今際の夢 杏夜 5
「何を頼まれたの?」
「しょうもない事」
「何さ、それも秘密?」
「そうだよ。
でも、俺じゃあ力不足だ。
役に立てそうもない。」
「…そうなんだ。
珍しく弱気だね。」
「何度やってもダメだったから、もう、折れそうだ わ。」
「言ってよ。」
「やだ。」
「言って。」
「嫌。」
「言え。」
「や。」
左頬に平手をもらう。
「痛い?」
「…」
再び頬をめがける手を掴み上げた。
「覚えてる?
俺が屋上から飛び降りた事。」
「…いつの話?
覚えがないよ。」
「飛び降りたんだ。俺が。
春原と一緒に。」
「何の話?
どうしたの、杏ちゃん。」
「落ちたのは鈴本じゃない、俺だよ。
俺が横たわってる間にアイツは死んだ。」
「覚えてるか?
俺は思い出したよ。」
「ごめん、いつの事を言ってるか分からない。よ。
そこに僕は居た?」
「居たさ!後ろから見ていただろ!?
そこで金ちゃんは何も出来なかったじゃないか。
ただ見てるだけで、何も!」
「落ち着いてよ、杏ちゃん。
本当に覚えてないよ。」
「俺は覚えてる。
あの痛みも、恐怖も、冷たさも、
確かに覚えてると、はずなのに、」
「ねえ金ちゃん、これって夢なのかな。」
今までに何度か金ちゃんとは喧嘩をした。
幼馴染だから当然。
取っ組み合いにもなったし道具で叩いたり
物を壊したり、原因は様々だが最後には許しあって今がある。
けど、拳を顔に振るわれたのは初めてだった。
血の味がする。
「どう?痛い?」
「痛くないよ。」
「覚えてないの?」
「うん。」
「僕が君を殴るはずがない。」
「うん。」
「だから、分からないんだ。」
「…。」
「なら、これは夢だよ。」
「…うん。」
今までに殴られた事はない。
だから痛みが分からない。
「夢だから杏ちゃんは彼の代わりに飛び降りたんじゃないの?
それで彼が死んだ理由は分からない。
けれど彼が死なない為にやったんじゃないの?」
「アイツは、もうじきに死ぬんだ。
何をやっても救えない。」
「それが分かっていて君は!
そうやって君は『自分が、自分が。自分が!』って、
痛いのは自分だけ、
怖いのも苦しいのも辛いのも自分だけ!
分かっていて助けないのか?!
他人に絶望を押し付けるな!!」
「君はそんな寂しい奴じゃないだろう、杏夜。」
「…。」
「僕は覚えてるよ。
なにがあっても忘れないよ。」
「俺は…」
「僕に出来ることがあるなら力になるよ。
それだけは忘れないでね。」
「うん。」
手を差し出す金治
それを掴む。
「俺はさ、
たぶんループしてるんだと思う。」
「さっきの発言からそんな気はしてたよ。」
「どこまで話せるか分からない。」
「うん。」
「『鈴木修也と出会ってが死ぬまで』を繰り返して る。」
「…」
「今まで何回繰り返したかは分からないが、確かな のはこの期間と
…
修也が自ら命を絶つ事だけ。」
「…」
「なら、彼を生かせばこの夢は。このループ終わる の?」
「たぶん、でも、分からないんだ。
どうやっても最後には自殺を図る。」
「どうやっても止められない…ね。
今までずっと1人でやってたの?」
「うん、思い出した頃には手遅れな事が多い。」
「思い出す?」
「記憶が引き継がれるけど、最初からじゃないん だ。
最初は覚えていないから同じ事をただ繰り返し て、でもどこで何かをきっかけに思い出す。
記憶の残滓が積もって、それは段々と早くなって いるけど、まだ間に合ってない。」
「ふーん…。」
「思い出すのも覚えてるのも俺だけみたいで、
だから毎回話してもしょうがないし、
俺の見える範囲を越えると何がどう変わるか分か らないから1人で足掻いてた。」
「そう言うことね。
なら、やっぱり忘れないでよ。
僕は君の味方になる。
思い出したら話してよ。」
「うん、
ありがとう!」




