表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

風紀委員長と憧れの生徒会長

生徒会室に戻ると、間宮は汚れた部屋を見て言う。



「分かったろ? 俺が汚してるわけじゃねぇって」

「…それは別にもう良い」

「じゃあ何怒ってんだ」

「っ、どうしてテメェは怒らない……ッ!」



ぐいっ、と胸ぐらを掴まれた間宮は自分より少し背の低い俺に視線を下げる。



「お前……」

「テメェが生徒会の仕事全部してんだろ!? なのにセフレだとか嘘言われてんのに、何でテメェは笑っ…、……っ!?」



俺は言葉を切った。

突然間宮に抱き締められて。

間宮の体温が今までにないくらい近くに感じられて、何故か言葉が出てこない。



「あー…ほんと、噂って何なんだろうな」

「い、イキナリ何だよ…」

「噂通りのお前ならあいつらのお前への悪口に怒るはずなのに、現にお前が怒ってんのは俺の悪口に対するもんだし…不意打ちで嬉しい」



ぎゅっ、と腕に力を込められた。

それを聞いた瞬間、脳裏に映像が浮かんだ。


『おまえが…そんな奴だとは思わなかった』

『ご、ごめん…もう俺らに、近付かないでくれるかな…っ』


目を合わせてくれない友人の…友人だった奴らの姿が。

俺は目を瞑って間宮の胸の中で首を振る。



「俺は…自分がしたことが他人に誤解されんのが嫌なだけで…結局自分のためにムカついてんだよ」

「大丈夫だ。どうせあいつらの一人相撲なんだから」

「え?」



意味が分からなくて顔を上げると、鼻先が触れそうなぐらいに間宮の顔があった。

うわ、整った顔しやがって…じゃねぇ!

今の体勢を認識して慌てて離れようとして、間宮は不満そうに俺を離す。

な、何だその顔はっ!

俺は誤魔化すように咳払いをした。



「…で、一人相撲って、どういう意味だ」

「慎也たちがいくら俺を貶めようと、もう皆…霞桜学園の生徒も教師も、俺以外が仕事してないってこと知ってんだよ」

「…そう、なのか?」

「あぁ。お前は知らねぇと思うが、井川が転入してきて直ぐに慎也も尚輝も空も海も井川にオちやがってな。それから仕事はしねーわ、備品は壊すわ、親衛隊とモメるわ…風紀もイライラしてんだよ。そんなの見てりゃ、あいつらが仕事してないのは一目瞭然。なのに学園は滞りなく回ってる」



ってことは俺が仕事してんのも一目瞭然だ、と苦笑しながら間宮はそう言った。

そうか…だから食堂で副会長の奴らは生徒たちにあんな睨まれてたのか。

仕事してないのに好き放題やってりゃ当然だな。



「お前は…井川に惚れなかったのか?」

「あんなワケ分からん宇宙人に惚れるほど切羽詰まってねぇよ」



間宮の即答に俺はホッとする。

…ん? ホッとするって何だ。

間宮が井川に惚れようが関係ねーじゃん。



「これから副会長たちをどうするんだ?」

「リコールするのが賢明だな」



俺の言葉に答えたのは間宮じゃなかった。

生徒会室に入ってきたのは黒縁眼鏡の男子生徒──風紀委員長山下 純一。

理解力があり堅実に風紀を正すが、腕っぷしもあってある種の人間からは恐れられている。



「山下、またお前か」

「そんなことを言うぐらいだったら早くリコールしろ、間宮」

「リコールするのはまだ早い」

「リコール……」



やはりそんな話が上がってんのか。

山下の口調から、もうリコールの準備は出来てんだろうな。

山下は呆れたように息を吐いてこっちに目を向ける。



「お前が神山か。風紀委員長の山下純一だ。初めましてだな、神山」

「…そうだな」

「初めまして? 初対面なのか?」



意外そうな間宮に山下は頷く。



「あんな噂があるにも関わらず、神山は俺たち風紀には一度も世話になっていない」

「……お前、何で不良とか言われてんだ」

「知るか。見た目だろ」



気まずくて顔を逸らす。

何か俺がヘタレみてぇじゃねーか。

ただ面倒が嫌いなんだよ、俺は。

山下はリコールの件だけが用事だったのか、退室しようと扉に向かう。

しかし一歩手前で足を止め、首だけ振り返った。



「……人の話や噂だけでしか人を判断しない野郎どもは黙ってろ、か。俺たちにはなかなか痛い台詞だった」

「別にお前は違うだろ。俺見ても怖がんねーし」

「…フッ。気に入ったぞ、神山司」

「は? うわっ」



突然間宮に後ろから抱き締められた。

こっ…いつ、ワケ分からん行動しやがって!!



「何やってんだ間宮! 離せバカ!」

「俺のモンに手ぇ出したら風紀潰すぞ」

「は!? 俺のモンって何だ!」

「直ぐそっちの思考回路に持って行くんじゃない。いつでも手を貸すと言っているんだ」



はぁ、と山下は眼鏡を上げながら呆れたような息を吐く。

そして去り際に一言。



「お前の憧れの生徒会長にも笑われるぞ」



パタン、と扉が閉まる。

俺は目を瞬かせて、相変わらず後ろから俺を抱き締めてる間宮を見上げる。



「…憧れの、生徒会長? 生徒会長はお前だろ?」

「あー…山下が言ってんのは、他校の生徒会長のことだ。っつっても、中学の時のだけどな」

「意味分かんねぇんだけど。つか離れろ」

「お前抱き心地良いんだよ。そっちの意味じゃなくてな」

「死ね」



がんっ、と思いっきり足を踏んでやった。

い…っ、という間宮の声に溜飲が下がる。

そっちの意味の抱き心地とか、いちいち下ネタ挟むんじゃねぇよ。



「で? さっきのはどういう意味だ」

「そっちの抱き心地の意……冗談だ」



再び足を上げかけた俺を見てすぐさま言葉を引っ込めた。

チッ、踏んでやろうかと思ったのに。



「まぁ、俺には憧れっつーか、目標にしてる生徒会長がいるんだ」

「……お前が?」



この実力主義の霞桜学園高等部の生徒会長なんてのになってるこの間宮が、目標にしてる?

……どんな化け物だ、ソイツ。



「高等部からの外部生であるお前は知らないかもしんねぇが、俺は中等部でも生徒会長してたんだよ」

「…マジか」

「あぁ。それで年に一回、中学合同生徒会集会ってのがあってな。複数の中学の生徒会長が集まって功績とか話し合ったりするんだ」



あぁ、そう言えば俺が中学の時もあったなそんなの。

皆忙しいっつってたわ。



「それで俺も参加してたんだが……俺が中学二年の時の集会で、それまで出席したことなかったある中学から初めて生徒会長が出席した」

「出席したことないって…良いのかよ」

「そこ、有名な不良校でな。生徒会なんてあってないようなモンだったんだと。それで功績発表が始まって、その不良校の生徒会長の話を聞いて…純粋に、驚いた。ソイツ、ほぼ一人で学校改革してやがったんだよ」

「…………」



誇らしげに語る間宮に、俺は嫌な予感がしていた。

有名な不良校……学校改革……二年生……いやいや、まさか。

この間宮が憧れる生徒会長がまさかそんな…ねぇよな。



「しかも他の中学の生徒会長は、どうだ凄いだろって顔でたいしてことねぇことを自慢しやがってたのに、ソイツは淡々とっつーか、普通のことをしましたって顔で話してた。そこの不良校はほとんど見捨てられてたのに、ソイツが立て直したんだ」

「……ほんとにソイツが立て直したのかよ。タチの悪い三年が卒業しただけじゃねぇのか?」

「いや、その集会の数日後実際にその中学行って確かめたから間違いはねぇ」

「は!?」



俺は耳を疑った。

仮にも金持ちの坊ちゃんが元不良校に行ったって…バカか、こいつ!!



「たまたま目に入った生徒に、生徒会長ってどんな奴だって訊いてみたら」

「…みたら?」

「そいつが校門に立ってる四人の生徒指差して、逆に訊かれた。『あいつらどういう風に見えます?』ってな」



**


四人の生徒。

一緒に帰るようで、仲が良さそうに談笑していた。


『どうって…友達だろ、あいつら』

『今は、そうですね』

『今は?』

『あの中の二人が不良。残りの二人はあの二人の不良にパシらされてた奴らです』



その言葉に、目を見開く。

パシりの関係には一切見えなくて。

その反応に、にっこりと誇らしげに口元をあげるその生徒。



『不良と一般生徒が仲良くしてもおかしくない、ってことを教えてくれた人ですよ、会長は』

『……慕われてるんだな、ここの会長』

『そりゃあもう。だって───』


**



「──だって、この中学校の神ですから、GODですから、司っちゃってますから、……とか言ってたな。まぁ、神とか司るとかは置いといて、慕われてるその生徒会長みたいになりたいと、俺は思ったんだ」

「……その中学って…いや、言わなくて良い、言うな、聞きたくねぇ」

「確か…鷹宮中学、だったか…? 会長の名前は覚えてねぇんだよなぁ…自己紹介の時点では興味無かったし。霞桜ならまだしも、流石に他校の生徒の情報は調べられなかった」

「たか、みや…中学……」



鷹宮中学。

学校改革をした生徒会長。

それは。



『本当に、かみやんは鷹宮の救世主だな』

『違うってぇ。かみやんは神様なの、鷹宮を司ってるんだよ!! ───神山 司だけにっ!!』



なんてなっ、と楽しげな笑い声が脳内に響きながら、俺は乾いた笑いを浮かべた。


あぁ、言えやしねぇ。

この完璧超人な間宮裕貴が憧れている生徒会長というのが。

現在赤髪の不良街道まっしぐらの俺だなんて……本気で笑えねぇよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ