展覧
こんな時、どうやって声をかければいいのだろう?
分からなかった。
彼女はこちらに気づく様子もなく泣き続けている。
そんな彼女を呆然と見つめるしか出来ない。
その後、警察がやって来て補導された。
その時になって初めて彼女は俺たちの存在に気付いた。
「ごめん」そんな言葉は出なかった。
本当に何すればいいのか分からなかったから。
次の日、七海の家に忘れ物をしたのに気付いた。
取りに行ったが今はバイト中だった。
帰り道に公園に立ち寄った。
そこに猫の死体はもう無かった。
ただベンチに座ってると、数田さんに似ている女の子、おそらく妹がそこに居て、手を合わせていた。
声をかける事もない。
ただ見ていると汀が代わってくれと言った。
どう代わればいいかなんて、この際今さらだった。
いまは
ただ力を抜いて
なんて事はない
何も考えない
何も思わない
ただそこで
俺は
僕は
消えるだけ
ただ夢を見るように
おやすみ
後は
……
…
それがどうしてこうなった。
目が覚めた頃にはバスに揺られていた。
隣には数田さんの妹、名前は三四五と言うらしい。
「おはよう。」
「…おはよう…」
「あっ、今はどっちなの?」
「?何の話?」
「あなたは陰府乃くん?」
「いいや、鈴木の方だ。」
「あっ、すみません。」
「いや、いいよ。」
…
気まずい。
何でこの状況で代わったんだ。
と言うか、どういう状況だよこれ。
「あ、あの、今どこに向かってるの?」
「彼は美術館に行くって言ってましたよ。」
「なんで?」
「チケットがあるからって。」
「え?あっ、そういえばそんなのあった。」
財布の中にはしっかりと入ってた。
「絵に興味があるの?」
「一応、美術部なので。」
「あ、そうなんだ。お姉ちゃんとは違うんだね。」
「姉はぐうたらですから。」
「あはは。」
「先輩は何か部活やってるんですか?」
「いや、
帰宅部だよ。
同好会に誘われてるけどね。」
「入らないんですか?」
「入ってもいいけど…」
「けど?」
「拘束されるのが嫌?」
「お姉ちゃんと同じこと言いますね。」
「え?本当?」
「ええ。」
微笑んだ顔がそっくりだった。
「そろそろ着きますね。」
「降りる準備しないとね。」
それから美術館を巡って、
そこで一つの絵の前で足が止まった。
自分がモデルになった絵が、大賞として飾られていた。
後ろにいた三四五も立ち止まって見とれていた。
「すごい絵ですね。」
「すごい人が描いたからな。」
「知り合いですか?」
「いや、この人にここのチケットを貰ったんだよ。」
「そうだったんですね。」
「うちの美術部の部長さん。それ以上は知らない。」
「どうやって貰ったんですが?」
「…恥ずかしいから言わない。」
「余計に気になります!」
「じゃあ、誰にも言わない?」
「はい!」
「えーっ!?本当ですか?」
「うん。信じなくていいよ。」
「いやいや、疑ってないですよ。
へー、じゃあこの女の子は?」
「俺が来た時には、既に絵の描き途中で、
そこに俺が加わったんだと思う。」
「でも、手を繋いでますよ?」
「その場には俺と先生と部長の3人しか居なかったんだけど。よく分からない。」
「先輩は女の子と手を繋いだ事があるんですか?」
「さすがにあるよ。まあ、昔だけどね。」
「つまり今は彼女さんはいないんですね。」
「今までもね。」
「そうなんですか。」
「そっちは?」
「どう思います?」
「居るんじゃない?」
「何故ですか?」
「それは…その…可愛いから?」
「ありがとうございます。
でも居ないですよ。」
「居なくなっちゃいました。」




