望乃夏の誕生日。―中編
談話室に着くと、意外なことに誰もいなかった。
「悪いね、こんなとこに連れてきて。................部屋なら温かいんだけど、あいつがうるさくてさぁ................。」
「別に構わないわ。あそこに居ても息が詰まるだけだし。」
................ほんと、文化はあの中でよく生活出来るわね。
「................それで、話ってのは?」
私の横に座った文化が話を切り出す。
「その................文化、2月7日って何の日か知ってる?」
「んー........................?」
文化が首を傾げる。しばらくして切り出した答えは、
「................ホールケーキの日?」
「........................何それ?」
予想外の答えが帰ってきて、私は面食らう。
「ほら、15日はショートケーキの日でしょ?だからその上は 」
「................文化、15日の上は8日よ。」
「........................あ、そっか................」
文化が頭をかく。
「うーん、お手上げ。」
「そう........................実はね、望乃夏の誕生日なの。」
「........................まじで?」
「........................うん。」
「................知らなかった。墨森ちゃん、そういうことみんなに話さないからなぁ................。ってことはあれかい?墨森ちゃんへのプレゼントに迷ってる感じ?」
「う、うん........................」
「うーむ................墨森ちゃんへのプレゼント、ねぇ........................」
文化が宙を睨む。そしてすぐに視線を戻すと、
「................やっぱり、墨森ちゃんが一番好きなものを贈るのがいいんじゃない?」
「望乃夏の、好きなもの?」
................そうなると、やっぱり紅茶かしらね................いや、実験器具の方が好きそうだし................
「くふふ、いいこと思いついた。................雪乃、ちょっと耳貸して。」
何かしら................と耳を文化の方に向けると、文化がゴニョゴニョと呟いてくる。................ふぅん................って、えええっ!?
「そっ、そそそそそそそんなこと出来るわけないじゃないっ!?」
思わず叫ぶと、文化が耳を押さえて飛び上がる。
「こ、声大きいって........................でもさ、墨森ちゃんの一番好きなものって言ったら................やっぱり、雪乃じゃん?」
「だ、だからって........................私をプレゼントするのは................//////」
................は、裸にリボンって、文化は私を何だと思ってるのよ................
「えー、いいと思うんだけどなぁ................................」
「私が恥ずかしすぎて死んじゃうわよ!!」
................もう、文化になんか聞くんじゃ無かった........................
「はぁ................もういいわ。一人で考える。」
呆れて席を立つと、文化が追いすがるように言う。
「まぁ待ってって。................ここだけの話、墨森ちゃんは甘い物好きなんだよ?」
「................今更?そんなのもう知ってるわよ。」
「まぁ最後まで聞いてって。................実は墨森ちゃんはね、クレープが好きなんだよ。特にオレンジソースの。」
「........................何それ、初耳。」
デマじゃないでしょうね?と顔を近づけると、
「いや、ほんとだって。この前好きなものの話してたらさ、給食の話が出たんだよ。そこで墨森ちゃんがさ、『デザートのみかんクレープが一番美味しかった』って言ってたんだよ。高校入ってから食べることもないだろうし、誘ってみたら?」
................なるほど、ね。
「分かったわ、やってみる。」
................でも、それなら何で私には教えてくれないのかしら................?
いい情報が得られた割には、私の心は少しだけモヤモヤした。




