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不良の理由

「お前……顔悪いぞ…」



生徒会室に着いた俺は、間宮を見て開口一番そう言った。

生徒会室でまたあの宇宙人集団がはしゃいだのか、床や机にはゴミが散らばり、そんな中で間宮は一人、仕事を捌いていたらしい。

顔を上げないまま、間宮は書類に判子を押す。



「この俺に向かって顔悪いはねぇだろ。言うなら顔色だ」

「いや、顔悪いっつーのもあながち間違ってねぇよ、今のお前…」



顔色も悪いが、顔も悪い。

ヒドい形相と言った方が正しいのか。

日に日に間宮の体調が悪くなってるような気がする。

間宮は、当初の冗談や下ネタすら言わなくなってきた。

やっぱり、生徒会を一人で機能させるのはキツいんだよな…。

風紀委員長の山下も、最近頻りに生徒会室に来てリコールを促してくる。

それでも首を縦に振らない間宮は、まだ役員が戻ってくると信じてるんだろうな。

間宮は実はお人好しなんじゃねぇかって最近気付いてきた。

そんな間宮が写真をネタに俺を脅してくるってのに若干の違和感を抱いてないわけじゃねぇが、それは今置いておく。

間宮に気付かれないように少し考えて、コーヒーを淹れてやろうと給湯室に行った。

お湯を沸かしていると、会長席に座ったままの間宮が口を開いた。



「神山は今まで何してたんだ?」

「あ? あー…会計と一緒に居たな」

「……は?」



カタン、と音がした。

ペンでも落としたのだろうか。



「……そう言えばさっき、尚輝だけ井川と一緒にいなかったな。何してたんだ。つーか、何で一緒に居る状況になった」

「俺が学園彷徨いてたら、チビ二人に絡まれてる奴がいてな。うるせぇから追い返そうとしたら、そのチビ二人は逃げて、逃げ遅れたのが会計だった」



裏庭でスズメと戯れていた云々の話はキレイにすっ飛ばした。

これ以上間宮に弱味握られたら、何させられるか分かんねぇからな。

にしても…いつも以上に間宮の声、低くねーか?

俺が会計と一緒に居たって言ってからだよな。

…あぁ、そのままの流れで会計も連れてこいよ気が利かねぇな、ってことか。

あの状態で会計が素直に仕事手伝うとは思えねぇけど。



「くそっ…尚輝のヤツ、俺を差し置いて神山と一緒に居やがって…」

「あ? 悪ぃ、なんつった?」

「何でもねーよ。つか、尚輝と会話出来たのか」

「あぁ、アイツ結構良い奴だった」



バキッ



「? 何だ今の音」

「…世にも珍しい万年筆が折れた音だ」

「はぁ!? 万年筆ってンな簡単に折れねぇだろ!?」



どんだけ切羽詰まって書類書いてんだ。

半ば呆れながら、沸いたお湯でコーヒーを淹れる。

そしてポケットから小さなビンを取り出し、中のモノをコーヒーに入れてかき混ぜ完成。

それを間宮に持って行ってやる。

間宮は手を止めて礼を口にし、コーヒーを飲んだ。



「…尚輝とどんな話したんだ」

「他愛もねぇ話だ」

「他愛もないんだったら言えるだろ」



妙に突っ掛かるな、今日の間宮は。

会計との会話って言えば、動物の話とかだから言いたくねぇんだが…あ、他にもあったな。



「何で髪を赤に染めてんだって訊かれた」

「は? 髪?」

「だから他愛もねぇっつったろうが」



俺は床に散らばるゴミやら何やらを片付けていく。

やっぱ、生徒会室は綺麗じゃないと気分が悪い。

鷹宮中学では校内の美化を徹底したもんだ。

間宮の命令なんか関係なく自主的に掃除を進める。



「…そう言われると気になるな。何でだ?」

「雑談してて良いのか、生徒会長」

「息抜きぐらいさせろ」



くぁ、と欠伸をする間宮を横目で見ながら、俺は息抜きに付き合ってやる。



「赤髪にしたのは不良に見えると思ったからだ」

「不良に、なぁ…」

「どう見ても、不良だろ?」



会計に言ったのと同じことを口にした。

そう言った時会計は沈黙したが、間宮はそうだなと肯定するんだろうな、と思っていれば。



「まぁ、見た目は不良に見えるが、中身は違うよな」

「は? 何言ってんだ、テメェは」

「実際接してみれば不良って感じしねぇんだよ」



じーっ、と見てくる間宮の視線に居心地の悪さを覚える。

不良って感じしねぇって…意味分かんねぇ。



「まず、花に笑い掛けてただろ」

「忘れろ」

「写真データバックアップ済みだ。あとは…」

「バックアップ済みとかざけんな消せ」

「掃除すげぇ丁寧だろ」

「無視してんじゃねーぞコラ」



俺の言葉を悉く無視しまくる間宮は、俺の行動を指折り数えていく。

挙げられる行動だけ聞けば成る程、おおよそ不良の行動じゃないことを自覚した。

何となく気まずくて掃除の手を速めると、行動を挙げたことに満足した間宮は少しボーッとした様子で頬杖をついて。



「で、何でだ?」

「あ? だから不良に見えるように…」

「違ぇ。何でお前は、不良に見られたかったのか、ってことだ」



その問いに俺は。

ピタリ、と動きを止めた。

間宮の視線を背中に感じる。


『ねぇ、かみやん…何でこんなことしたの…?』


友達だった奴の声が頭に響いてきた。

俺は振り返らないまま、はは、と笑う。



「不良に見られたかったのかって質問、おかしくねぇか?」

「俺にはお前が、そう言ったように聞こえた」

「たいした理由はねーよ。アレだ、アレ。不良がカッコ良く見える時期が中三の冬に来て…」

「お前がそんな理由でンなことするようには思えねぇ」



何を根拠に言ってんだバカ。

そう言ってやろうと思ったのに、咄嗟に声が出なかった。

失敗した。

何で髪の話なんか間宮にしたんだ、俺。

頼むから、それ以上突っ込むな。

そんな願いとは裏腹に、間宮は言い放つ。



「お前、不良に見えなきゃいけねぇ理由でもあったんじゃねーのか?」

「…っ」



息を、呑んだ。

間宮の言葉は的確に。

真実を、突いていた。


『かみやん、頼むから何か言ってくれ』

『どうして言い訳すらしてくれないの…っ』


きゅ…っ、と胸が縮む。

ははっ…あん時俺は、覚悟を決めただろうが。

……ツラいと思うのは、お門違いだ。

流石にこれ以上黙るとマズイと思った俺は、一呼吸して振り返る。



「間宮、俺は……、…寝てんじゃねぇか間宮の野郎…」



どうりで静かなはずだ。

見ると間宮は、会長席に腕を枕に突っ伏して眠っていた。

近付いてみると、背中が上下していて熟睡していることが窺えた。

間宮は決して、会話してる時に寝落ちするような失礼な奴じゃない。

……普通なら。



「結構な効き目だな…この睡眠薬」



俺はおもむろに、ポケットから睡眠薬の小ビンを取り出す。

さっき間宮のコーヒーに入れたのは、この睡眠薬だった。

あれ以上仕事をすると、ガチで倒れそうだったからな。

会長親衛隊隊長の曾根崎にも間宮を支えてくれと頼まれていた。

でも眠れと言っても素直に聞かないことが容易に想像出来たから、少々強引な手を使わせてもらった。

殴って気絶させなかっただけでも感謝してほしいもんだ。

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