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双子のイタズラ

(no side)


「とゆーわけで僕らもお仕事に戻るよっ」

「今までサボったりして」

「「ごめんなさぁいっ」」



奇しくも海以外の生徒会役員が生徒会室に集結した翌日。

ぺこり、と小さな頭が二つ下がるのを見て間宮は目を二、三度瞬かせてから息を吐いた。



「何が『とゆーわけで』なのかは知らねぇが、仕事する気があんならさっさとしろ」

「ふふふ、はぁいっ」

「へへへ、はぁいっ」



どさっと渡された紙の束を、空と海は嬉しそうに笑って受け取る。

本当に何があったんだか、と間宮は内心思いながら自分たちの机に向かう双子を見た。

大塚もそうだが、空と海は決して仕事をもらって喜ぶような人間じゃなかった。

実力主義な霞桜学園の中で優秀な生徒が選ばれる生徒会役員だが、優秀イコール仕事好きというわけではない。

確かに家柄が家柄だけに立場ある大人とも大勢関わって来たし、その分社会の裏側も知っている。

だが所詮自分たちは高校生で、子どもだ。

霞桜学園では少々窮屈だが、恋愛もしたいし友人とも遊びたい盛り。

それなのに一つの学園を支えるような大役を任されてしまう、それは酷く肩を重くさせた。

間宮は早々に覚悟を決めて生徒会の仕事に身を入れてきた、と言うより元々頂点を取るつもりで霞桜学園に来たし、中等部から生徒会長だったのだから覚悟は最初からあった。

しかし他の役員はそうではなかったのだろう。



「「…ねぇねぇナオっちー」」

「? な、に?」



ふと、黙々と仕事をしていた大塚に二人は呼び掛けた。

大塚は首を傾げて双子に視線を向ける。

空と海は眉を下げて大塚を見詰めていた。



「その…ごめんね?」

「え…?」

「ナオっちを理解しようとしなくて」

「優馬が怒ったあの時、フォロー出来なくて」



ごめんなさい、と再び謝る双子を暫く無言で見詰めていた大塚は、柔らかな笑みを小さく口元に浮かべた。



「いい。俺も、悪い。踏み出せ、なかった」

「これからは僕らもナオっちといっぱい喋りたいから頑張るねっ」

「よろしくねナオっちっ」

「ん、よろし、く」



にこーっと笑い合う三人を、間宮も仕方ないなと内心呟きながらもどこか嬉しそうに見ていた。

少し緊張していた空気がゆるんだことで、空と海はそう言えばさ、と切り出す。



「かいちょーもナオっちも正直に答えてほしいんだけど」

「二人って僕らのこと見分けられたりするの?」

「…え、と」

「「しょーじきにっ」」

「見分けられる」

「かい、ちょ…」

「「ナオっちも?」」

「…う、ん」



堂々と答えた間宮とオドオドとして頷く大塚。

その様子に、あぁやっぱりと二人は思った。



「二人も僕らの共依存を見て黙ってたクチかー」

「神山司の言う通りだったねー」

「神山?」

「かみや、ま?」



カチカチとシャーペンを顎に当てて唇を尖らせる双子が発した人名にピクリと反応する。

そんな二人の反応に、実はと口を開いた。



「ほら、ふくかいちょーが僕を呼びに来た時あったでしょ?」

「その時僕ら神山司にお説教されちゃって」

「目が覚めたよねっ」

「僕なんて頭突きされたもんねっ」



言葉の内容的には恨みつらみが込められていそうだが、あははっという笑い声にそんなものは微塵も抱いていないことが窺えた。

しかし頭突きとはまた…と間宮と大塚が苦笑していると、空は大塚に尋ねる。



「ねぇ、もしかしてナオっちも神山に何とかしてもらったんじゃない?」

「え…なんで?」

「んー…実はさ、神山と偶然会った時訊かれたんだ。会計は今どんな状況なんだ、みたいな」

「神山、が?」

「うん、それでこうも言ってたから。…辛そうだからどうにかしてやりたい、って」



そう告げられた大塚は、ピシリと固まる。

沈黙が支配する生徒会室。

しかし暫くするとその言葉が脳にまで届いたのか、その瞬間ブワッと大塚の周りに花が舞った。

頬を赤く染め、嬉しそうに身体を揺らす姿はどこか大型犬の幻覚を見せる。

そしてその時ちょうど、生徒会室の扉が開いた。

そこから姿を現したのは、渦中の神山だった。

いつもの如く生徒会の雑用をしようと生徒会室を訪れた神山は、昨日までは居なかった二人の姿を見てほんの少し目を見開き、空、海、と口にする。

昨日改めて自己紹介して呼んでもらえるようになった名だ。



「お前ら…っうわ!?」

「か、みやま…!! 好き、だい、すき…っ!!」

「は、はぁ? 何でいきなり、おい、離せ馬鹿!!」

「あーっ、神山だーっ」

「ナオっちだけズルいー、僕も僕もーっ」



どしーんっと口にしながら空と海も大塚同様神山に抱き付く。

うぐっと呻きながらもしっかりと受け止めているのは流石神山と言うところだろうか。

ぎゅうぎゅうと突然三人に抱き締められた神山は、どういうことだと間宮に視線を向ける。

すると間宮は立ち上がってフッと笑い。



「じゃあ俺も…」

「来たら殴る」

「お前俺に対して厳しすぎだろ」

「自分の日頃の行いを思い出してから言え」



ぺっ、と唾でも吐きそうな神山と間宮の攻防に双子はきゃっきゃと笑う。



「かいちょーってば日頃神山に何してんのー?」

「抱いてるのー?」

「有り得ねぇこと言うな馬鹿双子」

「ぐ…っ」



何かが突き刺さったかのように胸を押さえる間宮に、冗談で言った双子は目をぱちくりと瞬かせて一緒に抱き付いている大塚を見た。

すると大塚は、コクリと小さく頷く。

それだけで双子は目を輝かせた。

あの会長が最恐不良に恋してるなんて、そんな面白いことがっ!! と。

双子はにんまりと笑い合ってするりと神山から離れる。

そして喋りながら自然に、間宮の背後へと向かった。



「あのね、神山。昨日の夜お母さんたちとテレビ電話したんだ」

「僕らの気持ちとか、全部聞いてくれてね」

「僕と海を見分けられるか訊いてみたのっ」

「そしたらね、百発百中だったんだよっ」

「「ちゃんと、空と海を見ててくれてたんだよっ!!」」



片手でお互いに手を繋ぎ、もう片方の腕をめいいっぱい広げて晴れやかに笑う空と海。

お互いの世界にお互いしか居なかった頃の二人とは比べ物にならない程、すっきりとした心からの笑みだった。

間宮と大塚には付き合いが長い分それがありありと分かったし、この前知り合ったような神山でさえもう大丈夫だと思えるような。

神山は口の端を上げる。



「そりゃ良かったな」

「うんっ、ありがとねっ」

「かいちょーも、待っててくれてありがとっ」

「それは良いが、何で二人して俺の後ろに来…」

「「そぉれ、どっしーんっ!!」」

「っ、…!」

「え…うわっ!!」



掛け声と共に背中を思いっ切り押された間宮は、ぐらりと態勢を崩した。

そしてその先には、双子の思惑をいち早く察した大塚が離れた神山が立っていて。

どさり、と音が生徒会室に響いた。

その中心に、片手で床に手を付きもう片方で神山の後頭部に咄嗟に手を差し込み頭を打つのを防いだ間宮と。

床に背を付け赤い髪を床に散らせる神山の姿が。

間宮に神山を押し倒させるという裏の目的を持った悪戯を成功させた双子はハイタッチをする。



「「いえーいっ!」」

「てめっ、双子!! 危ねぇだろうが!!」

「ごめぇんっ」

「びっくりした? びっくりしたー?」

「くそっ、坂木と寒川が言ってた悪戯の意味が今ようやく分かった。間宮、頭助かった。どいてくれ…、おい?」

「かい、ちょ…?」

「あ、あれ?」

「か、かいちょー?」



わいわいと騒いでいたが、ピクリとも動かない間宮に気付いて喧騒がひっそりと無くなる。

もしかしてどこか痛めてしまったのだろうか。

他人様に迷惑を掛けるような悪戯をしないようにしようと決めた双子は、これなら間宮は喜んでくれると思ったのだけれど。

わたわたオロオロする三人を目の端に、神山は怪訝な表情で自分の真上に覆い被さる間宮の顔を見ていた。

少し俯いているせいで前髪が目を覆っているが、そう言えばこうしてまじまじと間宮の顔を見ることはあまりなかったことに気付く。

いつもは何だかんだで言い合いのようなものになってしまったりするから。

それもこれも性質の悪い冗談を言いまくってくる間宮のせいだ。

まぁやはりと言うか何というか、間宮の顔は整っていて、男の霞桜学園の生徒が騒ぐのも無理はないかもなと思ってしまう。

神山は高等部からで男が男に恋をするという感情を完全に理解出来るわけではない。

しかしそういうものが有り得るということは以前から知っていた。

それこそ、鷹宮中学で生徒会長をしていた時から。

昔のことに思いを馳せていると、すっと頭から手が抜かれた。

ようやくどいてくれるのか、と再び目線を上げて間宮と目が合った瞬間。



「──ッ!!」

「ぅっ!!」

「うわーっ!! かいちょーっ!!」

「ひどいよ神山司ーっ! お腹蹴るなんてーっ!!」



突然神山が膝を間宮の腹に入れ、間宮が呻いて腹を押さえる光景を見て双子は慌てて間宮に駆け寄る。

しかしそんな非難をされながらも神山は座り込み、微かに肩で息をして呆然としていた。

ゾクリと、した。

前髪から覗く間宮と目が合った瞬間、背筋が震えた。

怯えでも恐怖でもないものが、本能を揺さぶった。

そして反射的に感じ取った──これはヤバい、と。

その瞬間神山は無意識に間宮の腹へと膝を決めていた。

神山はぎゅっと胸の辺りの服を掴む。

もし、もし、自分が何も行動を起こさなかったら。



「お前…今、俺に何しようとした…?」



ぽろりと神山の口から言葉が漏れた。

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