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今際の夢  作者: lycoris
今はの夢
89/140

夢遊

いざ出陣と、下駄箱の前にやってきた訳だが、

見覚えのない制服を着た少女がちょうど俺の靴の辺りいた。

「こんにちわ、()()。」

「…よう。」

覚えのある後輩。

「また会えたね。」

嬉しそうに、寂しそうに笑っていた。


「俺たちは先に行ってるぞ。」

「後で絶対お前も来いよ。」

何もを察した周助と薫のおかげで2人きりになった。


「どう?」

その場で小さく回る後輩。

(なび)くスカートに思わず目がいってしまう。

「似合ってる?」

「うん、可愛いと思うよ。」

「じゃあ、どっちの方が似合ってる?」

「こっちかな。」

他意はなく、ただ率直な意見を答えた。

「そう?」

「ああ、個人的な好みだ。」

「そっか…」

後ろめたい事は無いはずなのに気まずい。



「今日で最後なんだ。」

「…!」

「荷物整理や書類の提出に来て、

それで最後に先輩の顔を見に来た。」


「最初は部室に行ったんだ。

そしたら『今日は演劇部の方に行ってる』って。

演劇好きだったの?」

「嫌いじゃないけど、今日は野暮用でな。」

「ふーん。

んで演劇部の部室の方に行ったら部長と副部長が『ここで待ってろ』ってさ。」

「あー、悪い事したな。

結構待ちゃったか?」

「『いや、今来たとこ』

って、実際にはならないよね。」

「まあそうだな。

『演劇好きだったの?』」

「『嫌いじゃないけど、今日は野暮用でな。』」

「『ふーん、っふ」

「ふふ、似てないんだけど。

てか真似しないでよ。」

「お互い様だ。

先に始めたのはそっちだろ?」


「ま、それはそれとして、

待たせちゃった訳だけど、何かあるの?」

「何かなきゃダメ?」

「ダメとは言えない質問だよな。

いいけどさ。」


「…最後に、最後だからさ…

本当にこれで最後だから、

散歩でもしない?」

「いいよ」



結局下駄箱を後にしてもうすぐ下校時間の校舎へと

戻っていった。

ここがわたしが通っていた教室。

去年先輩が通っていた1年生の教室。

 階段を上がって、

ここが来年わたしが、今年先輩が通ってる2年生の教室。

奥の理科室はいつもの部室。

 階段を上がって、

ここがいつかわたしが、来年先輩が通うはずだった3年生の教室。

  ここがわたしたちが出会った階段。

ありがとう。

ありがとう、ございました。

お世話になりました。

口に出してはみたものの上手く伝わっているだろうか?

先輩は笑っている。

私は泣いている。


お礼というわけではないが

本当はわたしのボタンを渡したかったのだが、親に止められた。

それにこっちの方が先輩も受け取っても困らないだろうって。

わたしのことはいい、

わたしのことはいいからせめて、

せめて彼のことだけは忘れないでいて欲しかった。

そんなわがままが詰まったお守りを。

先輩は決して開かないだろうけど中には弟の写真を入れておいた。

わたしだけ新しい制服を見てもらうのはズルいけど、中には見覚えのある新しい制服着た弟の写真を入れておいた。


だけども先輩は困った顔をしたまま

「大丈夫だよ、忘れないから

七海の事も、汀の事も、」

やっぱり笑ってくれた。

最後の先輩の笑顔を忘れない。

もう二度と会えないけれど、

けれどわたしも忘れない。


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