今際の際 杏夜 九 決意
「ありがとう。話してくれて。
絶対に無駄にはしないよ。」
「うん、よろしくね。」
「他に私で力になれる事があれば教えてね。
鈴木くんには恩があるから。」
やっと少し見えてきたかもしれない。
そんな期待に胸が高鳴って、
金ちゃんに相談するか悩んでいる間にいつの間にか、
その日が来てしまった。
金治への相談を躊躇していたのは未だ宿題の答えが出ていないから。
場所は、駄菓子屋、もとい望月 望の祖母の家。
時間も覚えてる限りと変わりなさそうだ。
2人が店の奥の部屋に行く。
きっとそこで望の祖母が亡くなるのだろう。
2人について行こうとすると隙間から少女がすっと入っていった。
それに続いてついて行くと、布団で眠っている老婆。
この人が恐らくは_
「おばあちゃん遊びに来たよ!」
少女が声をかけても返事は無い。
素人目に見ても息をしている様子は無かった。
「おばあちゃん寝てるの?」
少女が顔を覗き込む。
「おーい?」
「ねえ、」
杏夜に問いかける少女。
「おばあちゃん寝てるの?」
「…。」
返事に迷いながら、首を横に振るしか出来ない。
「起きてるの?反応が無いけど?」
それでも首を横に振るしかない。
「ねぇ、ねえ、おばあちゃん、
おばあちゃんどうしたの?
起きて、起きて、」
見下ろす瞳が熱を帯びる。
「おばあちゃん起きないよ、どうしよう?」
戸惑う少女に、
「これから救急車を呼ぶから、ここに居てね。」
冷静を装って落ち着かせようとする。
俺はこれからこの少女を見捨てて、
この夢を終わらせないといけない。
悠也と望がいる部屋に向かう。
中には自分の胸に包丁を突き立てる悠也と傍で項垂れる望。
2人ともこちらに反応を示さない。
悠也は今際の夢をみているんだろうが、
望には目立った外傷はなく、反応も無い。
誰かの為に誰かの夢をみる。
きっと、
望の為に望の祖母の夢をみているのだろう。
修也の願いは、…
「きゃぁぁあ!!」
甲高い悲鳴が耳を劈く。
振り返ると少女が居てパニックを起こしていた。
その場で泣き崩れ、ヒステリックに悲鳴をあげ続ける少女。
さすがに気がついた望。
「え?蕨ちゃん!?
どうして?」
周囲の状況を悟った望は、咄嗟に少女に駆け寄った。
「大丈夫だよ、みんな生きてる。
みんな生きてるから、ね。
泣かないで、ね、」
取り繕う暇もない程の一大事。
さっきの祖母に比べると確かに息をしている悠也。
この状況で未だ眠りこくっているが、
現状の把握が追いつかない。
「望月、とりあえず救急車呼んだほうがいいか?」
「いや、呼ば、
呼んでくれ!
台所に受話器があるから取ってきてくれ!」
「わかった!」
宥める望の後に台所に向かう。
「アレだな。」
受話器を見つけて手に取る。
開いている戸棚の包丁が目に入った。
「……。」
救急車の対応を望に任せる。
望にしがみ付く少女と未だに冷めない悠也。
悠也の下にはタオルが敷かれていて、
澄み渡る鮮血の赤。
意識をしだすと鉄の匂いが鼻につく。
まだ生きている?
修也の願いは死ぬ事か?
誰かの為に死ぬ事か?
誰かの願いを叶える事か?
それが死ぬかもしれなくても誰かの願いを叶える事なのか?
それは今際の夢でなくてはいけないのか?
どうして願いを叶えたいのか?
今、こいつを起こして問いただすか?
「や、め、、ろ、、、」
「お前は悠也か?
お前は修也か?」
「…、…、、」
「願いは何だ?
ここで俺がトドメをさすことか?」
「ち が、 う、
「じゃあ
どうすればお前を救えるんだ?」
「そんなにも願いを叶えるお前の願いはどうすれば叶うんだ?」
「まだ、わかっ、ない、 っ。」
「ああ、」
今出来る、残された手段、
半信半疑だが、
全てを無駄にしないために、
やってみる。
包丁を自分に向け胸にかざす。
目を瞑って振りかぶる。
出来ない。
出来るはずがない。
痛いに決まっているから。
何の保証もない、無駄死にになるかもしれない。
そんな恐怖に怯え足がすくむ。
それでも、と もう一度大きく振りかぶる。
背中を強く押される。
反動で包丁が肉を刺す。
当然痛みが走る。
感じたことのない激痛。
痛みによって現状を把握する。
「迷っていたなら背中を押すよ、友達だろう?」
険しい顔をした金ちゃんが居た。




