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アカイイト


へぇ、咲さんが好きなんだ。



思わずそんな言葉をこぼすと



彼の口角が妖しげに弧を描く。



その口から否定の言葉も肯定の言葉もない。




「煌さんって確かバレー部だよね?」



「そうだけど?」



「先輩から彼女さん奪うんだ。」





嫌味たっぷりに



書き捨てるように言葉が口から出て



木葉に刺さっていく。




でも本人はなんてことないように



俺がバレー部って知ってたんだ、と



ニタニタ笑う。




アンタ、顔はいいからね。



よく友達から聞いてたんだよ。





興味なさげにつぶやけば



そっかそっかと満足そうに頷いた。





「そ、略奪愛。」





低い声が私の鼓膜を刺激する。



ケラケラ楽しそうな木葉が



なぜかとても不愉快で



早く、彼から離れたかった。




「あっそ。じゃあ見かけたら切っとくから。」




「見かけたらって随分テキトーだな。」




「依頼受けてあげたんだから、感謝して欲しいくらいよ。」




じゃあね、ひらり手を振って



彼に振り返ることなくその場を去った。




「あ、煌さんと咲さん!」




ドキッと、心臓が大きく高鳴った。




昨日、木葉に頼まれたけれど



なぜか乗り気じゃなくて





廊下はなるべく見ないように



極力、教室からでないように






そうして一日を終えようとしていたのに



油断した。



私の視界に二人の姿が映る。









見かけたらって言っちゃったし



仕方ないか。




「じゃあ私先に帰るね。」



「えー、カラオケ行かないの?」



「ごめん、また誘って。」



ひらひら手を振って



重たい足を動かして



廊下に出ればまだ遠くない二人の姿。





ごめんなさい






小さく人差し指を振り下ろす。



さっきまで繋がっていた糸は



ぷつりと切れて、宙に浮く。







初めて“罪悪感”を覚えた。











誰よりも早くお弁当を食べ終えて



委員会の仕事があると嘘をついて



中庭のあの場所に走る。



やっと着いたと思ったら



人影がひとつ。




「木葉?」




「やっと来た。」





待ちくたびれた、と言わんばかりに



口を尖らして文句を並べる。



どうしたの?と聞けば



彼がごろんっと寝そべった。



木葉に会うのは



二人の糸を切った、と報告した朝以来。



「お前さ、本当に糸切ったの?」




「切ったけど、なに?そんなこと嘘つかないよ。」




「じゃあ、アレはどうしてなんだろ。」




「アレ?」








「先輩たちの糸、繋がってた。」




不思議そうにつぶやいた言葉に



私の頭はフリーズ。



「嘘でしょ?」という私の言葉に



「嘘だと思うなら見てくれば?」ケタケタ笑う彼。



気づけば走っていた。



廊下も走って



階段も一個飛ばしで駆け上がって




三年の教室のある階につき



ぐるりと見渡せば



すぐに見つけた笑い合う二人。




切ったはずの糸は



しっかりと繋がっていた。




なんで、なんで、なんで



昨日確かに切ったはず。



なのになんで繋がってるの?



なんであなたたちは笑いあっているの?




こんなこと初めてで



戸惑いが隠せなくて



頭の中がぐちゃぐちゃだ。




そうだ、もしかしたら



ちゃんと切れてなかったのかもしれない。



切ったつもりでいただけかもしれない。




フーっと息を吐いて



心を落ち着かせて



もう一度、人差し指を振りおろした。




ぷつり、糸が切れて宙を漂う。




「今度こそ、ちゃんと切った。」





でも、胸に引っかかるものは取れなくて



それを振り払うように



意味もなく走って彼らから離れた。





もう、大丈夫。



そう思っていたのに














翌日、私が見たものは



繋がった二人の糸だった。


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