夢遊
いざ出陣と、下駄箱の前にやってきた訳だが、
見覚えのない制服を着た少女がちょうど俺の靴の辺りいた。
「こんにちわ、先輩。」
「…よう。」
覚えのある後輩。
「また会えたね。」
嬉しそうに、寂しそうに笑っていた。
「俺たちは先に行ってるぞ。」
「後で絶対お前も来いよ。」
何もを察した周助と薫のおかげで2人きりになった。
「どう?」
その場で小さく回る後輩。
靡くスカートに思わず目がいってしまう。
「似合ってる?」
「うん、可愛いと思うよ。」
「じゃあ、どっちの方が似合ってる?」
…
「こっちかな。」
他意はなく、ただ率直な意見を答えた。
「そう?」
「ああ、個人的な好みだ。」
「そっか…」
…
後ろめたい事は無いはずなのに気まずい。
「今日で最後なんだ。」
「…!」
「荷物整理や書類の提出に来て、
…
それで最後に先輩の顔を見に来た。」
「最初は部室に行ったんだ。
そしたら『今日は演劇部の方に行ってる』って。
演劇好きだったの?」
「嫌いじゃないけど、今日は野暮用でな。」
「ふーん。
んで演劇部の部室の方に行ったら部長と副部長が『ここで待ってろ』ってさ。」
「あー、悪い事したな。
結構待ちゃったか?」
「『いや、今来たとこ』
って、実際にはならないよね。」
「まあそうだな。
『演劇好きだったの?』」
「『嫌いじゃないけど、今日は野暮用でな。』」
「『ふーん、っふ」
「ふふ、似てないんだけど。
てか真似しないでよ。」
「お互い様だ。
先に始めたのはそっちだろ?」
「ま、それはそれとして、
待たせちゃった訳だけど、何かあるの?」
「何かなきゃダメ?」
「ダメとは言えない質問だよな。
いいけどさ。」
「…最後に、最後だからさ…
本当にこれで最後だから、
散歩でもしない?」
「いいよ」
結局下駄箱を後にしてもうすぐ下校時間の校舎へと
戻っていった。
ここがわたしが通っていた教室。
去年先輩が通っていた1年生の教室。
階段を上がって、
ここが来年わたしが、今年先輩が通ってる2年生の教室。
奥の理科室はいつもの部室。
階段を上がって、
ここがいつかわたしが、来年先輩が通うはずだった3年生の教室。
ここがわたしたちが出会った階段。
ありがとう。
ありがとう、ございました。
お世話になりました。
・
・
・
口に出してはみたものの上手く伝わっているだろうか?
先輩は笑っている。
私は泣いている。
お礼というわけではないが
本当はわたしのボタンを渡したかったのだが、親に止められた。
それにこっちの方が先輩も受け取っても困らないだろうって。
わたしのことはいい、
わたしのことはいいからせめて、
せめて彼のことだけは忘れないでいて欲しかった。
そんなわがままが詰まったお守りを。
先輩は決して開かないだろうけど中には弟の写真を入れておいた。
わたしだけ新しい制服を見てもらうのはズルいけど、中には見覚えのある新しい制服着た弟の写真を入れておいた。
だけども先輩は困った顔をしたまま
「大丈夫だよ、忘れないから
七海の事も、汀の事も、」
やっぱり笑ってくれた。
最後の先輩の笑顔を忘れない。
もう二度と会えないけれど、
けれどわたしも忘れない。




