は持たすように拓哉は釘を刺した。
迷ったりする可能性が高い、それに天候の変化も著しい、携帯はこの辺は使える、
何しろ電波塔が真上にあるのだから。
拓哉は、携帯のリダイヤルボタンを3分おきに押し続けている。
沙霧も同じように携帯のダイヤルを回す。
沙霧は別のボタンも押している様だ。
それぞれ、別のコールの音が、交互に広い草原に、
無常に響く・・・・・だけ!!!
ルミのやつどこに行ったのだ “バカヤロー” まさか・・・・
Cap-17 ファインダー越しに恋して Fin
See you later Nozomi Asami




