叶
「はぁ…」
目の前のこの人が『香』で、
お世話になってるらしいこの人の弟が『薫』というらしい。
紛らわしい名前というか、
弟?
「鈴本 悠也です。」
「本当に?」
返答しただけなのに何故か疑われる。
「わざわざ偽名なんて名乗らないですよ。」
「そうだよね。」
すっと綺麗な手が伸びた。
「私、目が悪いの。
よく、よく顔を見せて。」
柔らかくて暖かくて、か細い手。
抵抗もなくその手を受け入れる。
「ありがとう、ごめんね。」
「いや、別に。」
彼女は視力が弱いらしく、メガネをかけてもどうしようもなく見えないそうだ。
だから常に誰かが彼女の側にいる。
取り巻きだと勝手に思っていた自分が恥ずかしい。
取り巻きで思い出したが、
自分のクラスに来た転校生が同じ名字で、雰囲気も似ている事を思い出した。
ある程度納得した。
本当は屋上まで登って星を見せたかったが、
今夜はあいにくの曇り空なので、部室内でレクリエーションを混ぜながら活動内容を説明した。
「今日はありがとうございました。
お茶もとっても美味しかったです。」
下校時刻になった。
これ以上は教員の許可が必要だ。
「お口に合って何よりだよ。
またいつでも遊びにおいでよ。」
「今度は晴れてるといいけどな。」
「はい。是非。」
コツコツとドアがノックされる。
「どうぞ」
谷谷谷谷先輩が答える。
「失礼します!」
入って来たのは件の転校生。
目の前にいる春原 香の弟、『薫』。
「さあ、帰ろうか、姉さん。」
部員達の顔を一瞥して、颯爽と手を差し出した。
「いつもありがとう。」
薫に手を引かれてゆったり立ち上がる。
「当然だよ。」
何故か俺に向かって得意げな顔をする。
「弟の薫です。よろしお願いします。」
「春原 薫です!
まだ転校したてで色々迷惑かけるかもしれませんが、姉共々よろしくお願いします。」
「おう、よろしく。」
「うん、よろしくね。
出来た弟さんだね。」
「それほどでも。」
俺と未鏡さんは、軽く会釈だけした。
「それでは皆さん、失礼しますね。」
「気をつけて帰ってね。」
「お疲れさんです。」
「さようなら。」
荷物は全部薫が持って、そのまま手を繋いで帰っていった。
「あれが噂の美男美女転校生か…」
下駄箱で田淵が意味深に呟いた。
「感想は?」
「たぶん俺とはあんまり関わりにならない人種かなーって。」
「どういう意味?」
「そのまんまの意味。」
「ふーん。まあ、いいけど。
で、『鈴本』くんは?」
「え?俺っすか?
まあ、強いて言えば田淵に同意かなーって。」
「流行ってるの、それ?
未鏡さんは?」
「普通の絵に描いたような微笑ましい姉弟としか。」
「『かなーって』って言って!『かなーって』って!」
小声で未鏡さんに促す田淵。
「今の台詞を噛まずに3回言えたらいいですよ。」
「かなーってってってっ言って、かなーってっって」
予想通り言えるはずもなく。
「先輩は?」
「俺?うーん、
やっぱり兄弟っていいなぁーって、ところかな。」
「そうですかね?」
「そうだよ。」
「金ちゃんも言ってみて!早口3回!」
「否くんがちゃんと3回言えたらね。」
「ケチ!!」
今日も賑やかな部活の帰り道だった。
そんなわけで転校生姉弟。
姉が春原 香 3年生。
ずっと転校生表記だった弟の春原 薫 2年生。
これでメイン役者はほぼほぼ出揃った感じです。
今後ともよろしくお願いします。




