再訪問
「うわっ!?」
「きゃっ!?」
「うぉっ!?」
俺が驚いたのにつられて部屋中のみんなが驚いた。
「どうしたんだ、急に。」
「いえ、ちょっと驚いただけです。すみません。」
「なーんだ。」
少女はお菓子に手を伸ばした。
「心臓に悪いだろうが、まったく。」
何だこれ。
何でこんな中年の家にこんな女の子がいるんだ?
確か、先生は離婚していて、親権も母親側に取られたはずだったから娘なわけないよな。
不法侵入か、誘拐か、それともまさかの幽霊か。
何にせよ先生があまりも自然すぎる。
幽霊の線が濃厚か?
仮に娘だったらもっと甘やかしたりするはずだ、話を聞かされてる限りは。
この子も普通に菓子をパクパク食べてるし。
と言うかいつのまに半分も減った。
茶菓子にしちゃ量が多いし種類も何個かあった。
この子の事も考えてか?それとも俺が男でちょうど夕飯時だからか?
たぶん前者だろうが、娘なら甘やかすよりも先に俺に自慢してくるはずだ。
何がどうなってる。
少し不気味さを感じたので、早く帰りたくなった。
「あの、お茶美味しかったです。せっかく呼んでいただいのですが、長居するのもあれだし晩飯前なのでこれで帰らせて貰います。」
「え?もっと長居してもいいんだぞ。分からないところとかあるんだろ?」
頼む、察しろとは言わないから黙って俺を解放してくれ。
「いや、あまり遅くなるのも家に迷惑になるんで俺はこれで。」
「まあ待てよ。親御さんには俺が連絡しといてやるから、もう少しゆっくりして行けって。今から晩飯も作るし、お前も腹減ってるだろ?」
しつこいよ!娘の話と同じくらいしつこいよ!早く解放してくれよ頼むから!
この後に及んで俺の腹が鳴った。なんてことはなく、代わりかのように湯のみの倒れる音がした。
「あっ!」
少女が驚きの声をあげた。
手元のちゃぶ台を見ると、零れたぬるめのお茶が俺の服の袖を濡らしていた。
「うわっ!」
反射的に濡れた袖を持ち上げて確認しようとした。
その瞬間、またも湯のみが倒れる音がした。
腕を上げた時に近くに置いてあった俺用の湯のみを倒してしまった。
最悪なことにそのお茶は更に俺の服を濡らすことになった。
麦茶だからって飲み残したのが…と言うか何気に俺がほうじ茶について語ってる時に先生が継ぎ足していたような。
さらにちょうどその後くらいに少女が現れていた。
ってことは俺が見落としてただけか?
「あーあーあーあー。えーっと、ほれ、これで拭け。」
部屋中が慌ただしくなったが、先生が手拭いを貸してくれて、それで濡れた部分を拭いた。
殆ど手遅れだったが、応急処置にはなった。と思う。
「大丈夫か?シミにはならないと思うけど、風邪を引いちゃいけないから、飯はまた今度食いに来い。残念だが今日はもう帰った方がいい。」
何はともあれ、帰る口実が出来てよかった。
手早く荷物を片付けて立ち上がる。
「はい、そうします。家もあまり遠くないのですぐに帰って風呂に入ります。それでは、さようなら。」
「ああ、忘れ物があったら明日届けるから。」
玄関で靴を履く時に振り返ったら、少女がこちらを心配そうに見つめながら小さく「気をつけて」と言った。
「お邪魔しましたー」
「おう、じゃあな。」
「さようならー」
俺が退室の挨拶をすると、先生が威勢よく、少女は小さく手を振りながら返事した。
先生の家を出て、早歩きで家に帰る。
実際は遠くないではなく、以外と近い。だった。
ただ、先生とは学校への行き道が違うようで、数回曲がれば鉢合わせしてもおかしくなかった。
今まで偶々だったのか、通学中に先生と出くわしたことはなかった。
家を出る時間が違うということもあるし、様々な要素が合わせないようにしたのだろう。
そんな事より、俺の頭は先生の家で見た少女が大半を占めていた。
あの少女は何者だ。
先生とどう言う繋がりか。
最悪通報もありえる。
この時の俺の脳内には先生の娘という考えはなかった。
だが、帰って風呂に入って母親に「なんだ、遅くなるんじゃなかったの?」と言われた辺りで今日起きたことのほとんどを忘れていた。
翌朝、呑気に登校して先生の顔を見るまでは。
そして、今日も家に誘われ、真相を探るためにもお邪魔することにした。
不定期なので、今回はたまたま1週間以内でしたが、今後はどうなるか、わかりません。
とりあえず、ここまでお付き合い感謝です。
次回もそのうち更新しますので。
それでは