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断罪を許されし者  作者: 仕方舞う
3/12

神と眠り姫

 神は、犯罪因子者を奈落に堕とす事で、その因子が消える事に期待した。しかし、犯罪因子が消えた者は全体の3%以下。堕とされる犯罪因子者の数が圧倒的に多く、奈落の許容量は限界に達してしまう。神はこれ以上の奈落の運営は厳しいと一度は解体を視野に入れた。だが、就任したばかりの現在の神官長は奈落閉鎖に猛烈に反対。神は逆に説得される形で、神官長に奈落の運営を一任した。そして、神官長が奈落に対して行った方策こそが、今の状況を生み出した悪魔の導入。神官長の考えの根底には、「犯罪を犯す者は何があっても変わらない」と言うものがあり、犯罪因子者を犯罪者と同じ存在と定義し、悪魔による処分を正当な罰と位置付けた。神官長が奈落を運営するようになって10年。大量の犯罪因子者を奈落に堕としても許容量が減っていく状況に、神は違和感を覚え、密かに奈落を調査した。だが、神官長が施した魔法陣の影響で神の目は欺かれ、悪魔の存在も大量の死者の存在も全く知る事が出来なかった。神が悪魔による処分を知ったのは3年前。煌太が不当に奈落に堕とされた事実を知った時、審議官の調査をしている最中に奈落の現状を垣間見る事になった。神は反対する神官長を引き連れ、煌太に謝罪するべく奈落に赴いた。それは、謝罪と共に奈落の現状をその目で確認する為。目の当たりにしたのは、想像を絶する地獄。神は謝罪を済ませたら即刻解体する決意を固める。だが、煌太の存在がその決定を断念させる。奈落に堕とされた者達の犯罪因子が、煌太の存在によって消滅していた。神は、いつしか犯罪を世界から根絶できる事に期待し、奈落の現状を煌太に委ねる事にした。



 日本、医療技術開発病院。

 神の指示で作られた世界最高峰の医院。「全ての人に最高の医療を」の号令の下、この医院では様々な病気の治療を研究している。今まで不治とされていた病も、結集した医療技術によって治療法を開拓。そのおかげで、今となっては治らない病は無い…と言ってもいい程。

 たった一人の特殊な病を除いては…。

「おい、本当か?」

「はい…訪問すると連絡が…」

 医院の中は騒然としていた。

 それは、突然神が訪れる為。

「何故神が…? もしかして、治療できない少女の事か?」

 集まった医者達は、今も治療できていない少女を思い浮かべる。

「手は尽くしている。だが、原因も分からない状況では…」

 医者達は、治せない病が今も残っている現状に怯えていた。神を失望させてしまう結果は、神官長から厳しい罰を受ける恐れがある。


「すみません、何度も声を掛けているのですが…」


 聞き覚えのある声に、医者達は心臓が激震。

 恐る恐る振り返ると、そこには神の姿。

「も、申し訳ありません! な、何用ですか?」

「知らせていた筈ですが、白森明里(しらもりあかり)さんへの面会をお願いしたい」

「ぞ、存じ上げています。どうぞ、こちらへ…」

 一人の医師が、恐る恐る神を病室に案内する。



 辿り着いたのは、3階の303号室。

 6人分のベッドがある大部屋だが、利用しているのはたった一つ。外の景色が良く見える窓際のベッドのみ。他のベッドは、仕切り用のカーテンが締まっている。

「こちらが、白森明里のベッドです」

 医師はベッドまで案内しようとするが、神はそれを断る。

「申し訳ないですが、しばらく二人きりにしてくれませんか? 大事な話があるもので…」

「で、ですが、患者は意識の無い昏睡状態でして…その…会話は…」

「大丈夫ですよ。これでも神ですから…」

 物凄い説得力のある言葉に、医者は何度も頭を下げ去って行く。

 医者が居なくなると、神は窓際のベッドに向かう。

「随分待たせてしまいましたね」

 ベッドでは、明里が眠っている。

 病気のせいか、長い間の昏睡のせいか、明里の体は痩せ細っていた。腕には栄養を送る為の点滴が繋がれ、ベッドの脇には心拍を測定する為の機器が設置されている。花などは飾られておらず、誰も見舞いに訪れていないようだ。

 神はベッドの隣に置かれた小さな椅子に腰かけ、眠る明里に話しかける。

「病のせいで動けないのは辛いですか?」

「…」

「…そうですか。私にはどうする事も出来ないので、そう言って貰えて助かります…。本当に、申し訳ない…」

「…」

「あなたは優しいですね。まるで…君が思い続けている彼のように…」

 神には、少女の心の世界が見えていた。

 真っ暗な世界に一台のブラウン管テレビがあり、その前で明里が正座している。寝ている姿とは違い、血色も良く痩せ細ってもいない。

「私は、優しくありません。ただ、物分かりが良いだけです…」

 明里は、ゆっくり振り返る。

 瞳には涙を一杯溜め、今にも泣きだしそうな顔をしている。

「どうして、そんな悲しい顔を?」

「すみません…。『彼』が、あまりにも悲しそうで…私まで…」

 明里が見ていたテレビには何も映し出されていない。ただの砂嵐。

 神の目を通しても砂嵐にしか見えない。

「『彼』は凄いんですよ! 悪い悪魔をたった一人でやっつけて、困っている人達を助けているんです!」

 目を輝かせる明里は、身振り手振りでテレビに映し出されるという『彼』の事を神に伝えようとする。まるで自分の事のように、嬉しそうで自慢げに。

 しかし、しばらくすると急に悲し気にテレビに視線を移す。

「でも…毎日毎日泣いているんです。助けられなかった人の事を考えて…」

 神も、明里と同じように暗い顔になる。

「私にもっと力があれば…」

 明里は、今更ながら神の存在に疑問を抱く。

「あの…ところで、どちら様ですか?」

「これは失礼。私はゼオル。人々には、神と呼ばれています」

 話しかけた存在が神と知っても、明里は動揺しない。

「…そうですよね。神様でなければ、私と会話する事なんて出来ないですね…」

 明里は、昏睡状態になっても意識は常に保たれていた。

 来訪する医者や看護師、見舞いに来ていた親や親族など、訪れた人全てに心の声で呼び掛けていた。だが、心より発せられる言葉は誰にも届かなかった。諦めずに何度も試みたが、今は無理と悟っている。

「神様、私を治しに来た訳ではないのですよね? だったら、どんな用でここに?」

「明里さん、実は…折り入ってお願いが…」

 神妙な面持ちのゼオルに、明里は笑顔を見せる。

「何でも言ってください。とは言っても、大した事は出来ませんが…」

 辛い状況にも拘わらず、明里は度々笑顔を見せる。本当は誰よりも泣きたい筈なのに、悲しい顔をするのはテレビに映し出されているという『彼』の為だけ。

「お願いと言うのは、『彼』の事です」

 明里の表情は、弾けそうな笑顔に変わる。

「『彼』の為に出来る事があるのですか!」

「はい」

 明里は、喜びを抑えきれず飛び跳ねる。

「私が、『彼』の為に! こんな嬉しい事があるなんて…」

 仕舞には嬉し涙を流す程。

 ゼオルは、明里の『彼』に対する強い想いを感じ安堵した。

「そろそろ、話しても良いですか?」

 明里は、恥ずかしそうに再び正座をする。

「明里さんにしてもらいたい事は、たった一つ。『彼』を助けて貰いたい」

 端的な話で明里は困惑。

「助けるって言われても、私は…」

「大丈夫です、その時が来たら全てが解決しています。ですから、病気の事は気にせずに」

「病気が…? でも、神様でも治せないんですよね?」

「私には無理ですが、治せる人物の協力を得る事が出来ます」

「…その人は、納得してくれるのですか?」

 明里は心配だった。

 治せる人物が、何かを犠牲にするような気がして…。

「はい。その人物も、『彼』の事を想っているので」

 明里は、映らないテレビを見て治せる人物が誰なのかなんとなく理解する。

「そうですか…。だったら、その人の為にも精一杯頑張らないと!」

 憂いを帯びながらも、しっかりした決意の眼差し。

 ゼオルは、深く頭を下げる。

「ありがとうございます。お陰で心配が消えました」

 明里は、ゼオルの頭を垂れる姿に恐縮。

 頭を上げるように何度も促す。

 だが、ゼオルは応じない。

「私は、『彼』の為に何か出来る事が嬉しいのです。ですから、お礼も謝罪もいりません。その代わり、神様も『彼』の為に何かしてください。ほんの些細な事でもいいので…」

 ゼオルは、ようやく頭を上げる。

「出来る事…」

 ゼオルは立ち上がり、もう一度明里に頭を下げると、何かを思い出したかのように病室を後にする。

 その姿を見た明里は、神とは思えない様子に信じようと強く思った。全体の為に決断を下す神ではなく、一人の為に奔走する友人として。



 奈落、地下一階。

 商店の一角に住民達が集まり、神官の攻撃によって起こる危機について話し合っていた。

「どうする? もしかしたら、業者の変更があるかも…」

「変更ならまだマシだ! もし、完全撤退となれば…俺達は…」

 心配しているのは、イフリートを倒した事。

 神官であるイフリートを倒した事で、奈落の締め付けが厳しくなると心配していた。秘密裏に行っていた取引が出来なくなれば、これまでのような生活は出来なくなる。最悪の場合は、最低限の供給も絶たれ、飢え死にを待つしかない。

「すまない。俺がイフリートを倒したせいで…」

 煌太は、皆に申し訳なくて何度も頭を下げる。

 しかし、煌太を責める者は一人も居ない。

「何を言っているんだ! 俺達は誰一人として、お前のやった事を間違いだと思っていない」

「そうだぜ。イフリートを倒さなかったら、今頃全滅だったぜ」

 煌太を全員で慰めていると、長老が遅れてやって来る。

「そうじゃよ。煌太は今まで通り断罪に勤しんでくれ。儂らは何があっても本望じゃ」

 長老の意見に、全員賛同。


「た、大変だ~~~!」


 ひょろが血相を変えて走ってくる。

「どうしたんじゃ?」

「た、大変なんだ。とにかく、もう…何が何だか…」

 慌てたひょろは、呼吸が乱れ、言いたい事の半分も伝えられない。

「いいから、とにかく来てくれ!」

 説明できないなら見せればいい。

 ひょろは、煌太の手を引っ張っていく。



 ひょろが連れて来たのは、物品を搬入する為に作られた通路。

 業者が普段から利用している通路で、勿論、外に通じている。ここから逃げ出せば、と思うかもしれないが、この通路には特殊な封印が施され、奈落に堕とされた者は決して通る事が出来ない。通ろうとすれば、封印の影響で奈落の最下に堕とされる。

「…これは」

 ひょろに引っ張られた煌太は、普段では絶対に有り得ない状況に唖然。

 通路には、天井に届きそうな荷物の量。

「儂らは、何か幻覚でも見ておるのか?」

 長い間ここに居る長老でも見た事が無い光景。

 勿論、他の住民も初めて。

「締め付けどころか、こりゃ~大盤振る舞いにも程がある!」

「…まさか、誰かが倉庫の貯えを全部使ったのか…? いや…長老が驚いている時点で違うか…」

 全員が思考停止寸前にまで追い込まれていると、黒服を着た業者達が荷物を抱えて現れる。

 一様に不満そうな顔で。

「おい、一体どうなってるんだ! 何か裏でもあるのか?」

 ひょろが業者に尋ねると、ボソリと呟くように説明。

「神がご命令されたのだ。「奈落の生活水準を向上させろ」とな。もし行わなかったら…処分を科す…らしい」

 業者は、不満ながらも物品の搬入を続ける。

 通路は大量の荷物で埋め尽くされていく。

「神が…じゃと?」

 長老は、今までの神の対応を思い起こしていた。奈落の現状を知った時も、謝罪に来た時も、一切対応を変える事は無かった。今更生活水準の向上と言われても信じる気になれない。

 長老は、怒りをぶつけるつもりだった。

 だが、煌太の反応が振り上げようとした怒りを治めさせる。

「ようやく大切な事を理解したようだな。これで、皆の笑顔が増える」

 煌太は素直だった。

 正しい行いは何の疑いも持たず真っ直ぐに受け止める。

「…そ、そうだな」

「良かった良かった…」

「煌太には敵わんの~」

 煌太の素直さのお陰で、神の厚意を喜んで受け取る事になった。

 しかし流石に、一人の少女の進言のお陰とは誰も思いもしない。



 聖殿と呼ばれる教会。

 そこでは、定期的に会合を開かれている。世界中から神官が集まり、管理する地域の状況、犯罪因子者の検挙数、今度の方針説明などを行っている。

 しかし、それは表向きの顔。

 裏の顔は…。

「どういう事だ!」

 怒号を響かせているのは、神官長。

 集まった神官達は、叱られる子どもの様。

「も、申し訳ありません! しかし、それは神のご命令でして…」

 神官長の手には、クシャクシャになった資料の束。

 僅かに見える見出しには、『奈落への物資搬入報告』と書かれている。

「神の命令だと! つまらない嘘を吐くな! 今の今まで、神は私の方針を支持してきた。それが今更、このような温情を掛ける筈がない!」

 裏の顔は、神官長による一方的な命令伝達の場。

 神の威光を笠に着て、自分勝手に方針を決めて実行させている。神官長に不満を持つ者も居るが、神官長の力を恐れ何の抵抗も出来ない。

「じ、事実です。神は私共に、「奈落に住まう者達は犯罪者ではない。私が提唱した計画の犠牲者。これからは地上と同じ生活を送らせてほしい」と、強く念を押されまして…」

 神官長は、ゼオルの顔を思い浮かべながら溜息を吐く。

「…有り得ない話ではないか」

「では、このまま神の仰る通りに…」

「いや、神は間違われている。よって物資の搬入は中断。これまで以上に厳しく取り締まる」

 神官長の強権的な言動に、神官達は渋々了解。

 その瞬間、神官達の顔は恐怖に歪む。


「皆に願う。私の言った事を速やかに実行せよ」


 神官長の背後に、ゼオルが現れる。

 気配に気付いた神官長は、眉間に皺を寄せゼオルの方を向く。

「神よ。何故彼らに恩情を掛けるのですか? 彼らは罪人。必要なのは罰!」

「確かに、彼らはいずれ犯罪に手を染める。だが、今は犯罪を犯していない。犯罪を犯さない以上、普通の人と同じ扱いをするべきです」

 ゼオルと神官長の意見は180度違う。

 お互いにその事は理解している。だが、止める訳には行かない。

「神は知っている筈だ。人間が幾度過ちを繰り返してきたのか、幾度非道に身を染めたか」

「勿論です。ですが、全ての人間がそうではない。僅かな過ちだけを思考の中心に置いて、人間が持つ可能性を見逃してはいけません」

「可能性…。そんなものは無い! あるのは裏切られる未来! 神よ、目を覚ましてください! 詐欺師と罵った者達が居た事を…」

「レティス…。何をそんなに怯えているのですか? 裏切られる事に怯えるようでは、神官長の座は担えませんよ」

 二人の意見の対立は、今に始まった事ではない。何か議題があれば、必ずと言っていい程始まってしまう。だから、他の神官は少し離れた場所から様子を窺う。

「神よ…。何を言われても、私の意見は変わりません。是が非でも、奈落の厳しい取り締まりを行います。普通の人間でも繰り返す過ち。犯罪因子者は、一体何度繰り返すのか…。例え犯罪因子が消えたとしても、再び現れます」

「レティス、君は知らないのです…。天埼煌太が持つ可能性を…」

「神を殺す可能性なら知っている。その為に…」

 レティスはそれ以上言えなかった。

 まさか刺客を送っていたとは…。

「天埼煌太の可能性…それは、絶対なる断罪者」

「断罪者? そんな可能性に何の意味もない! 人間は黙って神の提供する幸せな世界を満喫すればいい」

 ゼオルは心が折れる。

 これまで通り神官長の執拗さに負ける。

 だが、これまでとは違う方向に。

「何を言っても無駄なようですね…。でしたら…」

 ゼオルの顔つきが変化。

 そして、全身から凍てつくオーラを放つ。

「神官長レティス。今を以って神官長の座、並びに神官の職を解く」

「猶予はまだ残って…」

「必要ない! お前の罪は、命を以って償うべきもの。本来は奈落の底に張り付けるべき…だが、これまでの働きに免じて、職を解く事を罰とする」

 ゼオルが初めて見せる怒り。

 レティスは、強硬な態度が通じない事を悟る。

「…分かりました。ただ、これだけは分かって欲しい。私は、神の為に最善を尽くしてきた…」

 劇的な展開を見せ、二人の口論は終わる。

 神官達は、予期せぬ終息に恐怖を感じる。



 レティスは、地下鉄への階段を下りていた。

 聖殿を出てから暗い表情をしていたが、階段を下り始めるとニヤニヤ笑い始める。

「予想外だったが、これはこれで良かった。これからは、神官の職責に縛られる事は無い」

 帰宅者達で騒がしい階段を下りていると、次第に人の数が減り、最後にはレティスただ一人に。しかも、階段脇の壁は消え、真っ暗な空間を階段だけが下に伸びる異様な光景。階段には魔法陣が浮かび上がり、レティスが魔法陣を踏むと光景は更に一変。目の前に封印が施された巨大な扉が現れる。

「私だ」

 レティスの言葉に応じて、扉は重々しい音を立てて開かれる。

 扉の先には、研究所らしい場所が広がっている。

 白い戦闘服を纏った者達が、巨大な水槽の前に集まっている。

「レティス様、お待ちしておりました」

 レティスの下に、一人の男性が近づいてくる。

 20代前半の男性で、大きめの眼鏡をはめ、何日も風呂に入っていないような無精髭を生やしている。他の者と同じ戦闘服を着ているが、胸に勲章のようなバッジを付けている。

(はじめ)、研究の方は捗っているか?」

「勿論です。イフリートの失敗を受けて、精神の安定化、魔力の増強、合成悪魔の高純度化を実施中です。ただ、高位の悪魔の順応が…」

 元は、巨大な水槽に視線を移す。

 水槽の中では、禍々しい悪魔が眠っている。奈落に居る悪魔よりも大きく、悪魔と言うより巨大な獣のよう。一応二足歩行だが、腹部には巨大な口があり、両腕は木の根の様な形状。

「高位への順応は、素体となる人間の素養が重要になる。渡していたデータの中に適材は居ないのか?」

 元は、手にした資料を捲って溜息。

「一応、全員の適合試験を行ったのですが…良くてC判定。最低でもB判定は無いと厳しいですね…」

 レティスは、水槽の中の悪魔に語りかける。

「いい加減力を貸せ! お前達の願いは強い者との邂逅だろ? だったら、少しぐらい敷居を下げて欲しい。満足できる強者が存在しているぞ」

 水槽の中の悪魔は、瞼を開き、薄ら笑い。

「…人間の言う強者は、我々にとっては弱者」

 その言葉を受けて、元は、煌太とイフリートの交戦映像を見せる。

 すると、高位の悪魔は目を見開いて水槽に顔を押し付ける。

「これは、人間なのか…?」

「ああ」

 食い入るように映像を凝視し、急に雄叫びを響かせる。

「オォオオオオォオオオオオオオオオ! 良いだろう! その人間と戦えるのであれば、力を貸してやろう!」

 元が持つ資料に、赤文字で名前が浮かび上がる。

 人数は、水槽と同数。

「我々に適合できる人間だ。待っているぞ、奴と戦える時を」

 高位の悪魔は、再び眠りにつく。

 レティスは、笑いを抑えられない。

「フフフ…フハハハハハ! 元、直ぐに探し出せ! 粛清院の久し振りの大仕事だ!」

「は、はい!」

 煌太を倒す為の態勢は、整いつつある。

 神の目を欺く結界の中で、着々と…。

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