明梨と文化。その3
........................結局、夜ご飯食べ損なったな。私は、差し込む朝日によって強制的に起こされる。................まだ気分はすっきりしないけど、とりあえずご飯食べて支度をしなくちゃ。
まだ硬さの残る制服に袖を通して、鏡の前で整える。................まだ実感湧かないな。私が、星花に入れたなんて。
とりあえず何かお腹に入れないと...............と、食堂へと足を運ぶ。できれば、そんなに油っこくないのがいいんだけど................
とりあえずいつものご飯と納豆を貰って、端っこの方に座る。........................すごいな、さっきすれ違った人、ご飯山盛りだ。
片隅でご飯を持て余していると、後ろから肩を叩かれる。振り返ると、
「よっ。体調の方はどうだ?」
「文姉................。ん、体調はまだ、万全じゃない................。」
「................そっか。ま、こればっかしは一週間ちょっとの辛抱だからな。................って明梨、またご飯残してんのか?」
「........................ごめん。やっぱりなんか、食欲無くて................。」
「................もう、栄養付けないとダメだろ。どうしても食べらんないようなら水分だけは取っとけ。」
「ん、わかってる。」
『もう、心配性だなぁ。』なんて、口が裂けたって言わない。................迷惑かけてるのは、私だから。
「................まぁいいや。ちょっと付いてこい。」
と、首根っこまでは掴まれないけど、手を引かれてテーブルを離れる。................あ、ご飯の残りは文姉がちゃっかり持ってる。
そして、混んできた食堂の人波をかき分けて、先客のいるテーブルへと私のお盆を置く。................あれ、この人は................。
「よっ、墨森ちゃん&雪乃。」
「................あら、文化。ねぼすけのあなたにしては早いわね。」
「ひっどいなー雪乃。たまにはあたしも早起きするって。」
「................おはよ、文化。」
「はいはい墨森ちゃんもおはよっ................って、フレームにご飯粒付いてるし。どんだけ寝ぼけたらメガネでご飯食べるの!?」
「................あら、ほんと。」
「んー................さっき意識飛んだ時、かな?」
「........................ほんっと、墨森ちゃんは朝弱いねぇ................」
と、私をおいてけぼりにして文姉と二人の間で会話が進む。
「................ところで文化、そこに突っ立ってる子は誰?」
「おっと忘れてた。................明梨、ご挨拶。」
................え?紹介してくれるんじゃないの?
「................初めまして。安栗 文化の妹、安栗 明梨と申します。」
「........................へぇ。文化の妹、ね。」
二人のうち、片方―よく見たら、さっきすれ違ったご飯山盛りの人だった―が鋭く目を光らせる。........................思わず後ずさりすると、もう片方の人―メガネでご飯の人―がすかさず背中を叩く。
「雪乃、また怖がられてるよ。」
「................あら、ごめんなさい。」
「全く雪乃はもう................それで今年の一年何人逃げ帰ったと思ってんだ................。」
文姉が頭を抱える。................ん?
「ああそっか、紹介まだだったな。................明梨、右に座ってる今にも寝落ちしそうなのが墨森ちゃん。あたしのクラスメイトでマッドサイエンティスト。................んでもって左にいる威圧感の塊が雪乃。うちの部の部長な。」
「........................何よその説明。私のどこが威圧感の塊なのよ。威圧感なら................そうね、砂塚さんの方がもっと上よ。」
「................砂塚先輩とお知り合いなんですか?」
思わず話に割り込む。
「................ええ、去年のクラスメイトで席順も近かったし。................それがどうかした?」
「................い、いえ................私、弓道部に入ったので。」
「なにっ!?」
........................文姉、そんなに驚かなくても。確かに伝えてなかったけど。
「........................明梨、お前の好みってクール系だったか?」
そっち!?
「........................文化?何の話なの?」
「いやー、こいつはな。........................ふふふ、私よりも『手が早い』のよ。それも女の子相手だと。」
「わー!!わー!?」
................ふみねぇっ!?そんな人聞きの悪いこと言わないでよっ!!
「........................なるほどねぇ。そりゃ確かに文化の妹なだけあるわ。」
「ご、誤解ですっ。そんな片っ端から口説くような真似しませんからっ!!それに私はクール系よりも元気な子の方がかわいっ」
「自爆すんなっ!?」
慌てて文姉が私の言葉を遮る。........................あ、あは、は................
「................耳元で騒がないでよ................頭に響く................」
気まずい空気を知ってか知らずか、墨森先輩がボソリと呟いた文句が、急に静かになったテーブルによく響いた。




