望乃夏の誕生日。―前編
フライング気味の投稿ですの。
カレンダーの一月のページを切り取ると、私は二月のカレンダーを眺める。えっと、練習はこの日とこの日で................っと、忘れちゃいけないのがもう一つ。
私は、2月7日に大きく丸をつけようとする。そう、この日は。
「ただいま〜雪乃。」
「うわっ!?」
ノックも無しに開いた扉の向こうから、望乃夏が入ってくる。
「の、ノックぐらいしなさいよ................びっくりしたじゃない。」
「あはは、ごめん。」
ちっとも反省してない様子にちょっとだけ腹が立つ。
「................もう。」
さり気なくカレンダーを後ろに隠して望乃夏の様子を伺う。
「................それにしてももう二月かぁ。ほんっと、早いよね。」
「そ、そうね................」
................み、見られなかったかな................?
「................あーあ、あと2ヶ月も無いのかぁ。春休みだってそんなある訳じゃないし、それにこれからまた試験................死んじゃうよぉ................」
「望乃夏、そんなこと言ってると三年の先輩達に怒られるわよ。」
私は、廊下で見かけたバレー部の先輩達のことを思い出す。ついこないだまで制服を雑に引っ掛けてたのに、この間見た時にはキチンと上から下まで整ってて、そのギャップに驚いた。しかも口調まで「です」「ます」調になってて................別人と見間違えたのかも、と思わず話しかけてしまった。
........................の、望乃夏も、あんな風になっちゃうのかな................
「................どうしたの、雪乃?そんな深刻な顔して。」
「う、ううん、何でもない................」
................考え込んでたら、いつの間にか望乃夏のことをじっと見てたみたい。
「................まぁ、いっか。それじゃあボクはゴロゴロしてるからご飯の時になったら起こして♪」
言うが早いかベッドにダイブする望乃夏。
「................もう、制服ぐらい脱ぎなさいよ。」
そんなセリフも、もう慣れっこ。どうせ言ったとこで聞かないから私もほっとくし、望乃夏の方もお昼寝(?)から起きれば上着だけはハンガーに掛けておくから問題は特にないし。
早速寝息を立て始めた望乃夏を横目に、私はカレンダーを元に戻す。................やっぱり、印を付けるのはやめとこ。
後ろ手に扉を閉めて、廊下をすたすたと歩く。その目的地はちょっと遠いけど、校舎まで歩くのよりは断然近い。
扉をノックすると、中からは聞き慣れない声が帰ってくる。扉を開けて首を差し込むと、目的の人は居なくて。
「あら?文化は?」
その問いかけに不機嫌そうな声で答えたのは、
「................お風呂です。」
文化のルームメイトの、................なんて言ったかしら。とにかくルームメイトだった。
「................そう、なら待たせて貰うわね。」
部屋の中に入ると、廊下の冷たさとは比べ物にならないほど暖かくて、思わず上着を脱ぐ。
........................暇、ね。文化のベッドに腰掛けて待つと、不機嫌そうな声がまた飛んでくる。
「................足をばたつかせるの、やめてくれません?」
「あら、悪かったかしら?」
「................集中できないんで。」
................文化の部屋に来るといっつもこんな感じ。よく文化はこんなのと一緒で生活できるわ................。
そんな感じで待っていると、扉が開いて文化が帰ってくる。
「あ、雪乃。ごめん、待たせたか?」
「そうでもないわ。........................ところで文化、ちょっと相談があるんだけど................」
「........................あー、談話室行くか。」
チラリと部屋の端に目線を移した文化が、私に目配せする。................そうね、確かにこれじゃあ息が詰まりそうだし。
私達は、静かに部屋を後にした。




