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明梨と文化。その2

................布団入ったら、なんか眠くなってきた................。そのまま目を閉じてウトウトしてると、ノックもなしにドアが開く。

「................あれ?寝ちゃったのか................。」

その声と気配だけでわかる。文姉が、帰ってきた。

「................ちぇ、折角買ってきたのに、無駄足かよ。」

呆れたような声と、ガサゴソとビニール袋を漁る音。................なんだろ?

「................起きてるよ。」

目を開けると、文姉が私のベッドに腰掛けて缶コーヒーを飲んでた。

「................起きてんのかよ。.................ほい。」

と、私の枕元に缶を置く。布団から手を出してラベルをよく見ると、

「ココ、ア................」

ゆっくりと身体を起こしてフタを開けると、ちびちびと飲み始める。................はぁ、あったかい。

明梨(あかり)はほんと、ココア好きだよな。」

「だって、あったかいもん。」

................ほんとは、瓶のラムネの方がもっと好きなんだけど。

「................ま、そりゃそうか。ちっちゃい頃はジュースなんて買ってもらった記憶無いもんなぁ。甘いもんと言えば、お汁粉かココアぐらいだし。」

「................こっそり買い食いするの、楽しかった。」

「だよなー。................ふ、くくく................」

文姉が急に笑い出す。................あ、この顔は悪いこと考えてる顔だ。

「........................文姉?」

「くっくっく........................いやぁ、買い食いで思い出したわ。ちっちゃい頃の明梨のこと。」

「そ、そんなの................」

私はまた、布団に顔まですっぽりと埋まってやり過ごそうとする。けど、文姉の方が一枚上手で、布団をちょっとめくって耳元でささやく。

「いやー、ちっちゃい頃はケンカっ早かったよなぁ。バカにされるとすぐ向かってってな。しまいにゃ田んぼに突き落とすんだもんな。なぁなぁ、男の子何回泣かせたっけ?」

「................そ、そんなの、覚えてないし................」

「その度にあたしは明梨の首根っこ掴んで誤りに行ったよなぁ。まぁたまにあたしも混ざってケンカしに行ったことあったけどな。」

ケラケラと耳元で文姉が笑う。........................う、うるさいうるさいうるさーい!!

「なぁなぁ、あいつなんて名前だっけ?お前がスカート履いてんの見て『男女がスカート履いてるぜー!!』なんて言ってスカートめくってランドセルを用水路に投げ込まれた奴。」

「................................................................トモヤス。」

「そーそーそんな名前。いやーあん時は流石に親父がブチ切れて明梨は家に入れて貰えなかったよなー、いやーほんと懐かしい。」

........................ぜ、全然懐かしくないっ!!

「................そ、そんなの、昔のこと、じゃん................」

ごろんと壁の方を向くと、文姉は姿勢を変える。

「........................でもよ。明梨と居ると楽しかったんだぜ。謝りに行くのはめんどくさかったし、その分手もかかったけどさ........................。(ふう)が産まれてからは見よう見まねでお守りも手伝ってくれたし、その分あたしも好きなことする余裕も出来たし。」

「........................ふみ、ねぇ................。」

「................でもな、お前が大人しくなってくのがなんか寂しかった。家にいる時は、あたしが家事を切り盛りしなきゃいけなかったから、学校終わる度にどこかにすっ飛んでいく明梨がうらやましかった。................ある意味、私の憧れでもあったんだぜ?」

........................文姉、そんなこと思ってたんだ................。

「................あ、もう一個思い出した。」

................え、まだあんの?

「覚えてるか?お前が初めて................その、『来た』時。」

「................なんとなく、は。」

「あたしはよく覚えてる。朝飯作ってたら、いきなり明梨が血相変えてあたしんとこ来たもんで、まーたなんかやらかしたのかと最初は思ってたんだけどな。................汚れたパジャマを持ってあたしにしがみついて、『文姉どうしよう!?あたし................死んじゃうのかな!?』なんてベソかいてんだもん。いつものヤンチャな明梨からは想像も出来ないぐらい大泣きしてるから、こっちも慌てて母さん呼びに行ったぜ。................その後もあたしにしがみついて離れなくて、トイレにまで付いてくるし、10分置きに『私死なないよね!?大丈夫だよねっ!?』って聞くし........................それからだよな、お前が大人しくなったの。」

「........................そう、だっけ........?」

「................ああ。しばらくして、『家事を教えてくれ』って言いに来たんだよな。................これでも、めっちゃ驚いたんだからな?」

「........................そんなことも、あったね................。」

........................正直今、布団に潜って丸くなりたいぐらい恥ずかしい。どうしてこう、文姉は人の傷をえぐるのが得意なんだろ................。

「................んで、中学生になって帰りの遅くなったあたしの代わりに家事をやって、風の面倒も見て................ああそうそう、この頃に(かおる)も産まれたんだよな。........................ほんと、ありがとよ。」

「................今更言われても、もう遅いし................。」

「................ま、それもそう、だけどな。」

文姉は、持ちっぱなしだった空き缶をゴミ箱に投げ込んだ。

「................んで、これからどうするかは決まったのか?」

「................いきなりすぎ。................その辺のことは、また明日にでも。」

「................だよな。悪いな、具合悪い時に長居して。」

「................ううん。文姉、ありがと。」

目線だけで見送ると、私は布団をかけ直す。

........................あー、恥ずかしかった。でも........................なんか、久しぶりに文姉と『話した』気がする。

私は、まだ痛むお腹へと手を当てる。................いっつも、文姉に助けてもらってる。頼りっぱなしじゃ悪いってわかってるのに。

................私も、何か文姉に返せること、あるかな................。私の『スキ』な、文姉に。


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