セレクト
体育館は意外と埋まっていて、
後ろの方でやっと空いている席を見つけた。
俺は裏方の、それも手伝いで、別に役者じゃない。
自分にそう言い聞かせて開演を待った。
役者じゃないのに、始まるまでのこの間がソワソワする。
演じるわけでもないのに、失敗しないか緊張する。
流れは知ってるのに、それでもワクワクする。
照明が消えた。
それと同時に周りの話し声も自然としなくなる。
ピタッと止んだ途端、聞き覚えのある声がした。
体育館に響く秋悟の声。
聞き飽きたセリフに高揚する。
周りに聴こえないように口ずさむ。
スポットライトが灯り、そこに部員たちを照らす。
彼らは代わる代わる役を演じてゆく。
次第に俺が手伝った小道具や背景が登場する。
自分で作ったのが嘘のように見える。
それを上手く活用して劇が進む。
秋悟たちの演技に引き込まれ、気が付けばもうクライマックスだった。
「行かないで!私を置いていかないで!!」
秋悟は本当に泣いていた。
「他に何も要らない!貴方が居れば!私はそれでいい!」
手を伸ばす秋悟。
「行かないで…」
その手をとる者は居なかった。
「私は!!!」
照明は消えている。
予定ではそこで終わるはずだった。
「私には…もぅ、貴方しか…」
慌てて点いた照明。
が、そこに秋悟は居なかった。
再び照明がフェードアウトする。
間を置いて終了のアナウンスが入る。
ドタドタと舞台の上に並ぶ部員たち。
そこに俺は居ない。
そこに俺は行けなかった。
盛大な拍手を受け、お辞儀をする。
秋悟が一歩前へ出て謝辞を述べる。
その間に席を立った。
向かうのはもちろん楽屋裏、体育館の袖。
着いた頃には会場内は解散を始めていて、
壇上も片付けで騒然としていた。
部員たちに指示を出してる秋悟を見つけた。
「
歯ぁ食い縛れ!
」
振りかぶって思いっきり秋悟の頬を殴りつけた。
勢いのまま秋悟は床に伏した。
「てめぇ、何のつもりだ?」
他の部員たちが様子を見て駆け寄ってくる。
「お前が悪いんだろ?
皆は作業を続けてくれ。」
部員たちを制して立ち上がる。
「お前がそれを選んだ。
こっちじゃなくて、そっちを。
選んだら、選ばれない。
それでもお前は…」
「お前に、選んだ者の気持ちが分かるか!?」
「お前に選ばれなかった者の気持ちが、分かるか!!?」
「お前は、お前は選ばなかったんだろうが!」
「それでも俺は選ばれなかった!
俺はお前じゃないんだよ!!
選ぶ側じゃないんだよ!!」
「俺だって選ばされたんだ!
それでも俺は選んだ!!
お前達に恨まれてもいい!それでも!それでも!!
…選んだ…!」
秋悟の拳が俺の頰を叩いた。
「なら!なんでお前がここに居るんだよ!
お前は誰だ!?」
「俺は…俺は…」
「あ ̄」
「_俺は陰府乃 汀だ…」




