訪れて、確かめて。 ーー年末特別編 前編
街が何処と無くそわそわし始める頃、駅のコンコースの柱に背中を預けてボクは佇んでいた。
……雪乃、遅いなぁ。どこで道草食ってるのかな。それか美味しそうなものを見つけて味見してるのかな。今日は大事な日だってのに。
吹きさらした風に身を震わせて、今年は早めに出番が来たコートの襟を合わせて風を凌ぐ。今は秋から冬の移り変わり時、なのに秋の風がタイミングを損ねたのか、いきなり木枯らしが襲ってきて。
(こんな時こそ雪乃が重宝するのに……)
腕を伸ばして腕時計を確かめると、待ち合わせの時間を丁度回ったところ。これで遅刻確定っと。
……もう、置いてっちゃおうかな、でももう少し待とうかな、そんな気持ちでゆらゆらするのを、背中を預けた柱に押し付けてピタリと止める。
……うん、雪乃が約束をすっぽかしたこと無いし、まだ待つよ。
改めて姿勢を変える、と同時に遠くからゴロゴロと重いものを転がす音が聞こえてきて。
「おまたせ、望乃夏」
「もうっ、雪乃遅刻だよ。置いてっちゃおうかと思ったよ」
「あら、待ち合わせの時間丁度よ。なにか不満なの? 」
「へーへー不満ですよーだ。なんでボクだけこんな寒いとこで…」
かじかんだ手と雪乃を見比べると、ため息をついた雪乃がそっと手のひらを差し出してきて。
「……ほら、これでいい? 」
「ん、まぁ、許す」
いつでも変わらない、大きな手のひらで包み込んで温めてくれる。
「ほら、行くわよ」
「わかったよっと」
さっさと手を離してキャリーケースを持ち替える雪乃と、またフリーになった手のひらのボク。軽く鼻を鳴らして抗議するけど、次には横に立って歩き始めて。
これだけは何時まで経っても変わんないな、なんてことを思いつつ、雪乃の横顔を眺めていた。
「じゃあお願いね」
「任せて」
キャリーケースを後ろの席に押し込んで、雪乃が助手席に座る。それを確認してからミラーを合わせてエンジンをかけた。
「雪乃、シートベルト忘れずに」
「分かってるわよ」
雪乃がちゃんと締めたのを確認してからゆっくりと走り出す。
「まずはボクの家に荷物置いて、それから車でホテルね」
「あら、家からタクシーでいいじゃないの。どうせ飲むんだし」
「雪乃は飲むかもしれないけどさ…」
ボクは下戸だし。飲むと寝るし。もし雪乃が潰れたらどうやってレッカーしろと……
「あら、お金の心配してるなら私が出すわよ? 」
「それは有難いね。でもボクの車で行こうよ。その方が楽だよ」
「でも……」
「……タクシーだとさ、こうして積もる話もしにくいじゃん? 一応雪乃も有名人だしさ」
「別に構わないわよ。それに有名と言ったって全国区でも無いし。ただの控えよ」
「それでもいいの。雪乃はもっと自重して」
変にイメージ壊れたら、ボク責任取れないし……
「むぅ……」
納得したのかしないのかよく分かんないけど、ひとまず雪乃が黙る。かと思えば、
「それにしても、望乃夏が車で迎えに来てくれるなんて思いもしなかったわ」
「ふふんっ。そこは頑張ったんだよ」
どやぁ、と胸を張ってみせる。っと、対向車に注意しなきゃ。
「本当に大丈夫なのかしら? 望乃夏運動オンチなのに」
「うっさいなぁ、そんなに不安なら今ここで降りて歩けば? 」
丁度横に歩道あるし。歩けない距離でもないし。
「……はいはい、分かったわよ。安全運転でお願いね、運転手さん」
「はーい」
っと、ここを右に………って、対向車が切れない……
「……ほんとに大丈夫なのかしら」
「雪乃、ちょっと黙ってて」
むぅぅ………ここだっ、ハンドルを右にっ。
「……なんとか生きて帰れそうね」
「雪乃ぉ……」
少しは信用して欲しいんだけどなぁ……




