16-沙霧にルミが嫉妬、拓哉は
16-沙霧にルミが嫉妬、拓哉は
「それが今、あなたにこんなことを・・・話して・・・」
「今日は本当にどうかしているわ!」
「今日私の言った事は忘れて・・・」
「ねぇ・・・お願い・・・・」
「いいえ忘れません。しっかり受け止めておきます。」
「私はエイズよ・・・」
「あなたの子供産めないのよ・・・・」
「そんな事私にとって、ぜんぜん問題ではありません。」
「あなたが好きなのです・・・・。」
「あなたが好きになったのです!!」
「あなたを愛しています!!!」
「あなたを、これからずっと、愛していきます必ず!!」
「少し落ち着きましょう!」
「私たちは今、少し感情的になっていると思うわ・・・」
「私は今日、どうかしている」
「私は、冷静です。」
「なんでこんな事、話してしまったのかしら?」
「今まで、こんな事誰にも話したことなかったのに・・・アルコールのせいかしら・・・、」
「それとも、あなたが私にしゃべらせてしまったのかしら・・・」
「・・・・・」
「もう、やめましょう・・・」
「明日、仕事しっかりやりましょう。」
「僕は、沙霧さんを・・・・」
「わかったわ、わかったわ!!・・」
「もう・・・、よしましょ!」
その言葉で二人はしばらく沈黙が続き、お互いに見合った。
見合ったまま時は止まったような錯覚にとらわれていた。
突然二人はわれに帰り、自然にそれぞれの部屋に帰って行った。
今夜も琥珀の液体の量は、沙霧も拓哉もかなり進んでいる。
時が高原を流れ、夜明けが近づいて来ると、先ほどまでの激しい風は、
まるで嘘のように殆んど止み、静けさを取り戻した。
静寂の夜が、この信州のアルプスと言われる草原美ヶ原を、
しっぽりと包み込む。
コバルトブルーのカーテンで。
翌朝、美ヶ原高原の空は雲一つない、天空へ抜けるような青空だ!
絶好の天気となった、昨夜の天気はまるで嘘のよう、山の天候は変化が激しい。
??二人とも、昨夜の事は何もなかったように、淡々と仕事が順調に進んだ。
拓哉は、ルミに日の出前の写真を撮りたいと言っていたので、
二人して、王ヶ鼻に向かった。
ほとんどの、ハイカーが知らない場所だ。
ホテルから少し離れた、お花畑と言われている、
花が一面に咲き乱れている場所に行った。
そこは、昔ほど花がいっぱい咲いていなかった。
それでも、今が夏とばかりに、あたり一面にさまざまな花が咲き誇っている。
そこで、二人きりでの撮影が始まった。
拓哉が、ルミにファインダーを向けても笑顔がない。
おそらく、昨日のことを怒っているのだろう。
“つっけんどう“な、態度がありありと、顔に見てとれる。
「何、怒ってるんだよー・・・」
「別に・・・、」
「顔に怒っていると、書いてあるぞ!」
「そう・・・、だったらそうかもね!」
「拓哉ったら、沙霧さんとずっと話してばかりで・・・、」
「私なんか、相手にしてくれないんだもん。」
「いや、あれは・・・!」
「いっそのこと、沙霧さんで写真を撮ったら・・・?」
「彼女、スタイル抜群だし、美人だし・・・・・・。」
「私より、いい写真撮れるんじゃない・・・・・。」
「拓哉は完全に、私より沙霧さんのほうを向いていたわ。」
「バカ言うんじゃないよ。」
「おれは君の写真を撮りたいのだ。」
「昨日は彼女と、かなり込み入った話をしていたのは事実だよ。」
「君は僕の事をどう思っているのか知らないが・・・。」
「前にも言ったかもしれないが、僕はルミの写真が撮りたいのだ。」
「それで、どんな話したの?」
「うん、彼女の過去の話しさ!」
「どんな過去の話?」
「申し訳ないけど、彼女のプライバシーに関する事なので言うことはできない。」
「そう・・・」
「彼女、素敵な人だから・・・・・?」
「拓哉、口説いていたんじゃ・・・、ないの?」
「そんな事は無い?」
明らかに拓哉に動揺が走った。
拓哉は話をすり替えようと、ルミのほうに向いて
「本当に彼女の生い立ちについて、聞いていたんだよ!」
「そう、・・・それじゃあ、私の事愛してくれているよね・・・」
と、ルミは少しふてくされたような顔で、拓哉に向かって言った。
拓哉は、先ほどの動揺がおさまらないうちに、ルミに向かって言ってしまった。
「正直言って、君に今のところ恋愛感情は持っていないのだ!」
「君は誤解しているんじゃないか?」
「君は素敵だ。プロポーションも良いし、実際に、僕の見立てでは、画になる。」
「今回の撮影に関して、君がいちばん適任だ。」
「・・・・」
ルミの沈んだ顔、今にも泣き出しそう・・・
「君をスカウトしたのも、僕の被写体として、魅力を感じたからなのだ。」
「君のことは好きだよ。しかし、愛とか、恋とかという事には、今のところならない。」
「被写体を愛してはいけないのだ。」
「どうして?」
「ファインダーを通して、愛することはするよ。」
「その辺のところを、君は理解してくれないか・・・」
「もしかして・・・・、君が僕のことを好きになってくれるのはうれしい。」
「まして、愛してくれるなんて、尚更うれしい。」
「君に誤解されるような、振る舞いを見せたとしたら許してほしい。」
「君が好きなことは、事実だ」
「いとしい人と思っている、それは愛しているのかもしれない!」
「私、拓哉のこと、愛しちゃったもの!」
独り言に近い小さな声で・・・
「しかしそれは、ファインダーを通してね。」
「ダイレクトに・・・、君の目を見て・・・」
「愛してると、言ってはいけないのだ!」
難しいことだが、相手に愛を感じさせることはOK、必要なのだ!
しかし、自分から愛していると言ってはまずいのだ。
「僕が今まで生きて来て、写真を撮る上で、モットーにしていたことだが・・・・」
「生の被写体を愛してはいけない。」
「そうすることによって、写真が主観的なものになってしまう!」
「出来上がった作品は、個人的な愛情だけで成り立ってはいけないと思う。」
「みんなから、愛される作品になってほしいのだ」
「俺はそう思っている。」
「そして、これからもそうするつもりだ。」
ルミは、キツイ調子で、
「そんなの、おかしい、じゃん!!」
「一人の人が、愛してくれる作品は、多くの人が愛してくれると思うわ!」
「ねぇ、そうでしょう?」
「一人に愛されて、素晴らしいと思われ、世の中に生み出された作品は、
ひとりふたりではなく、多くの人が、愛してくれる作品になると思うわ。」
「ねぇ、私の言っていること間違っている!」
拓哉、圧倒され返す言葉も無い
「もしも、拓哉の考えで、多くの作品を撮っていた場合、多くの女性は、
私と同じように悲しい思いを、していたと思うわ・・・。」
「ファインダー越しに、あなたの目が見えることがあるのよ!」
「そんな時私、あなたに愛されていると感じるわ。」
「体がジンジンして、抱かれている感じ、よ!」
「そう、もうどうにかして、・・・・って、感じ!」
「私は、拓哉の中にいるのだわ・・・、って!!」
「・・・・・・」
相変わらず拓哉は、無言のまま・・・
「そう、夢の中に、素敵な世界に、連れていってくれるようだわ!」
「そんな気持ちは私だけではないわ・・・・!私は確信する!!」
「絶対に・・・・!」
拓哉は、一方的にルミにまくしたてられて、返す言葉がなく、
ただ彼女の機関銃のような連射攻撃を受けたまま、ファインダーから、
目を外してしまった。
拓哉かなり、応えている様子がありありと見受けられる。
撮影は中断したまま、朝日が上がってしまい、結局、
ものになる写真は撮れていない。
するとルミは、いきなり何を思ったか、
急に、ブラウスの上に着ていたサマージャケットを脱ぎ始めた。
そして、次に手早くブラウスを脱ぎ始めた。
「おい、何してるんだ、ルミ?」
「何って、裸になってるのよ!」
そう言いながらも、ルミの手は止まらない。
次はブラジャーのホックを外し始めた。
「やめろよ・・・、やめろっ、たらー・・・・」
拓哉の制止を聞かずに、ルミはミニスカートも脱ぎ始めた。
「ルミ、どうしたんだよ・・・?」
「どうしたって、・・・・!」
「今のままでは、撮る写真がないのでしょう・・・」
「だから・・・」
「拓哉に、私の裸、・・・・撮ってもらおうと思って・・・」
「バカ言うんじゃないよ・・・」
「バカじゃないわよ、正気よ・・・!」
「このままじゃ、私悔しいの!」
そういながら、最後の1枚も脱ぎ始めた。
「頼むよ、お願いだから・・・、服を着てくれ!」
拓哉はルミを正視できずに、下を向いたまま叫び続けた。
ルミの声は、よほど寒いのか、だんだん声が震えてきている。
「ルミ、風邪ひくぜ!」
「ここは朝夕になると、5度Cぐらいに下がっているのだよ。」
ルミは震える声で、
「私・・・、沙霧さんに負けたくないもの!」
「昨夜・・・、とっても寂しかったのよ!」
「そのうち、私の部屋に来てくれるかと思って・・・・」
「ずっと待っていたんだから・・・?」
拓哉はルミのもとに駆け寄って、落ちている服を着せ始めた。
泣きながらルミは、
「拓哉のバカ」「バカ、バカ、ぁー・・・」
「私の気持ち、少しは分かってよ!」
「分かってる、って!」
「わかってない、全然!」
またしばらく沈黙がつづいた。
震えるルミの体を温めながら、右手でブラジャーを地面から拾い上げ、
手渡そうとする。
しかし、今の状態ではどうすることもできない。
すでにブラウスは着てしまったのだから・・・・、
仕方なく拓哉はブラジャーを、自分のジャンバーの右ポケットしまってしまった。
さすがにルミは足元に落ちたショーツを自分で履いて、スカートも身に付けた。
ルミは泣きじゃくりながら、
「負けたくないのよ!」
「負けたく・・・!」
「誰に・・・」
「決まってるでしょう!」
「沙霧さんよ!」
拓哉は冷え切ったルミの体を、ただきつく抱きしめるだけで、
言葉が出てこない。
Cap-16 ファインダー越しに恋して Fin
See you later Nozomi Asami




