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今際の夢  作者: lycoris
今際の夢
63/140

「ありがとうございます、ここです。」

見覚えのあるようなないような家に着いた。

「良かったらお茶でもどうですか?

お礼に。」

「お父さんお母さんは今居るの?」

「…。」

首を横に振った。

「今は居ないから。

ね?」

断れなかった。


「お邪魔します。」

「どうぞ、くつろいでください。」

我が家よりも生活感のある家だ。

他人の家の匂い。

初めてじゃない気がする。

「お腹空いてませんか?」

「さっき食べてたからそんなに。」

減ってないと思う。

「朝は食べたんですか?」

「あー、そういえば食べなかったかも。」

「ならちゃんとしたものを食べないともたないですよ。」

「て言っても午後もダラダラしてるだけだからいいんだけどさ。」

「ダメですよ。

それにこれはお礼なんですから。」

「うーん、そこまで言うなら。」


「何か手伝おうか?」

「いいですよ。

昨日の作り置きですから。」

「あ、そう。」

「ちゃんと私が作ったんですよ?」

「あ、はい。」

「さあさ、もうすぐ出来ますから座ってくつろいでいてください。」

「運ぶくらいは。」

「いいですからいいですから。」


「どうですか?」

「美味しい美味しい。」

「良かったです。」

すごく眩しい笑顔だ。

「でも、自分の分はいいの?」

「昨日食べましたし、それに見てるだけでお腹一杯ですよ。」

キラキラしている。


「ごちそうさま。」

「お粗末さまです。」

「片付けくらいはやらせてよ。」

「いえいえそういう訳には。」

「いや、さすがに…」

「いいんです。私がやりたくてやってるんです。」

つくづくこの子には弱いようだ。


「それじゃあお願い。」

「まかせてください。」


「それじゃあなんかいろいろごめんね。」

「何で謝るんですか。

居てくれるだけで私は嬉しかったですよ。」

「今度何かお礼するよ。」

「期待してます!

また来て下さいね。」

「お邪魔しました。」


別れを済ませて、

まっすぐと帰路についた。





「そういえば、あの子の名前。」

「ま、きっとまた会うでしょ。」

「うん、そんな気がする。」

「あっ、お礼はどうしようか。」

やっぱり戻ろうと思ったけど、

やっぱりやめた。

きっとまた会えるから。

その時に。



「痛っ!」

と、考え事しながら歩いていると人の頭を蹴ってしまった。

「あ、ごめんなさい!」

「割と痛い。結構痛いぞ少年。」

「すみません、考え事してたから周りをよく見てなくて。」

「悩みごとか?」

「あ、いや、そういう訳じゃないですけど。」

「そうか、そうか。

悩め、悩め少年!

それが、それこそが青春だ!!」

「あ、はい。」

何だこの人は。

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