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大晦日。―文化の場合

………………ふぃー、やることも全部終わったし、後はゆっくりするだけ………………

「文姉っ」

「姉ちゃん。」

「おねーたん。」

「……………………ああもうっ、なんだよっ。」

「お風呂入っちゃってって。文姉が最後だから。」

「………………なんだ、お風呂か。てっきりまたなんか面倒事かと。」

「………………いや、まぁ………………面倒は面倒なんだけど………………」

「………………どういうことだ?また風呂の栓抜けてたのか?」

「………………その、な。あたしも(ふう)も…………重なったみたいで。」

その言葉にピンと来る。

「………………はぁ。そういう時こそお前らが最後に入れよ………………。お湯が血の色になってなきゃそれでいいから。明梨(あかり)はそこの棚に痛み止め買っといたからそれ使っとけ。あと、 私の部屋の使っていいから風の分も持ってけ。」

「………………ありがと、文姉。」

「………………気にすんな。それより身体冷やすなよ。」

そう言って、着替えを取りに部屋へと戻る。


浴槽に身体を沈めると、疲れが一気に流れ出す。………………ふぃー、極楽極楽。

手足を伸ばすと、疲労とともにあくびが出る。………………もう9時ぐらいか、あと3時間だな。

それにしても………………風と明梨のやつ、始まってるならシャワーにしといてちゃんと洗ってから出ろよ全く………………。

そんなことを考えると、ふと今までのことを思い出す。

(………………2人とも私によく懐いてくれて楽だったな………………。)

明梨は、私の一つ下として産まれた。最初は普通に妹として可愛がってたけど、段々とやんちゃなのに育っていって………………何度かケンカしたな。服を着せるのにも苦労したし、近所のガキとケンカした後始末も私がしてやったし………………けっこう手がかかったな。でも今は落ち着いて来てるし、私がいない間の家事を担当してくれてるみたいで一安心。

風はと言えば………………ダウナー系とでも言うんだろうか、とにかくやる気が無さすぎる。私より4つ下で今度は中学だけど………………こいつは手がかかったな。面倒だからって宿題はそもそも持って帰ってこないし、ほっといたら夕方まで起きてこない。こいつを布団から引きずり出すのが毎日の日課だったな。…………まぁ、こいつのお陰で明梨がしっかりするようになったってのもあるけど。

………………こいつらのお陰で、私もここまで成長できたのかもな。親は一年通してハウスか田んぼに居たから、自然と私が親代わりにならなきゃいけなかったし、そのせいでみんなと遊ぶのも少なかったし、………………何度か反発したこともあったけど、その度に受け入れてくれて…………。私が星花行きたいって言った時も賛成してくれたし、今はほんとに感謝してる。

そんなことを考えてると、段々とのぼせてきたので風呂を出ることにする。


寝巻きに着替えて戻ると、

「姉ちゃん遅かったな。もう紅白半分終わってるよ。」

「文姉………………遅い…………」

「悪かったな……………………いや、な。お前らの小さい頃のこと思い出してて。」

「………………と、年の瀬だからってそんなこと思い出さなくても………………」

明梨が赤くなる。………………やんちゃだった頃はもう黒歴史かよ。

「………………姉ちゃん、みかん取って。」

「お前は変わらないな………………」

頭の上に載せてやると、私もテレビを眺める。………………ふむ、バレー部で何度か名前を聞いたのが出てるな。私はそんな興味無いからさらっと流してたけど。

その時、携帯が鳴る。

「ん、悪いな。」

部屋を出て携帯を開くと、

(ゆ、雪乃から…………!?)

慌てて電話に出ると、

「………………あ、文化。まだ起きてた?」

「おーう、雪乃。どうしたのよ大晦日に。」

「いや、もうすぐ今年も終わりだけど、まだちゃんと挨拶してなかったから。」

「そ、そう、だね………………」

………………雪乃の声、電話越しだとなんかくすぐったい。

「………………文化、今年はありがと。その………………来年も、頼んだわよ。」

「なーに?そんなことわざわざ電話してきたの?」

「………………悪かったわね。」

電話口からは不機嫌な声が帰ってくる。

「いやいや、そんなの言われなくたってわかってるよって意味。………………こちらこそ。来年もよろしくお願いしますね、部長さん♪」

「ふ、文化………………」

慌てたように電話を切る雪乃。………………もう、いきなりだなぁ。

………………雪乃には、いろんな意味で世話になったな。心の支え、友達、そして………………片思いの相手として。

携帯をそっと抱きしめると、

「………………文姉?」

「うおっ!?………………なんだ、明梨か。びっくりさせんなよ………………」

「電話終わったんなら戻ってきなよ。風邪引くよ?………………それに、文姉の好きなのがもうすぐ出るし。」

「おっ、まじで!?」

スタスタと居間に戻る私の耳に、遠くから除夜の鐘が聞こえてくる。


………………どうか来年も、雪乃と墨森ちゃん、そして妹達と両親、その他大勢の人達が………………幸せでありますように。

………………大晦日に間に合わなかったよ!!

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