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異世界召喚

 目が覚めたら、そこは見知らぬ世界だった。

 目の前には魔法使いっぽいかっこうをした女の子がいる。


 金髪碧眼の美しい少女だった。ただ、背がちっちゃかった。


「ようこそ、異世界へ」

 と、少女が言った。


「それ、何かおかしくない?」

 驚きより先に、僕は指摘する。


「へ? 何が?」

 少女は目を丸くする。


「だって、外国に行って、そこの外国人が『ようこそ外国へ』とか言ってたらおかしいでしょ」


「たしかにそうね。やり直すわ」


「別にやり直さなくてもいいけど。で、ここは異世界なんだよね?」


「だから始めにそう言ったでしょ?」


「まあ、そうだったね」


「しかし、ずいぶんと物分りがいいのね」


「うん、まあ、『小説家になろう』とかで、そういうのよく読んでるし。ここって剣と魔法の世界で、それで魔王を倒すとかそういう理由で召喚されたとか、そういうのでしょ?」


「理解力ありすぎてむしろ不気味だわ。何だか変なもん召喚してしまったみたいね」


「変なのとは失礼な」


「まあ、いいわ。あたしの名前はリーザ。よろしくね」


「僕の名前は田中武志。よろしく」


「その名前、この世界に似合わなすぎるわ」


「そう言われても」


「しかたないわね。それでさっそくステータスオープンといくわ」


「ずいぶんとさくさく進むね」


「ええ。あたし、けっこうせっかちなのよ」


 リーザが杖っぽいものを振ると、空中に数字が出現した。


 体力:1兆 魔力:1兆 攻撃力:7兆


「ちょっと待って。やりすぎでしょ」


「そうでもないわ。あたしの魔力は25兆だから。背は小さいかもしれないけど、世界トップクラスの魔法使いなのよ」


「25兆って」


「レベル1のスライムでも5億2000万くらいの体力があるわ」


「それ数値切り下げようよ」



  ※   ※   ※



 ということで、僕とリーザは魔王を倒しに行くことになった。

 ちなみに、僕は剣と鎧を装備している。

 剣とか使ったことないけど、まあ、なんとかなるっしょ。


「まずは街のギルドに行って、冒険者として登録しないといけないわ」


「定番だね」


 街に行って、ギルドにつくと、それっぽい人たちがいっぱいいた。

 その中に、黒髪で眼鏡をかけた少女がおろおろしながらうろついていた。


「あ、あの……」

 彼女が僕とリーザに話しかけてくる。


「何?」


「わ、私を仲間にしてくれませんか」


「何で?」

 リーザがけんか腰で言う。


「あ、あの……なんというか、仲間にしてくれるような感じの雰囲気を出していたので」


「そんなの出した覚えはないわ。あたしの背が小さくて、こいつがふざけた顔しているから、なめているのね」


「まあまあ、別にいいんじゃないの? てか、ふざけた顔って何だよ」


「あ、ありがとうございます! 私の名前はソフィといいます。職業は僧侶です。よろしくお願いします」


「ちょっと、仲間にするなんて言ってないわよ」


 ということで、眼鏡っ娘の僧侶が仲間になった。



  ※   ※   ※



 一日目、スライムを倒しに行くことになった。


「スライムってぷにぷにしててかわいいって思いませんか?」

 ソフィがスライムを指して呑気なことを言う。


 ばばばばばばばばばばばばばばばば!


 有無を言わさず、リーザはスライムに炎の攻撃魔法を放った。

 魔法というより、火炎放射器みたいなやつなんだけど。

 

 5億2000万ある体力は、一瞬で削られ、スライムは無に帰した。


「ああ、スライムさん……」

 ソフィが悲しげな顔をする。


 なむなむ。



  ※   ※   ※


 

 二日目、オーク。


 オークに眼鏡を奪われたソフィは、

「それ返してください。それがないと何も見えないんです」


「ぐへへ。これから充分にもてあそんでやるからな。お嬢ちゃん」

 オークはゲス声で言う。


 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!


「ああ、オークさん……」


 なむなむ。


「えっと、リーザ、ソフィの眼鏡も燃えちゃってるけど」

 

 オークの焼死体は、ソフィの眼鏡の残骸を握ったままだった。


「戦いに犠牲は付き物よ」


 なんでも新しい眼鏡ができるまで一週間ほどかかるとかで、その後ソフィは何の戦力にもならなかった。

 まあ、もともと戦力になってないけど。



  ※   ※   ※



 三日目はドラゴン。


 僕がドラゴンの首を切って終わり。


「ああ、ドラゴンさん……」


 なむなむ。


 ドラゴン戦これで終わりかって?

 自分の活躍シーンをあんまり長々とやるのって、自慢話っぽくなっちゃうじゃん?


 まあ、さくさく行こう。



  ※   ※   ※



 そして最後に魔王のところに行った。

 魔王の城は黒くてぐにゃぐにゃした塔がいっぱいついていた。


「ようやく魔王の城に着いたのね」


「まだ四日しか経ってないけどね」


「頑張らないといけないですね」

 ソフィは一生懸命目を細めて魔王城を見る。


 で、護衛の魔物たちをさくさくと倒し、魔王のいる部屋についた。


「よく来たな。勇者ども」


 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!


「ちょ、まだ口上終わってないから! おい、そこのちっちゃいの、いきなり攻撃するやつがあるか!」


 ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば!


「うおおおおおぉ、あちいいいいいいぃ!」


 ちょっとかわいそうだったけど、僕が剣でぶすりとやってとどめを刺した。


「ぐわああああ! 俺の役割はここまでか。俺の人生なんだったんだろうな……」


 なむなむ。

 これで世界に平和が訪れるはずだ。


 しかし、瞬間、世界が止まった。

 リーザもソフィもまったく動かない。

 魔王の部屋にあるロウソクの炎も一切かたちを変えなかった。


 動くのは、僕だけだった。

 いったい、何だこれは。


 ふと、魔王の後ろにドアを見つけた。

 取っ手のついた金属製のドアだ。

 そこから光が漏れ出ている。


 僕はドアを開けて、その中に足を踏み入れた。



  ※   ※   ※


 

 そこには縦長の巨大な空間があり、中央にロケットが鎮座していた。


「は? なにこれ……?」


 ロケットの中から、光り輝いている人間のかたちをしたものが出てきた。

 僕は剣を構える。


「お前、誰だよ」


「私は何者でもありません。何にでもなることができますし、どこにでもいることができます。少なくとも、この惑星では」


「は? 惑星?」


「はい。私はこの惑星で生まれました。始めはこの惑星は岩石があるだけで、私も微生物でした。しかし、この惑星のあらゆるものを改変させる力を持っていました。だから私は、岩石の形状を何度も何度も何億年も改変しつづけました。本来ならあらゆるものを作り出すことができるのですが、あいにく私には知識がまったくありませんでした。しかし、私はある電波を受信しました。その電波というのが、あなたの記憶、あなたの意識でした。あなたは地球という惑星で、交通事故で死に、その記憶と意識が電波となって長い間宇宙空間をさまよっていたのです」


「え? 僕が交通事故で死んだって? それで、記憶? 意識? 電波?」

 よくわからない。


「あなたの記憶と意識の電波は何百億年もかかって、ようやくこの惑星にたどり着きました。そして、私がそれを受信したのです。その結果、私の情報量は爆発的に増えました。私はあなたに敬意を表して、あなた好みの世界を創造し、あなたを復活させました」


 ぶっ飛びすぎて、理解が追いつかないんだけど。


「私はこれからこのロケットで、ほかの惑星に向かいます。そして、また新しい世界を創造します」


「そ、そうですか」


「はい。最後に望むことはありますか。私は何でもできます。あなたがこの世界を好むと思って、剣と魔法のファンタジーの世界にしたのですが、もし要望があれば言ってください。この世界をあなたが死ぬ直前の2010年代の地球と似たようなものにしたり、和風ファンタジーの世界にしたり、学園ラブコメの世界にしたり、SFでもホラーでも何でもありです。あなたを超イケメンにしたり、女の子にしたりすることもできます。ただ、私がここを離れたら、もうこの惑星はあらゆるものは一切改変されません。そこだけ気をつけてください」


「なんだかよくわかんないけど、じゃあ、二つだけいい?」

 僕は要望を言った。


「わかりました。それでは、さようなら」

 光った人間っぽいやつは、ロケットに乗り込んだ。


 すぐに、轟音とともに、ロケットが発射された。

 ロケットは徐々に小さくなっていき、やがて見えなくなった。


 僕はドアを開け、魔王の部屋に戻った。


「どこ行ってたのよ」

 と、リーザ。


「ちょっと野暮用で」


「あの、武志さん、あたし、目がすごくよく見えるようになりました。たぶん視力2.0くらいあります。これって、魔王を倒したおかげでしょうか」


「たぶんね」


「あたしは、なぜかちょっと背が伸びているわ。これも魔王を倒したおかげかしら?」



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