明梨と文化。その4
.......................け、結局、ご飯食べきれなかった................。
文姉にはあの後、根掘り葉掘り色々聞かれた。とりあえずはぐらかしてはおいたけど、................こういうことにかけては、文姉の索敵力は侮れない。それは、私自身が身をもってよく知ってるし。
........................にしても、気が重いなぁ................。教室の自分の席にカバンを置こうとして、先客が座っていることに気がつく。................む、誰だ、あの男は。................................男!?
「だーかーらーさっ、謝ってるじゃん。」
「ふん................今日はもう許さないから。」
「アレはほんとに悪かったからさっ。新しいジンジャー買って返すからっ。」
「そこの自販機のじゃないでしょうね?................いい?あれは数量限定の桜ジンジャー味なの。人気のだから入荷未定でもう飲めないかも知んないんだからね?................それをあんたは何のためらいもなくゴクゴクとっ................」
私の前の席でプルプル震えてるのは、クラスメイトの相葉っち。................見た目は不良だけど、中身はフツーの子。
「わ、わかったわかったからそう睨むなって。」
相葉っちの視線に負けて後ずさりする先客。........................ん?どっかで見覚えが................。
「がるる........................あ、明梨ちゃんおはよっ。」
「相葉っちおはよう........................それにしても、お取り込み中?」
「んー?................あ、そっか。そこ明梨ちゃんの席じゃん。待ってて今すぐこいつ追い出すから。」
「ひどっ!?ぼく今『モノ』扱いされたっ!?」
「うっさいわね、あんたみたいな変態マリバッカは置物扱いでちょうどいいわ。」
「うっわぁ........................あ、ところでキミ明日のお昼空いてる?」
いきなりこっちに話が飛んでくる。................えっと、これはナンパってやつですかね。
「あ、お断りします。」
「三秒もたなかった!?................ああもう、汐音邪魔しないでよ。」
「なに人のクラスメイト口説いてんのよ。................あ、明梨ちゃんこいつのこと見なくていいから。むしろ見るだけ無駄だから。」
「もっとランクが下がった!?」
................なんてギャースカワースカやりながら、相葉っちは男?を教室の外まで引きずっていく。................ふう、やっと座れた。これで、寝れる.......................
「あー疲れた................ごめんね、あいつのせいで。」
「んー................いや、別にいい................」
「ごめんねー................全くあいつは、もう................」
「................相当気に入ってるし、仲いいんだね。」
「はぁ!?」
「................冗談。それにしても................誰だっけあの人。」
「知らないの?一年六組のマリバッカオブザヘタレよ。」
「な、なにそれ................」
「本名呼ぶのめんどくさいからいっつもマリバッカって呼んでるわ。そのうち本名も忘れるだろうし。」
そ、そんなんでいいのかな................?
授業全てを体力の回復に充てて、私は放課後に荷物を持って弓道場へと向かう。既に道場からは、時折矢のあたる音が聞こえてくる。邪魔にならないように................とこっそり後ろに回ると、
「........................誰だ?」
と、弓を下ろして振り向かれる。
「................おはようございます。」
「................ん。」
それだけ言うと、また矢を番えて弓を押し始める。........................須々木さんって、ほんとに無言だよなぁ。
弓道衣を取りに部室に入ると、砂塚先輩が先に来て着替えてた。
「あら、安栗さん。................昨日のことはお姉さんと白峰さん経由でさっき聞いたわ。調子の方はどうなの?」
「................ん、とりあえずは................落ち着きました。」
「ならいいけど................無理しないでね。タダでさえ血が足らない時に、集中力と忍耐力を使うことするんだから。................それと前から言ってるけど、その髪もできればなんとかしなさい。巻き込まれるわよ?」
「................気をつけます。」
そう言うと、手早くヘアピンで髪を止め直して、弓道衣に着替える。................弓懸もきちっと結んでっと。
「................あれ?砂塚先輩ロッカーの鍵落としましたよ?」
へぇ、イルカのキーホルダーか。
「か、返してっ。」
慌ててひったくるように私から鍵が奪い取られる。
「そ、それより、昨日休んだ分今日はキツめにするわよ。まずは巻藁練習1時間、その後は................」
................あ、これは怒らせちゃったかも。
........................結局、私は他のみんなよりもハードなメニューをさせられた。
................早く、棒矢以外の矢を持てるようになりたいな................。




