シャットアウト
年が明けて、冬休みもあっという間に終わった。
件の彼はあの日からこの部室には姿を見せていない。
杏くんとは何やら話をしているらしいが、何かは教えられないそうだ。
あの日_彼が入部した日。
彼という人が変わった日。
その次の日。
晴。
いつもの部員が揃ったのは8時54分。
いつも通りそれぞれに紅茶を配る。
3人分を配り終わっていつもの自分の席に座った。
本当ならここにもう1人増えるはずだったのだが。
いつもは猫舌だからと時間をかけて飲む杏くんが今日は一口に飲み干した。
「じゃあ行こうぜ。」
いつもと覇気が違った。
「そうだね。御鏡さんは?」
「全員で行く必要は無いですよね?
それに今日は寒いのでここで待ってます。」
そう言い終わると手元の小説に視線を戻した。
気温は昨日とさほど変わりはなかった。
職員室で彼の担任から彼の事を聞いた。
「先生のクラスの鈴木くんなんですけど」
「ん?」
「先生の目から見て彼は他の生徒と違う所ってありますか?」
「鈴本の事か?」
「…そうです。」
「いや、特には無いと思うけどな。
別段、運動が出来る訳でもなく、成績も優秀ってほどじゃないが。」
「そうなんですか。」
「鈴本がどうした?」
「部活動に、まだ同好会ですけど、
勧誘しようかなと。」
「あー、なるほど。
まあ悪い奴じゃないと思うぞ。
がんばれ。」
「はい、ありがとうございました。」
その後彼の教室に寄ってから部室に帰った。
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
御鏡さんのカップは空だった。
「お代わりはいるかい?」
「あ、
ありがとうございます。
お願いします。」
彼女にしてはいつもよりも読むペースが遅い気がした。
「はい、どうぞ。」
「いただきます。」
「俺のもお願い。」
「はいはい。」
そうしてみんなが2杯目を飲み終わった頃に、
御鏡さんが切り出した。
「それで、どうでした?」
「どうもこうも彼が言った事は事実だった。
先生に聞いても、クラスの席表も見てきたけど、
そこに『鈴木 修也』の名はなかったよ。」
「明らかにおかしいよな。
こんなの。」
「僕もこれで結構動揺してるよ。」
事実2杯目の紅茶は多めに砂糖を入れたが、
普段と変わらないどころか、意識しないと味すら感じなかった。
「…。」
御鏡さんは何かを考えるように手元を見つめていた。
杏くんは、
「これはもうオカルトだよな。」
存外に、予想していたよりは喜んでないように見えた。
だから聞いて見た。
「嬉しくないの?」
「いや、ただ驚きの方が勝っててさ、
いや、それでもまだ実感が無くって、
まだ夢なんじゃないかって、現実味がなくて、
今だってさ、いつも飲んでる金ちゃんのお茶の味も分からなくってさ。」
明らかに取り乱してるのが分かった。
ただ、意外だった。
「なあ今は朝で俺たち起きてるよな?
自分で制服着て自分の足でここまで来たよな?」
何かが告げている。
「昨日は屋上に居たよな?
あの日だって花火してだよな?
わざわざ担いで運んだよな?」
これ以上は_
「あの時、だってあの時「杏夜!!!」
みっともなく大声を上げて、
持てる力で机を叩いた。
「あ_あ、あれ?あっ…ああ…、ああ。
ごめん。」
一呼吸置いて謝った。
「…こっちもごめん。」
杏くんの中で何かが一巡したようで、
「金ちゃん、お代わりちょだい。」
あからさまな作り笑顔だった。
杏くんが僕に作り笑顔を見せたのはこれが初めてだった。




