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安栗文化ちゃんの憂鬱。―文化

この話は85話と86話の間に挟まれるストーリーです。元は名前だけのモブ子がここまで出世しました。

後ろ手に大浴場のドアを閉めて、足早に自分のロッカーの前に立って服を着る。

………………ダメだ、どうしてもあの2人がチラついて離れない…………私の友達と、その友達を愛したクラスメイトの2人が。

(………………恋のキューピットなんて、ガラじゃないのに。)

私は、脱衣場の壁に寄りかかる。………………土曜日の練習の時に感じた、ちょっとした違和感。練習中に後ろから抱きついても、いつもなら左手が飛んでくるのに、その時は雑に振りほどかれただけ。最初は体調でも悪いのかなーって思ってたけど、帰り際になって雪乃が聴いてきたこと。

『ねぇ、確か安栗さんって5組よね?』

『んー、そうだけど。』

『じゃあ、のの…………墨森さんって知ってる?』

『あー、あのいっつも寝てる人ね。あの人がどうかした?』

『その…………寮で同じ部屋なんだけど、クラスに友達が出来ないって言ってたの。確か安栗さんは卒業したら実家の農業を継ぐのよね…………墨森さんは化学系に詳しいから…………その、話し相手になってあげられない?』

『ん、いいよー。』

最初は、雪乃の頼みだから聞いてやるかーぐらいの気持ちだった。けど…………その翌日に寮のキッチンで鍋焼きうどんを作ってるのを見て、なぜか心が騒いだ。そして…………後で、土曜日の午後に雪乃が墨森ちゃんとデートしてたって知って、この感情の正体がなんとなく分かった。………………これは、嫉妬だって。

気づきたくなかった。気づかなきゃよかった。………………雪乃を取られて、嫉妬してるんだって。その日から、墨森ちゃんに対する認識が『変わったクラスメイト』から『友達の恋人』へと変わった。

(………………雪乃のことなら、私の方がよく知ってる自信がある。けど………………墨森ちゃんは、そのもっと奥に手を伸ばして、雪乃の『鍵』を手に入れた。)

………………あーあ、雪乃取られちゃったなぁ。

それでも、私の中に雪乃や墨森ちゃんを恨む気持ちは無かった。………………むしろ、2人で幸せになって欲しいって気持ちの方が、何倍も大きくて。

(………………だからこそ、みんなの反対を押し切って雪乃を休ませたのに。)

墨森ちゃんの所に預けておけば、うちの馬鹿な部員が付けた雪乃へのダメージも、そのうち癒えると思ったんだけど。…………まさか、今度は墨森ちゃんが原因になるとはね。

(………………でも、まさか私の部屋に来るとはね。)

雪乃に「匿って」と言われた時、………………「また雪乃が私のとこに帰ってきた」とふと思っちゃって。

(でも、墨森ちゃんには勝てないや。)

ポロリ、と涙が落ちる。

(……………………知らないうちに、私も雪乃を好きになってたみたい。)

中等部までは、目立たない眼鏡っ娘でバレーも少しかじった程度。だけど星花への入学が決まった時、こんな私を変えたいって思って、眼鏡を引き出しにしまい込んで髪型も変えた。新しい私になろうとして、性格を変えてラッキースケベに『成りきった』。…………まぁ元から女の子には興味あったし、こんな私を周りも受け入れてくれた。

………………新しいことを始めようとバレー部を見学した時、一際輝いてる娘を見つけた。…………もちろん、雪乃。すぐに興味を持って、入部した後もスキンシップ(?)して仲良くなろうとした。けど…………雪乃はどこか、壁の向こうから話してるみたいで、今みたいに何でも話してくれるようになるまで、けっこう時間がかかった。………………だからこそ私も、他のバレー部の誰よりも雪乃と行動してることが多くなったのかもしれない。

(………………私の半年は、墨森ちゃんの半年に勝てなかったかぁ。)

そりゃそうか、同じ部屋だもんね。

いつしか私は、自分の部屋の前に立っていた。ノブを回して部屋に入ると、ルームメイトは既に帰ってきて机に向かっていた。

「………………どこ行ってたの?」

「………………お風呂。」

「………………そう、すれ違いね。」

そんなぎこちない会話を交わして、私は自分の机の引き出しを開ける。………………寮に引っ越してきた時からずっと手を触れてないメガネケースを取り出して、ドレッサーの前でコンタクトを外してかけてみる。…………やっぱり、また度が進んでるかなぁ?

「………………また眼鏡っ娘に戻ろうかなぁ。」

その呟きに答えてくれる人はいなかったけど、私の中で答えはもう出てた。

………………見てろよ、クラスメイトの眼鏡っ娘。………………私だって、雪乃大好きっ娘なんだからねっ!!

さて、この後どうなりますかねぇ?


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