寒くて甘くない
「はぁ…」
ため息をつきながら帰る。
手持ち無沙汰な手をポケットに入れて。
今日は無駄に疲れたなぁ〜…
薄っすら見える月を見上げる。
こんな時間まで学校に居たのは久しぶりだな。
今回は赤点無しだったから、前回の補習以来かも。
だらだら歩いていると、蕨ちゃんを見かけた。
こんな冬だって言うのに涼しそうな格好をして。
それにこんな時間に1人で出歩いているなんて。
少し跡を追ってみたがすぐに見失った。
あれ?どこ行った?
あれ?ここどこだっけ?
あれ?すぐそこは知ってる道なのに?
あれ?
_______
「んっ」
度々、手にザラザラした感触がする。
「ぁん?」
猫が俺の手を舐めていた。
撫でようとしたら躱された。
猫は少し距離を取ってから、自分の顔周りを掃除し始めた。
ちょっとでも触ろうとすれば手を止めてこっちを警戒する。
よく見ると首輪が付いてる。
その癖にこんな警戒してるのかよ。
ま、猫なんてそんなものか…
「ん…」
それにしても力が入らないな。
いつの間にこんなとこにもたれて座ってたっけ?
何やってたっけ俺?
「あれ?」
「ニャー!」
女の子の声がすると思ったら猫はそれを聞いて逃げ出した。
猫すら逃げ出す女の子。
近づいて来る。
手は少し動かせる癖に首すら動かない。
誰だ?
「こんなところで何してるんですか?」
聞き覚えがなくもないような声。
「ぁ…、…っ…」
口も舌も動かない。
眼を動かしても映るのはウチの学校の制服だけ。
「あの、大丈夫ですか?」
「…っ
… 」
差し出された手。
今持てる全ての力を集中してその手を、
取れなかった。
惜しくもない。
「…あ____」
腕がほんの少ししか上がらない。
瞼も重くなってきた。
こんな時だってのに、寒い。
すごく寂しい気持ちがする。
「あの!本当に大丈夫ですか!?」
女の子は俺の手を取った。
「ひっ!」
だがすぐに離した。
暖かかったなぁ…
「あ!!」
また手が握られる感触がした。
暖、か、い、?
「ダメっ!!」
夢を見ている。
誰かと手を繋いで歩いている。
誰だろう。
この手を握るのは誰?
目が醒めると手は温もりがあった。
今度は力が入る。
誰かの手の感触がする。
身体を起こすと知らない部屋に居た。
どこだ?
「起きたか。」
誰だ?
「…」
「…」
机で勉強してた女の子と目が合う。
「んで、あんた誰?」
先に聞かれてしまった。
「俺?…鈴木 修也。」
今日はよく自己紹介する日だ。
「何してたの?」
「え?…っと?なんだっけな…?」
思い出せないな。
今日あった事もほとんどぼんやりだ。
「たしか…学校から急いで帰ってて、その後…?
なんだっけ?」
「ウチが知るわけないじゃん。」
まあそうだよな。
「思い出せないな…。
ここはどこなんだ?」
こんなセリフを言う日が来るとは。
「ウチん家。」
「…なんで?」
「知らないよ。そいつに巻き込まれたの。」
首で差した先を見ると、女の子がベッドに突っ伏して寝ていた。俺の手を握ったまま。
かすかに見覚えがあるな。
「すごく心配してたよ。」
「そうなんだ。」
急に小っ恥ずかしくなってきた。
だって向こうが手を離してくれないんだもん。
「んで、そろそろ帰ってくんない?」
あ、そういえば。
「悪いな。所で今何時?」
女の子を起こさないように慎重にベッドから降りる。
「11時。」
「マジ!?」
俺の大きな声で手を握ってる女の子が起きた。
「マジ。だから帰ってくんない?」
「わ、分かった。」
その前に一旦状況を整理しよう。
学校からの帰り道。
そこからの記憶が無いが、
気が付いたら知らない女の子の家で、
かすかに見覚えのある女の子に、
手を握られながら寝ていた。
ふむ。
サッパリだ。
まあいいや、帰ろう。
フと、握られていた手が離れた。
「あ」
振り向くと、たしかオカルト天文同好会に居た御鏡さんが居た。
どうやら彼女がずっと俺と手を繋いでいたようだ。
「おはよう、ございます。」
握っていた手を後ろに隠して挨拶した。
「お、おはよう。」
その手でわざとらしく頭を掻きながら返した。
「…」
「あ、七海ちゃんおはよう。
ありがとう。」
「いいよ、気にすんな。」
「ううん。今度絶対お礼するよ。」
「おう、じゃあ期待しとくわ。」
「あ、じゃあ俺もなんかするよ。」
「…」
え、なんで俺だけノーリアクション?
「邪魔してごめんね。私も帰るよ。」
「こんな時間だしウチに泊まってくか?」
「え、いいの?」
「1日くらい気にすんなって。」
…まあ男の俺はさっさと帰りますよ。
荷物を探したが、そういえば無いのを思い出した。
掛けてあった俺の学ランを着た。
「じゃあ、お世話になりました。俺は帰るよ。」
「おう。気を付けろよ。」
「さようなら、また。」
…二人ともいい子なんだな。
浅はかな期待は所詮、儚い物のようだ。
知ってる道までの道程を聞いて、
補導されないように注意しながら帰った。
当然、帰ったらめちゃくちゃ叱られた。
そんな訳で「陰府乃 七海」ちゃんですね。
御鏡ちゃんの友達で一人暮らし?です。
根は良い子です。




