手料理
とりあえず、誰か大人が付いてれば料理していいと言う事で、何もしない、もとい出来ないが、まあ見守る事にした。
包丁捌きは割と様になっていて、およそ先生の娘とは思えないほど器用で丁寧だった。
玉ねぎなんてあっという間に微塵切りだ。
てか、微塵切りってそうやって切るのね。
俺は何もしてないが、それでも誰かと一緒に厨房に立つのが楽しいらしく少しはしゃいでいた。
そんな様子を見てると何だか黙って見てるのも邪魔にしかならないだろうから、邪魔にならないような手伝いを要求した。
この時だけは先生の面影を感じさせるような的確な指示で、しっかりとポイントも抑えていた。
まあサラダを満遍なく混ぜるだけなんだが。
それでも目に見えてさっきよりはしゃぎだし、泥だんごを作るかのようにしっかりとタネの形を整え、鼻歌も交えてそれを焼いている。
ハンバーグってこんないい匂いしたっけ。
かくして、何故か3人分のハンバーグが用意された訳だが。
「え?」
「?」
炬燵の上を片付けながら俺の疑問に振り向いた。
「いや、なんで3人分?」
「ん?」
「ん?」
分からない、分からない事が分からない、お互いにすれ違った勘違いをしつつも顔を向き合う。
互いに首を傾げあった時に先に蕨ちゃんが言った。
「お兄さんはハンバーグ嫌い?」
「いや?」
「良かったー!だよね、嫌いな人なんて居ないよね!じゃあ早く食べよ!お父さんのはラップしてっと。」
ああ、そういうこと。
1人分を冷蔵庫にしまうとご飯が盛られた茶碗を持って来た。
「お兄さんいっぱい食べるでしょ?」
まあ、食えない事はないけど。
「まあ、うん。ありがとう。」
遠慮せずに受け取った。
普段はがっつりしてないんだけどなぁ。
「それじゃあ、手を合わせまして!」
元気な号令がかかる。
懐かしいな。
自然と刻み込まれたその古い習慣に逆らえるはずもなく、
「いただきます。」
「いただきます!」
俺が乗ってくれたのが嬉しかったのが笑顔が満開だ。
まあたまにはいいか。
早速箸を取りハンバーグに手をつけた。
蕨ちゃんは俺の様子を緊張気味に伺っている。
箸で一口大にして、案外柔らかく切れ間から肉汁が溢れてくるのに感動を覚えて口に運んだ。
「あふっ」
普通に熱かったので舌が火傷する前に軽く咀嚼して水で流し込んだ。
「大丈夫?」
サッとティッシュ箱から1枚抜き取り差し出してくれた。
すごいこの子気が利く。
「ありがっ、げほっげっほ、う、っぐ」
急すぎて水が気管に入ってしまったらしい。
自分の胸を叩くのに必死な俺に水を差し出してくれた。
ほんとこの子気が利くすごい。
やっと落ち着いて一息着いてから受け取った水を一口飲んだ。
「あー、ありがと。」
「いえいえ。あ、ケチャップが合うんでもし良かったら。」
「あ、ありがとね。」
せっかくだからと受け取って少しだけハンバーグの上にかけた。
そして、その部分を箸で切り取り今度は少し息で冷ましてから口に入れた。
「おお、美味ぃ!」
さっきはすぐ水で薄くなったが、やはりこのハンバーグは美味しい。
ケチャップとも相性がよくさらに味が引き立ってる。
続け様に白米を口に運び、飲み込み終わるとまたハンバーグに箸を伸ばしていた。
「ふふ、良かったです。」
蕨ちゃんは得意気に笑ってから自分もケチャップをつけて食べ始めた。
それからすぐというのに俺の白米がなくなったのに気付いて、
「ご飯のおかわり要りますか?」
「おお、ありがとう!じゃあ貰える?」
あらやだほんとありがたい。
申し訳ない気持ちより先に出て来た。
家でも炊き込みご飯の時くらいしかおかわりしないが、このハンバーグは別格だね。
蕨ちゃんのより先生のハンバーグの方が大きいが意図的だろう。
そして何故か俺のが一番大きい。
それもあってか食べてるうちに自然と笑顔になってしまう。
「うん、美味しいよ!うん、んま。」
本当は言い足りないほどだ。
「ふふ、ありがと。」
蕨ちゃんも可愛らしい笑顔で自分の分を少しゆっくり食べていた。
それからも少し会話を交えながら美味い美味しいと連呼しながら食べつつけた。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでした、お粗末様です。」
「いやぁ、美味かった〜。」
「ふふ、分かりましたって。」
「いやー、ほんとありがとう。後片付けくらいなら後で俺も手伝うよ?」
「いえいえ、って言いたいんですが、どうせならお願いしちゃおうかな。」
「おぅ、任せとけ」
そういって俺が洗い場に食器を、蕨ちゃんがコップや箸を
運んだ。
「それじゃあいい時間だし俺は帰るよ。」
食器を洗い終え、乾かし台に整理して置く。
濡れた手を掛けてある手拭いで拭いて時計を見るとそんな時間だった。
「あ、そうですね…」
「うん…」
なんとなく反射で頭を撫でてしまった。
「…ふふ」
寂しそうにしていたが撫でたら照れ臭そうにした。
どう、いや俺からみたら嫌がってるようには見えないのでとりあえず安心した。
「また来るよ、テストも近いし。」
笑って見せた。
「うん!待ってるね。」
「はは」
今度はこっちが照れ臭くなってしまった。
それからちょっと撫でて、自分の片付けを済ませ玄関で靴を履いた。
「じゃあ、またね。」
「うん、待ってるからね!」
小さく手を振ったのに帰ってきたのは大振りだった。
「先生によろしく。おやすみ、お邪魔しましたー。」
「おやすみー!」
扉が閉まるまで手を振りかえし、あとでちょっと恥ずかしくなったが、悪くはないかもとも思った。
にしても気持ちのいい子だな。
元気で健気で、うん、危うくロリコンになっちまうぜ。
いやいや。まあ、いいや、寒いしささっと帰ろ。
冷える手をポケットに仕舞って襟元に首を隠して白い息を吐いて早歩きで帰った。
気分がいいから。
不定期とはいえだいぶ間が空いてしまってすみません。
気分が定期更新 (のつもり)分よりも乗らないことが多くこれも社畜のせいでございませんす。
人のせいにするのはあまり良くないですね。
今後の展開も一応は決まってるのでそれに沿えるように頑張って行きたいです。
また、たまに覗いて見てください、更新してるかもしれません。
今回も読んでいただきましてありがとうございます。
よろしければ次回でお会い出来ることを楽しみにしております。
それでは
久々なので少し違和感やミスがあると思いますが黙認の上ご了承いただけると非常にありがたいです。
それではでは