八 今際の夢 杏夜編
「後はあいつの願いについて、だね。」
「うん、そうだね。」
「…その手掛かりも掴んでるの?」
「うん、少しは、ね。」
「それって、「ねえ杏ちゃん。」
「?」
「今の杏ちゃんて、
今までの杏ちゃんじゃないんだよね?」
「?
どういう事?」
「ずっと引っかかるものがある。
君が好きなタイムリープする作品。
それを僕が好きになれない理由がある。
覚えてる?」
「…タイムリープされたその元の人間の今までの全てを否定しているから?」
「そう。
記憶を共有していようと、魂が同じだろうと、
それでもそれは違うものだと思う。」
「…。」
「それに、残されたものはどうなる?」
「意識を飛ばした後の身体はどうなる?
抜け殻には何が残る?
意識を乗っ取った先の元の意識はどうなる?
それはどこへ行くのかな?
今の杏ちゃんなら、分かる?」
「…分からないよ…。」
「現に君は、そうなんだろ?」
「ぅ、うん。
そこまで考えた事はない、けど。」
「じゃあ、考えて。
それを宿題で。
期限はいつまででもいいよ、僕は待ってるから。」
金治の言葉を反芻する。
分からないことが増えただけなのか、
それが分かれば答えに近づくのか。
焦燥感に駆られ、もどかしい。
痒いのに手が届かないように。
死にたいのに自分の手では絞められない様な。
こうして悩んでる間にも期限が迫っている。
結局、金ちゃんにははぐらかされたままだったので二度手間だが、自分でも数田さんに聞き取りに行く事にした。
今は少しでも手掛かりになるなら動く。
裏を返せばそれしか出来ることが思いつかない。
「確かに訊かれたね。」
「なんて答えた?」
「ええとね、まず、どうしてそれを知りたいの?」
「…信じられるか分からないが」
周囲に気を配って声を下げる。
「近いうちに悠也が自殺するから。」
気取られないように真剣に答えた。
数田さんは首を横に振った
「ううん、信じるよ。
そっか、今度は誰の為に?」
「…大丈夫?」
呆気に取られてしまった。
そんな簡単に信じるんだ。
最初っから彼女に聞いていれば。
考えが逡巡するが、今はなによりも、
「ごめん、それが分からないんだ。
誰の為に、何の為に 皆目見当もつかない。」
「それもそっか、それで聞きにきたんだもんね。」
「悪いな、昨日に引き続き。」
「“私は知らないです“って答えたよ。」
「え!?」
「本当に知らないよ?」
「え、え、、?」
「私は今際の夢をみていないよ。
みたのは妹の三四五だよ。」
「っ!....ごめん..。」
「なんで謝るの?」
「無遠慮で浅はかだった。」
頭を下げた。
「いいよ、私の方こそ力になれなくてごめんね。」
それでも先に進まなければ
「なら、せめて知ってる事を教えてくれないか?」
「…」
「俺は修也の願いを叶えなきゃいけないから。」
「…いいよ。
私でその力になれるなら。」
「…助かる。」
数田から聞いたのは、
妹の三四五がみたとされる今際の夢に関する事。
三四五は死んだ。
恐らく自分から選んだ。
生きられる選択肢もあった。
その上で選ばなかった。
恐らくと付け加えて、『そっちを選んでいたなら、修也が死んでいた』_
修也と馴染みの先生に聞いた。
修也曰く、死ぬ間際にみえる走馬灯とは違う夢。
意識はハッキリとあってそこに介入する。
死の間際、結果は変わらない。
その最期の一瞬に入り込む。
やる事といえば話をするだけ。
その為だけの死にゆくものへの冒涜。
修也はソレを使って、最期の言葉を受け取る。
または最後に言葉を伝える。
その為に命を賭ける。
共に生きる事は出来ず、どちらかが生きる事がやっと。
ただそれだけの為に、たったそれだけの為に
生ける者が死者へ押しかける。
その結果救われるのか、その結果で救われるのか、
後は生き残った者達だけが決める。
死者への配慮は皆無。
だって どうせ 死ぬんだから と。
修也がその夢の内容を語る事は少ない。
けれど、その内容は信頼されている。
今までの行いが、今までの在り方が、
今目の前で生きている事が、それを真実だと裏付けるから。
彼の願いは分からない。、
けれど、誰かの願いの為なら夢をみる。
だからきっと今度も、
彼は誰かの為に誰かの夢をみる。
命を賭して今際の夢をみる。




