触れて、確かめて。ー中編
「ほーら、無事に帰れたじゃない」
「どこが無事なのよ……」
助手席で青い顔をする雪乃。車酔いかな? 車、汚さないでよ?
「安全運転だったじゃん」
「どこがよ!! 」
失礼だなー、ボクは安全運転だよ。
「ガードレールに擦るわ、対向車線にはみ出しそうになるわ、一体私の寿命を何年縮ませれば気が済むのよっ!?」
「まぁまぁ、こうして家に無事帰りつけたわけだし、ね? 」
「どこが無事よ……」
ぶつくさ言いながらも雪乃は助手席を立って、自分の荷物を下ろしにかかる。
「手伝おっか?」
「大丈夫よ、これぐらい」
よっ、とキャリーケースを担ぐ雪乃。……ほんとに大丈夫?身体痛めない?
「それで、望乃夏の階は何階だったかしら? 久しぶりだからうろ覚えなのよ」
「8F。エレベーターはこっちだよ。……あれ、もしかしてキャリー担いでトレーニングするの?」
「しないわよ。なんで帰ってきてまで筋トレしなきゃいけないのよ」
外階段の方へ歩きかけた雪乃をからかいながら引き止めると、2人で一緒にエレベーターに乗り込む。
ぐぐっとかかる重力に身を任せて壁に背を預けると、興味深そうにパネルの現在位置表示を眺める雪乃をそっと観察する。……髪けっこう伸びたし、背も少し伸びたかな?
「着いたわね。……望乃夏? 」
「あ、うん、今行く」
閉まりかけた扉を手でこじ開けて雪乃の後を追う。
「もう、鍵はボクが持ってるんだから、そんなに急いでもなんもないよ?」
「急いでないわよ。……でもそろそろ急いだ方がいいのかしらね? 時間的にも」
「いいんじゃない? 集合時間厳守なわけじゃないしさ」
「もう、そういう時間にルーズなとこは変わんないんだから」
「さっき遅刻した雪乃には言われたくなーい」
「だから遅刻してないって」
「はいはい、鍵開けるよー」
雪乃の言い訳を聞きつつ、我が家のドアを開けて雪乃を招き入れる。
「キャリーは玄関置いといていいよ。ある程度のものは買い置きがあるから」
「買い置きって……流石に着替えは持ってきたから自分のもの使うわよ」
「えー、流石にボクのは貸せないよぉ。いくら同じ位とはいえ」
「え?」
「え?」
「……着替えじゃなくて? 」
「……歯ブラシとかのことだよ?」
雪乃がすぐに真っ赤になって、
「ま、紛らわしい言い方してんじゃないわよ!!!!」
「い、イテテ、背中叩かないでっ、背骨砕けちゃうからっ!?」
「うるさいわねっ!!」
雪乃にべしべしぶっ叩かれて骨がミシミシ言う。こ、ここで雪乃にボディーを粉々にされるのは勘弁っ………
「もう、望乃夏が変なこと言うから遅くなっちゃったじゃないの」
「そ、それは雪乃のせいもあるんじゃないかな……」
「何か言ったかしら?」
「いえなにも」
おー…雪乃、怖い怖い。相変わらず怖い。
「おっと、着いたね」
雪乃に支払いを任せて先にタクシーから降りる。……ホテルまでもボクが運転する、と伝えた途端雪乃が真顔で止めてきて。曰く、「望乃夏の運転だと飲んだら帰れなくなる」「そうでなくても命が足りない」と必死に懇願された。
ボクの運転のどこが危ないってのさ、ちぇっ。
「おっ、ここだね」
ホテルのロビーを抜けて大ホールへと向かう。受付は…あっちか。
「はい、ここは立成18年度星花女子学園卒業生の同窓会で…って、確認は要りませんよね」
テーブルで名簿を繰っていた人が顔を上げる。
「あら、受付は生徒会がやってるのね」
「元、生徒会ですね」
そう言って名簿を開いたのは、
「副会長さんもほんと変わんないわね」
「か、変わらな……」
何故かしょぼんとする生徒会副会長ー沢野さん。メガネは変わったけど、その顔つきは10年経っても変わってなくて。
「本来なら名乗っていただいて名簿と照合するところなんですが、おふたりに関してはもう説明不要なのでそのまま入ってくださって構いませんよ」
「あら、いいの? 」
「構いませんよ」
こちらも前と変わらない、ボクらの代の生徒会長ー御津さんが名簿に丸をつけながら、
「白峰さんも墨森さんも、当代の中では間違えようのない有名人ですから」
「……望乃夏、あなた何したのよ?」
「記憶にございません」
べ、別に何も悪いことしてないんだけどなぁ……
「そ、そういえば5組って今誰が来てるの??」
「誤魔化したわね」
「えっと、すぐ帰った人も居るんで、こんな感じですね」
ふむふむ……特に仲良いメンバーは居ないな。文化は…今年も来れなかったんだ。
「何してるの望乃夏、置いてくわよ?」
「あ、待ってよ雪乃っ」
「それでは同窓会をお楽しみくださいっ♪」
「あ、うん……」
雪乃に手を引かれてホールへと入ろうとするけど、
「そういえば、お二人さんは受付に居るけどこっち入らないの?」
「大丈夫ですよ、私たちも後で交代しますから」
「そう? ならいいけど…」
「望乃夏、早く」
「あ、うん」
……ほんとに大丈夫なのかな…




