遺
「ありがとうございます、ここです。」
見覚えのあるようなないような家に着いた。
「良かったらお茶でもどうですか?
お礼に。」
「お父さんお母さんは今居るの?」
「…。」
首を横に振った。
「今は居ないから。
ね?」
断れなかった。
「お邪魔します。」
「どうぞ、くつろいでください。」
我が家よりも生活感のある家だ。
他人の家の匂い。
初めてじゃない気がする。
「お腹空いてませんか?」
「さっき食べてたからそんなに。」
減ってないと思う。
「朝は食べたんですか?」
「あー、そういえば食べなかったかも。」
「ならちゃんとしたものを食べないともたないですよ。」
「て言っても午後もダラダラしてるだけだからいいんだけどさ。」
「ダメですよ。
それにこれはお礼なんですから。」
「うーん、そこまで言うなら。」
「何か手伝おうか?」
「いいですよ。
昨日の作り置きですから。」
「あ、そう。」
「ちゃんと私が作ったんですよ?」
「あ、はい。」
「さあさ、もうすぐ出来ますから座ってくつろいでいてください。」
「運ぶくらいは。」
「いいですからいいですから。」
「どうですか?」
「美味しい美味しい。」
「良かったです。」
すごく眩しい笑顔だ。
「でも、自分の分はいいの?」
「昨日食べましたし、それに見てるだけでお腹一杯ですよ。」
キラキラしている。
「ごちそうさま。」
「お粗末さまです。」
「片付けくらいはやらせてよ。」
「いえいえそういう訳には。」
「いや、さすがに…」
「いいんです。私がやりたくてやってるんです。」
つくづくこの子には弱いようだ。
「それじゃあお願い。」
「まかせてください。」
「それじゃあなんかいろいろごめんね。」
「何で謝るんですか。
居てくれるだけで私は嬉しかったですよ。」
「今度何かお礼するよ。」
「期待してます!
また来て下さいね。」
「お邪魔しました。」
別れを済ませて、
まっすぐと帰路についた。
「そういえば、あの子の名前。」
「ま、きっとまた会うでしょ。」
「うん、そんな気がする。」
「あっ、お礼はどうしようか。」
やっぱり戻ろうと思ったけど、
やっぱりやめた。
きっとまた会えるから。
その時に。
「痛っ!」
と、考え事しながら歩いていると人の頭を蹴ってしまった。
「あ、ごめんなさい!」
「割と痛い。結構痛いぞ少年。」
「すみません、考え事してたから周りをよく見てなくて。」
「悩みごとか?」
「あ、いや、そういう訳じゃないですけど。」
「そうか、そうか。
悩め、悩め少年!
それが、それこそが青春だ!!」
「あ、はい。」
何だこの人は。




